たのしかったね!
広い運動場を前に、僕は大きく深呼吸をして、足の装具とサポーターの具合を見る。
もともと、運動場に出た時に関節部のサポーターはしていた。後は両足に装具をつけて、ヘルメットをする。そして、左ワキに松葉杖をはさみ、右ワキを少しかがんだ状態でいるさくらの胴体に押し付け、
「さくら、アップ!」
僕の指示でさくらが曲げていた足をのばし、それと同時に僕も立ち上がる。
「おお、カッコイイね~」
男子の一人が茶化してくる。
サッカーのチームは僕のいる方が4人。カズ君は一緒のチームだ。相手チームは3人だった。
チーム同士、お互いに正面を向けて並ぶ。ボールは僕の足元にあり、キックオフは僕の役目だ。
「本当に大丈夫なんですか?」
まゆ先生が心配そうにじっちゃんに聞く。
「大丈夫やろ。子供はやっぱ遊んでなんぼや。そのためにヒロは今までに歯ぁ食いしばってきたんや。せやから・・・ぼちぼち報われなあかんやろ」
「でも・・・」
「行けやッ!ヒロォッ!」
それがスタートの合図だった。
僕は足元のボールを見つめる。
サッカーボールだ。それは分かる。じゃあどうやって蹴る?分からない。初めてだ。どうすればいい?
みんなが、僕に目を向ける。みんな黙って、じっと僕を見つめる。
みんなが待っている。でも、でも、どうすればいいの?
僕はさくらを見た。ああ、でもやっぱり、舌を出した間抜け面をしてる。
さくらはいっつもそうだ。僕がこんなにも悩んでいるのに!
すると、どこからか声がした。
「車いすの足を乗せるところあるよな?フットな。それをのかす時に足でけり上げてたたむだろ。あんな感じで足を上げるんだ」
そうか、足を前に出すだけなんだ。
僕は右足を歩くように前に出し、つま先をボールに当てる。
すると、ボールは少しだけ前に進んだ。1メートルくらいだ。思ったよりも全然前に飛んでくれない。
「もう一度だ。さくらにしっかり体重を乗せて、左足だけで立って、右足を浮かすんだ。そしてそのまま右足を大きく後ろに振って前に出す!」
聞き覚えのある声、僕をここまで動けるように導いてくれた声。
そう、リハビリの先生のヤスちゃんだ。
僕はさくらと一緒に少し前へと進む。そして指示通りにさくらに体重を預け、松葉杖と左足でバランスを取り、右足を大きく振り子のように後ろへ降った!
すると、その反動で足が前に下される、そしてつま先に、ボールが強く当たる感触、さっきとは段違いの衝撃だ。
足が、すごく痛い!思っていたよりも、ボールって固い。
だけど、ボールはさっきよりも遠くへ転がった。10mくらいだ。
「よっしゃ、行けぇ!」
カズ君の号令でいっせいに男子たちが、ワッと・・・・・・歩き出す。
えっ、なにこれ?
みんな、腕を前後に大きく、お尻を左右にフリフリ振って早歩きをしだした。
その姿は、どうにも・・・変だった。
だって、運動場の遊具で遊んでた低学年の子たちが、みんなの変な動きで早歩きをしてる姿を見て笑っている。いやもう爆笑してる。笑い転げてる。
だけど、みんな一生懸命ボールを追いかけてる。でも、変な動きで・・・
僕は思わず「ブフゥッ」と吹き出して笑ってしまった。だけど、後ろから大きな声が僕の背中にぶつかる。
「ほれ、なにしとんねんっ!はよボール追いかけんかい!」
じっちゃんの声に我に返る。
そうだ、こんな変なみんなに囲まれておいて、ただ一人動かなかったら、僕はもっと変な人だ。ただの臆病者だ。
僕はあわててボールの位置を探す。どうにもそんなに遠くに行ってないようだ。何人かでボールを取り合い、一進一退している。
「さくら、ムーブ!」
急ぎ指示を出し、僕はさくらと共に前へと進む。
こけないように、リハビリ通りに一歩一歩前へ進む。
「ヘイッ、ヒロ!」
相手チームに囲まれていたカズ君が僕を呼ぶ。次いで彼のキープしていたボールを、かかとで後ろに蹴り、僕へとパスする。
僕は慌てて動きを止め、ボールが来るのに備える。
だがボールはきれいに僕の右足の前にぴったりと止まる。
「こっちだよ、ヒロ君」
同じチームの男子がゴールの前で僕を呼ぶ。
これは誰が見てもチャンスだった。
だけど、そこまでは20メートルもある。僕の足で届くだろうか?
