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とくべつなひ、ステキなひ



 12月の終業式が終わって、もうすぐにでもクリスマスだ。

 お母さんと一緒に近くのショッピングモールへ行く。どこのお店も、クリスマスの装いだった。目に見ても、赤を基調とした色合い。耳をすませばクリスマスソング。鼻を動かせばケーキやチキンの匂いだ。なんだかとってもワクワクする。


「ヒロ、何か欲しいものはある?」

 

 お母さんがおもちゃ屋の前で聞く。

 うん、もうちょっとさりげなく聞いてほしかった。そりゃ、もう高学年だし、別にいいんだけどね・・・


「あるよ、でもここにはないよ」


 僕はそう言って、お母さんにとあるお店へと車イスを押してもらう。

 そこは大きなペットショップだった。

 そこで僕はレジカウンターとなってるショーウィンドウに行きつく。


「これ買って」


 僕が指差したのは、一人用くらいのケーキだ。キレイなピンクで、とてもおいしそうだった。


「でもこれ、犬用でしょ?」

「だから欲しいの」


 僕はそう言った。だって、お礼をしてあげたいもの。いつだって、僕にドキドキをくれるのはさくらだもの。そのさくらに、僕はしてあげれないから。


「そう、分かったわ・・・けっこうな値段がするのね」

「あと、あの服もカワイイ」

「いや、あんな分厚いの、さくらちゃんに必要ないでしょ。ほとんど体の周りは毛布なのに」

「あと、さくらのおもちゃ」

「もう、さくらはボールとかで遊ばないように訓練受けてるんだから」

「でも、探し物当てとかで遊ぶから、そういうのならいいでしょ」


 そんなこんなのやり取りがあった、翌日の晩のクリスマスは、忘れられないクリスマスとなった。

 だって、いつも僕とお母さん、それにじっちゃんの三人のクリスマスだったけど、もう一人?一匹?さくらがそこに加わった。

 いつもさくらは晩ご飯を床にある犬用の小さなテーブルで食べるんだけど、その日は特別ということで、イスに上がっていた。四つの席でテーブルを囲った。

 そしてパーティー用の三角帽子をかぶらされ、食卓用のライトをまぶしそうに目を細めていた。その細目でテーブルに並ぶ豪華な食事をキョロキョロして見ていた。

 もちろん、舌を出したいつもの変な顔だった。


『いただきます』


 と言って僕たちはご飯を食べる。じっちゃんは箸でチキンを器用に食べていた。

 さくらはテーブルの上の更に上にある犬用のテーブルに置いてある皿へと目を向ける。そこには昨日ケーキと一緒に買っておいた犬用の冷凍総菜をレンジでチンして解凍したごはんがあった。

 テーブルの上のテーブルで、さくらにとってお皿が高いかなと思ったけど、全然そんなことなかった。むしろ巨体なさくらには低すぎるし、イスが無くても届く位置だった。

 そんなご飯をさくらはペロペロと少しずつ食べる。


「ほう、皿から全然こぼさんと上手に食べよるやんけ」

「でもちょっと食べづらそうだけどね」


 僕が笑って言う。

 ご飯を食べ終わって、その後にお風呂に入って、それからまたテーブルにつく。

 さくらもまた、嫌々帽子をかぶらされて、イスの上でちょこんと座っていた。

 それで、きよしこの夜を歌って、4人でケーキを食べる。

 もちろんさくらは別のケーキ、犬用だ。だけど・・・


「なんやこれで犬用なんけ?ちょい一口食わせえや」


 そう言ってじっちゃんがさくらのケーキにフォークを刺す。さくらは「良いよ」なんて一言も言ってないのに。


「うわっ、ウマいな。ほんまに犬用か?これ」

「あら、ほんと、ちょっと薄いけどイケるわこれ」

「あの値段も納得だね。僕、こっちの方が好きかも」


 どんどん減っていくさくらのケーキ。それをさくらは舌を出して、目を細めて見ていた。よく見ると舌からは小さくよだれを垂らしていた。

 結局ケーキは3分の2まで減っていた。

 その後は寝るだけ、そしてその次の朝に案の定、枕元に何かあった。

 さくらの枕元にも何か置いてある。さくらはそれを不思議そうに見ていた。

 包装紙と箱に包まれた何かだ。


「さくら、レトリーブ」


 さくらに指示を出して、さくらがその箱を持ってくる。僕はそれを手に取る。

 包装紙を外して箱を開け、中身を出す。そこには犬用の大きな人形だった。

 人形は骨の形をしていた。この人形を噛めば、歯にも良いとのことらしい。どのように良いのかはよく分からないけど。


「さくら、よし」


 僕がそう言うと、さくらは人形を噛みだす。

 ピー、ピー、ピーピー。

 さくらがおもちゃを噛むたびに音が鳴る。

 僕はさくらの口からはみだした骨のおもちゃを引っ張ると、さくらはギュッと噛みしめる。すると、万力にでも絞められたかのように、おもちゃも、さくらの口も、まったく動かなかった。どれだけ時間をかけてもだ。


「さくら、待て」


 僕が指示を出すとさくらが口を開く。そして、ぼくはさくらに全然力で歯が立たないことが悔しくて、そのおもちゃを僕の布団の中に隠した。

 するとさくらはベッドに両手を乗せて、眉間にシワを寄せて、困った顔をした。



 お正月はすぐにやってきた。冬休みの宿題や、ダンス教室とかやってる内にだ。


 ああ、あと大掃除も(と言ってもテーブルや机の上とかくらいなもんだけど)ね。


 お正月はめったに使わない和室のコタツで過ごした。


 去年までは、僕がコタツを使うのに、いちいち車イスから下りないといけないのを考えて出さなかったけど、今年はさくらがいるので出してくれるようにお願いした。

 さくらがいれば、僕とさくらだけ(補助にお母さんかじっちゃんがいるけど)でなんとか車イスへの移乗ができるからだ。

 コタツに入って、その上にあるオセチを食べた。なんだか、いつもとは違う食事の風景だった。

 さくらはもちろん、犬用のオセチだ。そして当然、僕らによってそのオセチの三分の一が消失していた。


 さくらはその様を、よだれを垂らして見ていた。


 その後はコタツで横になってテレビを見て過ごした。

 じっちゃんがコタツに無理矢理さくらを入れようとしたけど、熱いのかすぐに飛び出してきた。そしてさくらは今、僕の枕となっていた。

 ただ正直、すごく熱い枕だった。そりゃコタツに入りたくないわけだ。


 そんな感じで、ゴロゴロと正月を過ごした。

 ダラダラとはしていたけど、なんだかとても気持ちのいい正月だった。

 また来年も、こうやってさくらとクリスマスや正月を迎えたいな。


 そうだ、初詣のお願いはこれにしよう。なんて思った。


※セラピー犬や介護犬はなるべくボールを投げての遊びはさせないのです。

 というのも物を追いかけるという本能的な習慣は飛び出しなどで大変危険ですので・・・

 代わりにボールを隠して、それも見つけてもらう、という知的な遊びに使ったりします。

 介助犬の訓練なんかにもなります。


 あと犬用のケーキって甘さひかえめで美味しいんです(笑)

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