そりゃあんただよ
「やはり屋台飯というのはその場の空気も含めて楽しむものだな」
「いや折角買ってきたんですから食べましょうよ」
「微妙に冷えているんだぞ……」
そう言って先輩はりんご飴を齧る。
ビニール袋に満載の焼きそばやら串物やらを押し付けて、自分は浴衣姿で優雅にデザートと洒落込んでいやがる。
「いや電子レンジで温めればいいでしょう。ここにあるんですから」
「もう胃袋の限界だ。このりんご飴も正直厳しい」
「後先考えずに買っては食べてしてそれかい」
傍若無人というよりは、単純にお祭りでテンション上がって浮かれただけなのだ。まるっきり子供だ。
「祭りは好きなのだが、人混みはどうにも苦手だ」
「奇遇ですね。まあ人混み大好きなんてやつはそう居ないと思いますけど」
先日の埋め合わせということで滅多に行かないお祭りのエスコートなんぞをして、なぜか最後にこうして例によって例の如く部室にやってきているのであったという。
「それで、なんで最期のシメがここなんです?」
古式ゆかしきお祭りなので、なんと花火までやるのがこのあたりのお祭りだ。
河川敷で打ち上げるから、てっきり見やすい場所に行くのかと思いきや部室である。
「結構有名な話なんだが、そうか、長塚後輩はまだ知らなかったのか」
いやなんとなく予想は付いてます、と言うと得意げな先輩が拗ねてしまうので言わないでおこう。
楽しんでいる所に冷や水を掛けるのは無粋というものだ。
普段は行儀が良いのに今日は立ち食いしている先輩が、りんご飴を気に入ったのかもぐもぐしながら部屋の照明を落とす。
普段は降ろしっぱなしのブラインドをあげ、窓の外が見えるように。
そう、なんだかんだ見晴らしが良く遠くからでも部室内が見えてしまうからブラインドを開けられないのだ。
いつものように椅子に座って、すっかり常温になったラムネを飲む。
口の中で気の抜けた低刺激な泡が控えめに弾けると同時、遠くの空で小さく夜空に花火が咲いた。
「意外と見えるものだろう?」
まだりんご飴をもぐもぐしている先輩が、目を細めながら言う。
「そうですね」
遅れて、か細く花火の音が聞こえてきた。
やけに静かな部室に、遠く花火の音だけが木霊する。
「綺麗なものだな」
「本当ですね」
どっちがと聞かれたら死ぬほど困る。
「それは、どちらが?」
「それ聞いちゃいますか先輩」
そういうところずるいと思う。
まじめに答えるけども。