なんだかみんな、こわいかおしてるよ?
お別れ会も終わり、6年生は卒業式をむかえて、晴れて小学校を旅立っていった。
そして今度は僕が6年生となる番だ。
春、桜の木が花開き、僕は桜並木の下を軽トラの中で通り過ぎる。もちろん、他の生徒は歩いて通っていく。それを車内で横目に見る。
学校では体育館で始業式、それがすんだら、5年生のクラスで6年生となる次のクラス替えの表を確認する。そして、6年生のクラスへと移動する。
僕は6年2組だった。6年の教室は5年生のクラスから、トイレをはさんだ先にあったので、車イスをこいでさくらと向かう。
クラスに着くと、顔なじみの友人があいさつをしてきた。
「よっ、ヒロ、また同じのクラスだな、さくらもよろしく」
元気にあいさつしてきたのはカズ君だった。
「前のクラスと一緒だったやつって、今井さんと大西と東、あと桐岡くらいなもんか、ずいぶんとバラけたな。女子は、よく分からん」
僕とカズ君でクラスの中を見渡す。女子は、うん、僕もあまり女子とは話さないからよく分からない。けど前と同じだったなって子は2、3人いる。
でも、今までクラスは同じじゃなかったけど、一目で分かる人物がいた。
「あっ、さくら!と、あんた、ヒロっ、同じクラスになったんだ。まあ、よろしく・・・って、なにその顔、不満でもあるの?」
「いや、その、エリと同じで、う、嬉しいなあって」
「おいおい、巨人、そんなヒロに詰め寄んなって、そんなんだから進撃だの言われんだよ」
「最初に進撃って言い出したのカズじゃないのよっ!」
「今みたいに男子をいじめるからだろうにっ」
「男子がちょっかいかけてきたから全員殴って黙らせただけよ」
「すぐ手を出すから進撃って付けたんだよ。ヒロも気を付けろよ、こいつ恐いから」
「うん、知ってる」
「ふんっ、ヒロっ、今日の練習覚えておきなさいよ、握りつぶしてやるから」
「あ、あはは、お手柔らかにたのむよ、エリ」
「・・・手だけに?全然うまくないから」
エリはそう言い、鼻を鳴らして近くの女子のグループへと混ざっていった。
「なんだ、ヒロ、随分と巨人の扱いが上手いじゃないか、下の名前で呼んじゃって、そういう関係なのか?」
「そんなんじゃないよ。エリはただのダンスのパートナー、と言えるのかな?正式なパートナーは他にいるみたいだし・・・仮パートナーっていうのかも」
「なんだそりゃ」
カズ君が肩をすくめた。
「おい、なんでクラスに犬がいるんだよ?」
突然、教室中に響く大きな声が、僕の後ろから聞こえた。
恐る恐る、後ろを振り向く。
「なぁ、なんで犬なんか連れてきてるんだ?」
そこには背が高く(エリ程ではないけれど)お腹も体も大きなクラスメイトの宮村君が立っていた。
僕はその大きな体に気圧されながらも、聞かれた答えを返す。
「その、この犬はさくらといって、歩行介助犬で、だから、必要で・・・」
「必要?お前ほとんど車イスじゃんか、別にいなくてもいいんじゃねえの?」
「そんなこと・・・だって、リハビリに少し歩いたり、トイレ行ったりするのにさくらの力を借りるし・・・」
「ヘッヘッヘ、トイレに行くのに犬に支えてもらうのかよっ!」
宮村君は大きな声でゲラゲラと笑った。
「おい、いい加減にしろ!宮村ァ!」
カズ君が僕と宮村君の間に入る。
「お前、先生からさくらについて、ある程度の説明受けたろ?」
「あぁ?けど、こいつ、前にお別れ会で女と手をつないで歩いていたじゃんか、あれくらい歩けりゃ松葉杖で十分なんじゃねえの?」
「じ、十分じゃないから未だに車イスなんだろっ!」
「オレも三年の時に足骨折して車イスだったけどさぁ、少し立てるようになったら松葉杖だけでリハビリしたし、犬なんていなかったし」
「それは、ヒロは病気で足が治りにくいから、さくらが必要で」
「意味分かんないね。別に犬である必要ないだろ?」
「それは・・・」
カズ君が言いよどむ。
クラスに一瞬の沈黙がおりる。みんな、何かを言いたげだけど、言い出せないでいる。だけど僕は、勇気をふりしぼって、思ったことを口にする。
「た、確かにさくらである必要はないと僕も思う。だけど、ここまで足が動くようになったのは、さくらのおかげで、さくらがいたから立てたし歩けたと思う」
「それ?医学的に根拠あんの?」
「こ、こんきょ?」
「骨折って日にち薬って先生が言ってたけど、お前が歩けるようになったのって結局、日が経てば歩けるようになるんじゃないの?現に立てるようになってるし」
「え、えと、それは・・・病気で・・・」
「ちょっと、いい加減にしなさいよっ!」
声を荒げて近付いてきたのはエリだった。
「さっきから聞いてりゃ、あんたねぇ、ヒロにはさくらが必要ってのは医者やリハビリの先生が決めたことなんだから、素人のあんたが言えることじゃないでしょ!」
「うわっ、巨人がきやがった。小人の彼氏が気になるのかよ?」
「かっ、彼氏っ!?そ、そんなんじゃないから!」
エリが顔を真っ赤にして唇を噛む。言葉が止まった隙をつき、宮村君が口を挟む。
「医者とかが言ってもよ、知ってるか?犬って噛むと簡単に人の骨を噛み砕けるんだぜ?そんな危険な動物を毎日連れてくるなんて、おかしいだろ」
「そ、それは、さくらは噛まない犬だから」
僕がそれを否定するも、
「だから根拠は?この犬がそう言ったのかよ?噛むだけじゃなくて、飛び込んできても、危険じゃないか!」
「そ、それは・・・」
僕はさくらが来て四ヶ月が過ぎた夏休みの最終日のことを思い出した。
あの日、さくらは僕とお母さんに飛びついた。でもあれには僕を守るという理由があったけど、確かにさくらが僕を守るために飛びついたという根拠はない。
僕は、答えに詰まり、うつむいてしまう。
「ほら、そうだろ?危ないだろ?犬なんて何考えてるか分かんねぇもん。みんなもそう思うよなっ」
皆に問いかけ、皆は押し黙ってしまう。
「だからなぁ、チビ、犬を学校に連れてくんなよ。犬が嫌いなヤツだっているんだよ。俺の骨折も犬のせいだっ。だから嫌いなんだよ!」
そういう宮村君の目は、とても尖っていた。心底、犬に嫌悪を抱く顔だった。
僕は、クラスのみんなは、ただ、宮村君の言い分をただ聞くしかできなかった。
そうこうしているうちにチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
「はい、みんな席について、ん?なんかえらい静かだな。なんかあった?」
「いえ、なにも・・・」
クラスの誰かが言い、その場はお開きとなった。
※やはり犬嫌いの人は必ずいるのです。理由は様々ですが心理的な要因が多いですね。
ここからは、そんなお話です。




