シースルー
「季節柄しょうがないとはいえ……夕立とは……」
「風邪ひくからはよう体を拭きなさい」
完全に油断していた所で夕立にやられ、ずぶ濡れになってしまった。
一番近い避難先ということで例によって例の如く部室へと避難してきた我々なのであった。
夏休みなのになんで大学に来ているのかというと、先輩が学祭の実行メンバーの一員だからだ。夏休みから準備しているとは頭が下がる。いや今まで一度も学祭に参加したことは無いんだが。
それでなんで一緒にいるのかといえば、先輩命令によって練習を兼ねて送迎を仰せつかっているからである。
「なぜ長塚後輩は出て行こうとしている?」
「いやあんた自分の格好をもう一度よく見なさい。はよう着替えなさい」
夏だからという事で薄着だし白いシャツなんて着るからもー。まったくもー。
部室には幸いにも洗濯済みジャージなどがあるので取り敢えずそれを着れば風邪もひかないだろう。
「君も濡れているだろう」
「適当にタオルで拭いときゃ大丈夫です」
いいから早く着替えろ。
「ふむ……ふむぅ……」
何やら変に考え込んでいる先輩を残して部室を出る。
「……しまった」
タオルを持って出てこなかった。まあ死ぬわけではない。いけるいける。
さらに言うなら鞄も部室の中に置いてきた。
我ながら動揺が如実に出ていて非常に遺憾である。
幸いにもスマートフォンはポケットに入れていたので暇は潰せる。
適当にログインボーナスを取得していると、ゆっくりと部室のドアが開かれた。
「待たせたね、入り給えよ長塚後輩」
先輩がドアから顔だけをだして呼びかけてきた。
「うっす」
中に入るとエアコンの風が当たる場所に先輩の服が干されている。あれなら割合早く乾くのではなかろうか。
それはそれとしてサイズのあっていない、大きなジャージを着た先輩というのはなかなか危険が危ない。いけません。袖があまって指先しか出ていないとかいけません。
「ほら、椅子に座って」
何故か先輩がぐいぐいと押してくる。
よく分からないまま椅子に座ると、頭に乾いたタオルが載せられる。
「大人しくしているんだぞ」
何故か頭をわしゃわしゃとされる。拭いているのか無造作にやっているのか分かったものじゃない。
「先輩、髪の毛弄るの好きですね……」
「そうだな、どうやらそのようだ」
機嫌が良いのでもうされるがままの方がいいかもしれない。
「ずぶ濡れになった時は意気消沈したが、こういう時間があるのなら悪くないな」
「さいですか」