気付き
「えーいいじゃないですか相手してくださいよセンパーイ」
「お前の相手は疲れるから嫌だ」
失敗した。こんな事になるのなら部室に寄らなければよかった。この前みたいに先輩を弄って遊べるかと思ったのだが、そういう邪心がよくないものを引き寄せてしまったのかもれしれない。知らんけど。
「いやーもうそういう反応してくれるからセンパイ好きですよ。弄って楽しめる中々の逸材ですネ」
言っている事は酷いが発している本人の顔立ちはクソみたいに整っている。正直先輩レベルだ。余計に腹立つ。
このクソ生意気なのは部室利用者の中でも最年少、まだ酒も吞めないひよっこの後輩である中野だ。
外見は凄くいい。認めよう。性格的に気に入らないからといって事実を曲げてはいけない。中身に反して見てくれは良い。実際人気があるとも聞く。
「俺はお前嫌いだけどな」
嫌いというほどではないが苦手だ。だかこいつにはこれくらい言っていい。
「ぇー悲しいなぁ。こんなにセンパイを慕っているというのに……」
一切笑顔を崩さずに言われても信憑性が皆無だった。
「普段の言動を改めないと説得力がついてこないぞ」
「ふむ、つまり行動で表せばいいんですネ!」
不穏なことを叫んだかと思えば後ろから抱きついてきた。やめろ椅子が後ろに倒れる。
「ほんとセンパイこういうのでも動じないですよね。普段から慣れてると違うナー」
「理解したのなら離れなさい。うら若き乙女がみだりに男性に抱きつくものではありません」
昭和だー! と楽しそうに笑っているが割合本心なので早く離れなさい。
「何やら楽しげだね。何をやっているかな…………?」
そう、こういう時は大抵こういうことになる。突然ドアが開いたかと思えば先輩がご登場だ。
「あぁ先輩、お疲れ様です」
「おつかれさまでーす」
挨拶をした途端にドアが閉められた。当然先輩は部屋の外だ。
「ありゃメチャクチャ動揺してるな」
うーんこれは先日に引き続き面倒な事になりそうな予感が。
ドアの外でか細く裏切り者とかなんとか聞こえる。大丈夫があの人。
「しょうがない、センパイの為にちょっと誤解を解いてくるとしますヨ」
「今更健気な後輩キャラっぽい動きをされてもなぁ」
ようやく中野が離れた。身が軽い。
「正直、長塚センパイよりあっちの先輩の方が好きなので。落ち込ませたくはないんですよねぇ」
素直でよろしい。
「先輩ー、誤解ですよー。私が長塚センパイで遊んでただけなんですよー」
お前それ子供あやす感じになってないか。
「……しょうがない」
普段は放置している先輩からのメッセージに、たまには返信してやろう。
恐らくそれくらいしないと機嫌が戻らないだろうし。
「なんか中野の行動って、普段の先輩に対する俺の動きに似てないか……?」
いかん、気が付いてはいけない事に気がついてしまった気がする。