いっしょにいようね!
さくらが戻ってくるのは時間が掛かると聞いていたけど、さくらがお家に帰ってきたのはその日の晩だった。
僕たちは一足先にお家に帰っていたから、みんなでさくらを出迎えた。
「さくら、おかえり」
僕が言うと、さくらは舌を出して、こっちをじっと見る。
さくらを迎えたその後、髙野さんから簡単な説明を受けた。
さくらを使った介助は許可が出るまでしてはいけないということだった。
それがさくらと一緒にいられる条件だった。
じっちゃんは「金だして介助犬雇うとるのに、介助できんてなんやねん」とブツブツ言ってたけど、僕はそれでも嬉しかった。
髙野さんが帰った後、僕は眠る支度を済ませて、さくらと一緒に部屋に戻った。
僕は少しの時間、さくらの頭や、アゴや、耳をなでていた。
さくらは相変わらず、間抜けな顔だった。僕はずっと心配していたのに、さくらは相変わらずこの顔だ。僕は少し腹が立って、さくらの鼻をつまむ。するとさくらは嫌そうに、そっぽを向いた。
そうしたところで、お母さんが部屋に入ってきて、もう寝る時間だと言い、僕をベッドに移した。
ここ最近は、さくらに手伝ってもらって、ベッドへ移動していたけれど、今日は久々にお母さんに移動してもらった。また前に戻ってしまったのかと少し辛い気持があったけど、それでも横にさくらがいた。必ず、さくらと一緒に歩いて見せる。
そういう決心が、僕の心の中で、強くなっていた。七転び八起きというやつだ。
お母さんが部屋の電気を消して出ていき、僕はベッドに横になった。
ベッドの下には、いつものクッションに横になるさくらがいた。
さくらが戻ってきたんだ。僕はとても、目が熱くなった。少し、少しだけ、涙が出た。そう、少しだけね。
僕は体を起こし、鼻を強くすすった。そして、呼ぶんだ。
「さくら、おいで」
するとさくらはすぐに体を起こして、僕に近寄る。どうしたの?って、大きなアゴをベッドの上に乗せるんだ。
僕は上体をベッドから落ちるように傾ける。当然落ちれば、頭から地面へとぶつかる。でも、そうはならない、さくらがそこにいる。
僕は大きく傾き、両腕をさくらの肩に、覆いかぶさるように抱き着いた。
「さくら、ダウン」
そう言うと、さくらはゆっくりと足をかがませ、ふせをする。僕の上体は、それに合わせて腰から地面に着地する。足はベッドの上に乗ったままだ。
僕は自分の手で、自分の足を荷物のように、そっと降ろす。そして、布団もつかんで降ろすと、僕はすぐ側の、さくらのクッションに入り、横になる。
夏場と言え、クーラーが効いていたので、床に敷かれた大きくて平たいクッションは、少しひんやりとしていた。
「さくら、おいで」
もう一度さくらを呼び、一緒にクッションに入る。さくらはその大きな体で、僕をおなかの中に囲うように横になった。
僕は自分の体と、さくらに布団をかけてあげる。
さくらの顔がとても近い。さくらは目をとろんとさせて、僕を見ていた。なんだか眠たそうだ。
「ねえ、さくら、一緒に寝ていたら、明日の朝、お母さんに怒られるかな?」
ふと気になって、さくらに聞く。さくらは目を細くして眠たそうに顔を傾ける。
「まぁ、ベッドから落ちそうになって、さくらに助けてもらったって言えばいっか」
僕がそう言ったところで、さくらは目を閉じて、大きく鼻息をついた。
「おやすみ、さくら」
そう言って、僕もゆっくりと目を閉じた。
この夜に見た夢のことはよく覚えている。夢の中で僕はさくらと一緒にどこまでも歩く夢をみたんだ。
どこまでも、どこまでも。
※犬と人間の関わりって一万年以上も前から続いているんですよね。
化石で子供と犬が一緒に埋葬されたりとかで色々と研究が進んでいます。
これからも人と犬との関係は続くでしょう。
それと、犬と一緒に寝ると、その日のストレスが軽減されて、心身心身の健康を促進する効果があると言われています。
犬を飼っている方は、飼っていない方と比べて、医療機関を利用する回数が少ないとデータにありますね。
ただ、ウチの犬は寝相があまりに悪くて、一緒に寝ると眠りが浅くなります(笑)




