おどろう!きみはさくらのぱーとなー そのさん
「すごくかっこ良かったよ、ヒロ!あれだけ家でも練習してたもんね」
お母さんが目に涙を浮かばせて言う。
「うんうん、さすがだよ!最近、がんばっていたもんな」
いつの間にか来ていたヤスちゃんも腕を組んでうなずいていた。
「エリもよくやったわ、なんか普段のダンスより熱こもってたわよ?」
アヤさんがエリをほめる。
「そう?いつも通り、やるだけやっただけよ」
エリはすまして言う。
「そんなことより、次のダンスよ。ジュブナイル(十一歳以下)とお昼をはさんだ後にウチらの番なんだから、軽いウォーミングアップとかあるでしょ!」
「う、うん、そうだね・・・」
エリがきつく僕に言い、ただ僕はうなずくしかなかった。
「もう、少しは相手をほめてやりなさいよ」
アヤさんが言うも、エリは僕の車イスを押していき、練習のできそうな広間へと移動した。
そこは天井から日の差し込む休憩所のような広間で、小さなソファがいくつか点々と置かれていた。
そこでヤスちゃんが僕の両足にサポーターと装具を付けてくれた。
「よし、ヒロ君これで大丈夫だ。ほら、ガールフレンドが待ってるよ」
その間にエリは手持ちのタオルで汗を拭き終え、僕が立つのを待っている。
「さあ、がんばって男の子。ただし無茶したら止めるからね」
ヤスちゃんが僕の肩を、ポンッ、と叩き、僕は車イスの肘置きに手をかけ、「よいしょっ」っと立ち上がる。
そしてエリの右腕が僕の左腕を下から支え、エリの左手と僕の右手でつなぎ合う。
ホールドがしっかりと決まり、互いに目を合わせた状態で話す。
「エリ、ありがとう。さっきはエリのリードのおかげでとても楽しくダンスを踊れたよ」
エリは当然、といった具合にフフン、と鼻を鳴らす。
「あれくらい楽勝よ。ま、あんたもまあまあだったんじゃない?」
ホールドは崩さず、ただただ目を合わせる。
すると、なんだかお互いに笑いが出てきた。
「あははっ、なんか変なの、エリがほめるなんて」
「フフッ、そっちこそ、いつも謝ってばかりなのに、ありがとう、だって」
「僕だって、たまには感謝もするよぉ」
「ウチだって、たまにはほめたりもするわよ」
お互いに言いあい、またまた笑い合う。
「さあ、いくわよっ、練習の成果を周りに見せてやるんだから」
エリのかけ声と共に僕は左足を一歩前に出す。
「つッ!?」
すると足に違和感を覚える。何か、いつもより足が重く感じ、力が入らない。
それでも立った状態ではいれる、エリが支えてくれるから。
「いけるの?」
エリが聞く。僕の違和感が、エリにも伝わったのだろうか?
「う、うん。だいじょうぶ」
それでも立てている、まだいける。そう思って右足を出す。
「んぐぅッ!」
右足に力が入らない、ふとももがスゴくふるえて止まらない!
