あゝ勘違い
「……」
「なんスか先輩」
先程からずっとこちらを恨めしそうに睨み続けている先輩がそこには居た。現在進行形だ。
先日から楽しく読み進めていた本は無事に読み終わり、今日はスマホなぞをいじっているわけであるが、流石にこう凝視されていると気が散ってしょうがない。
「言いたい事があるならハッキリ言ってくださいよ」
と言葉を投げかけてみるが、ぐぬぬぬぬと唸るばかりで返答がない。
これは相当虫の居所が悪いらしい。
面倒なのでスマホでゲームを起動。現代人の嗜みとしてスタミナの消費に勤しむとしよう。
ついでにログインボーナスだけ貰う作業もこなさなければ。時間に追われる現代人の悲しさここに極まれり。
などとポチポチと画面をタップしていると、その時山が動いた。山というか先輩が動いた。
おもむろに近づいてきたかと思えば脳天チョップを繰り出してきた。
「いや何すんだよアンタ」
思わず素で返してしまったではないか。
「いい御身分だな、バカ長塚後輩」
おぉこれはかなりご機嫌斜めだ。そして分かってはいたがご立腹の原因はこちららしい。心当たりは全く無い。
「はぁ……」
「はあ……では無い。君は……君というやつは……!」
チョップが乱打される。やめろこれ以上馬鹿になりたくない!
「意味が分からんので返答もできないんですが、一体まじで何ですか?」
「今日、学食で随分と親しげにしていた女性が居たと思うのだがね!」
「あー」
「ほらみろ心当たりがあるんじゃないか! 本当に君は! 節操というやつがないのか君は!」
私というものがありながら、的なやつだろうか。
確かに事実だがそりゃ早とちりというやつだ、先輩よ。
「あれ俺の姉ですが」
「これだから君は……ん?」
「血の繋がった実の姉です」
実は一つ違いの姉がいるのだ。というかこの大学に来たのは姉の勧めもあったからである。
「姉君だった……?」
「そうですよ」
「その場しのぎの出任せではなかろうな!?」
「市ヶ谷さんとか立川あたりは知ってますよ。ていうかなんで先輩が知らないんですか」
あれ、言ってなかったっけ? 誰に伝えて誰に伝えていないのか正直把握しきれていないのだ。
「そうか……そうだったか……」
呆然としたかと思えば急に頭を抱えて部屋の隅で丸くなった。
愉快生物だ。
「勘違いして嫉妬してすげー恥ずかしいわけか……」
「そこは黙っている所だろう!? 鬼畜か君は!」
「いやー恥ずかしがってる先輩はめっちゃ可愛いですねー!」
「嬉々としていうんじゃない! くそぅしばらく私を一人にしてくれぇー!」
先輩を弄るのは楽しいなぁ。