一方こちらは主犯と共犯
「それで先輩は長塚の所に行った、と。いやー情報教えた甲斐があったわー」
「あまり他人の恋路に首を突っ込むものではないと思うのだが……」
「いやあの二人は放っておいたら駄目でしょ。つかなんで長塚なのほんとあいつに先輩とか釣り合ってないわー」
市ヶ谷さんもそう思うでしょ? と同意を求められても困る。
あの二人に関しては語る舌を持たない。馬に蹴られたくはないし、詳しい事情を知っているわけでもないからだ。
「あ、次あれ欲しいですあれ。軍資金はあるんでよろしくお願いしますよー!」
騒がしい店内に負けぬ騒がしさで立川が目当てのプライズめがけて走っていく。
「……このタイプか」
有名な熊のキャラクターのぬいぐるみだ。それもかなりのサイズ。
ゴムボールにリングが引っ掛かっているのを落とすタイプだが、どうにも相性が悪いのか苦手としている方式だ。
だが、
「いやー配置考えるの捗るわー」
満面の笑みで件の景品を見つめている姿を見てしまうと、後には引けない。
両替した硬貨を入れてレバーを動かす。こういうのは一発で取るのはまず不可能だ。アームの強さや開き具合などを確認して、それから戦略を立てて数回やらなければ無理である。
こうして幾度も見ているのだからそれは分かっている筈なのだが、この後輩は常に真剣な表情でアームの動きを追っている。
アームがうまい具合にひっかかれば喜色満面に、それが外れてしまえば悲し根が表情に。ころころと変わる表情は集中力を持っていくには十分だ。
やりづらい。非常にやりづらい。何度やっても慣れない。
「うわー取れたー! さっすが市ヶ谷さんは違うわー!」
やったぜ、と落ちた景品を掻っ攫って大はしゃぎしている。
こういう姿を見れるのならば悪くない。武者修行をしている甲斐があるというものだ。
「今度先輩に自慢しよー」
さっそくぬいぐるみとツーショット自撮りをしているが、自慢する先はそこでいいのだろうか。
「しっかし市ヶ谷さん、本当にお礼とかしなくていいんですか? 昼御飯くらいは奢りますよ?」
「後輩に奢らせるわけにもいかん」
「いやーでもいつもプライズ品取って貰ってますし……」
よく変わる表情を特等席で眺める権利と、この時間。
報酬としてはこちらが貰い過ぎている。
「気にする事はない」
「えー気にしますよー」
俺は長塚ではないので流石にそんな事を口には出さないが。