僕はその場にへたりこんでしまう。エリの支えもあって、ゆっくりとお尻を地につけたけど、足が、ヒザからふとももまで痛み、ふるえる。
そこから、ヤスちゃんがお母さんに報告して、お母さんとヤスちゃんが僕を車イスに乗せ、それからお母さんの車に乗せられた。
「足に何か異変があったのかもしれない!」
ヤスちゃんが言い、僕はお母さんとヤスちゃんの二人に連れられ、病院に行くことになった。
車が出る前、僕は助手席から外を見る。そこには心配そうに見送るじっちゃんとさくら、そして、エリがいた・・・
あぁ、何度目だろう・・・こうやって心配されながら見送られるのは・・・
僕は、悔しくて、歯を食いしばって、それでも笑顔を作って、みんなに「大丈夫だよ」と手をふった。
そして、病院に着き、すぐさま検査をした。
検査の結果は・・・なんと・・・
筋肉痛だった。
「あほくさ・・・」
体育館に帰って状態をみんなに伝えたそうそうに返ってきたエリの言葉だった。
辛辣なエリの言葉に、ヤスちゃんがフォローをしてくれる。
「まぁ、よくあるよね。スクワットのしすぎで階段下りる時に力が入らなくなって、ガクンといってしまうの。あれと一緒だよね」
ヤスちゃんが言い、お母さんとアヤさんが「あるある」とうなずいていた。
じっちゃんはただただ爆笑し、トッシーすら腕で顔を隠して笑いをこらえていた。
そして、さくらは大きくあくびをした。
「まぁ、なんにせよ早めに帰ってこれて良かったわ。ウチらの番まであと一時間はあるから、しっかりお弁当食べるわよ」
エリに言われて僕はお母さんの作ってくれた弁当箱を開く。
ジュブナイル(十一歳以下)の試合が終わって、今は昼休憩だ。
僕たちは体育館の外、じっちゃんがアリーナをのぞいていた扉を出れば運動公園だ。そこの一番体育館に近い木の下にリードでさくらがつながれていた。
僕らはその木の下に集合、シートを敷いて、お弁当を食べることにした。足のこともあるし、僕は念のため車イスのままだけど・・・
お弁当は僕とエリ、トッシーとさくらで輪を作って食べている。大人たちはなにやらお話しがあるとかで体育館内にある喫茶店へと行ってしまった。
初夏の匂いと、木陰がゆれる木の下で僕たちはおしゃべりしながら弁当をお箸でつつく。
ピンクの可愛らしい弁当箱で卵焼きを箸でとりながらエリが口を開く。
「まったく、あれほど昨日は休めと言ったのに、専門家のアヤさんやおっちゃん先生の言う事も無視しちゃって」
「う、うん、ごめん・・・なんだか、体が落ち着かなくって」
「まぁ、分かる。ヒロ少年は武者震いをおさえようとしたのだろう」
トッシーがうなずくと、エリがトッシーの横腹をどついて、トッシーが口からぷちトマトを落とす。
「ぐふぅ、ボクのトマト・・・まあ、それより、まずはおめでとう、ヒロ少年」
「・・・えっ?なんのこと?」
「昼休憩前に結果発表あったのよ、車イスダンスのね。四チーム中、二位よ。胸を張りなさい!後でメダルがもらえるわよっ」
エリが嬉しそうに言う・・・けど僕はあまりピンと来ていなかった。
「なによ?嬉しくないの?」
「う~ん、なんというか、あまり、対戦人数が少なすぎていまいち・・・」
「初出場のくせに生意気言うわねぇ。ま、やっぱり一位はありささんに持ってかれたけどね~」
「これから大きな大会を目指すといいさ、んぐんぐ」
「ちょっと、トシユキ、食べるペース早すぎ!ほとんど飲み込んでるでしょ、消化に悪い!さくらを見なさいよ、犬なのにしっかりと噛んで食べてるわよっ」
さくらは小皿に犬用のおやつクッキーをもぐもぐと食べていた。
しかし、トッシーは弁当を口にかき込むを止めない。それどころか、
「ボクの差し歯は、はやぶさの差し歯だから、一度に二回噛めるんだよ」
「ほんと、こいつゲーム脳!」
と言い、エリをあきれさせていた。
「はぁ、もういいわ、このダメ兄貴。それよりヒロしっかり食べなさいよ」
「うん、少し・・・食欲がなくって」
「ダメよ、ダンスは体力使うんだから、ただでさえ筋肉使ってんのに」
「う、うん。そうだね、ちょっとでも食べないとね」
言われて僕は少しずつ、しっかりと噛んでお母さんの弁当を食べる。
食欲はないんだけど、なんでだろう、お母さんのお弁当は冷めてもおいしくて、なんだか力が湧いてくる気がした。
食べればあっという間に完食し、みんなで一杯のお茶を飲む。
「ところでヒロ少年、足はどうだい?」
「うん、テーピングやシップでなんとか・・・マッサージで少しマシになったかな」
「まったく、心配させて・・・っとアヤさんが来たわね」
エリが言い、みんな体育館の入り口から出てきて手を振るアヤさんを見つめる。
「みんな、ごはん食べた?それじゃあ、軽く体を温めるために練習しとくわよっ」
アヤさんが言い、僕たちは片付けを始めた。