しかし迷っている暇はない。相手チーム二人が、僕を目がけて、お尻を振った変な挙動でせまってくる。
僕はさっきの容量で、右足を大きく振り、ボールを蹴り飛ばす。
なんとか前に転がった。方向も良し。だけどスピードはでない。これだと簡単に追いつかれる。
僕へと向かっていた二人が、ボールの軌道に割り込もうと方向転換する。
ダメだ・・・取られる・・・
と、思っていたけれど、ボールは二人の前を通過する。走れば余裕でパスカットができたのだろうけど、歩きだと速さも長さも今一つ足が届かない。
僕を呼んだチームの男子が上手にボールを足で受け止め、すぐさまゴールへと向かってシュートを決める。
ボールはキーパーの手をかすめてネットへと吸い込まれた。
「よっしゃああああ」
チームメイトの歓声があがる。
チームのみんなが、ゴールを決めた男子のもとへと普通に走って集まる。
「やるねえ、今井さん」
「ナイスシュート」
今井さんと呼ばれた男子がみんなとハイタッチをする。そんな姿を僕はパスをした位置、20メートル離れたところで見ていた。
すると今井さんはそんな僕に気付き、足早やに近付いてきて、
「ナイスパース、やるね、今の感じで次もよろしく」
そう言って手の平を僕へと向ける。
「う、うん!」
僕はその手の平に向けて、自分の手の平を少し強く押し当てた。
パンッ!
と気持ちのいい音が運動場に鳴り響いた。
ゲームはその後も続いたけど、僕の活躍はそれっきりで、さっきのはビギナーズラックというやつだったみたい。何度かパスは回って来たけれど、目立った役回りはできなかった。結局、ボールが来ては、すぐ誰かにパスする感じ。ピンボールみたいにね。
時間もそろそろ午後5時をむかえようとしている。学校の運動場は5時までしか使えないんだ。
2―3で僕たちのチームが一点負けている。
キックオフは僕だ。これが最後のキックオフになるだろう。
僕がボールを蹴ろうと足に力を込めた時だった。
「ボールを今井さんにパスしたら、そのままゴールへとまっすぐ走るんだ」
カズ君が、僕にそう耳元でささやいた。
僕は小さくうなずき、再び足に力を込める。
さくらに体を支えてもらい、大きく足を振ってボールを蹴飛ばす。
するとボールは良い感じに今井さんの足元へと届く。少しは慣れてきたみたいだ。
僕は安堵した。足にはまだ、ボールを蹴った時の痛みは残るけど、それよりも上手く運べたことにとても気持ちがいいものを感じた。
「さくらっ、ムーブ!」
すかさず、指示を出し、僕は足を出す。松葉杖でバランスを取り、さくらに支えてもらい、自分の足で駆ける!
いつもはこけないように慎重に歩いていた。だけど、僕は今、駆けていた。ゴールポストを目指して、一心不乱に!
ある程度、ゴールポストへと近付くと、ボールの行方はどこかと後ろを振り向く。
右ななめ後方、ボールはカズ君と今井さんでパスを回し、相手チーム二人を翻弄していた。
カズ君と今井さん、相手チーム二人の四人は大きく後方に下がっていた。
僕のチームが守るべきゴールポストの手前までだ。
だがここでカズ君が大きく足を振る。
「行くぞぉッ、ヒロッ!」
そしてキープしていたボールを高く蹴り上げた。同時に相手チームが大きく叫ぶ。
「下がれぇ!」
ボールはきれいな放物線を描き、一度地面をバウンドし、こっちに向かって来る。
「え、うわっ、恐い!」
僕は思わず叫んだ。
ボールはバウンドしてもなお、大きくはねて僕の方へ飛んでくるからだ。
これにぶつかったら、きっと痛い。高さもあって、勢いもかなりある。
僕は恐くなって、さくらにしがみついた。
そしてボールは、勢いそのままに再度バウンドして、そして・・・
ドスッ・・・
鈍い音をさせて、さくらの胴体、横腹にぶつかって、止まった。
「さくら・・・大丈夫?」
僕はさくらに聞く。さくらは眉間にシワを寄せていた。「いったぁ」とでも言ってるのかな・・・
だけど、さくらは僕の目をしっかりと見つめていた。
『ほら、何してるの?』
気のせいかもしれないけど、僕にはそう聞こえた。
僕は後ろを見る。相手チーム二人、僕のチームのカズ君、今井さん、そしてキーパーを任されていた大西君、合わせた5人が、急いで僕へと向かって・・・変な動きで歩いてくる。
距離はかなりあるものの、時間はそうない。みな、競歩のような動きに慣れてきたのか、かなりの速度で歩いてきているからだ。
「さくら、ステップ、ライト」
急いで指示を出し、さくらと横歩きをする。
さくらは上手くボールを避けて横に移動し、僕の体と足をボールの位置するところに運んだ。
ここから、シュートをするか?
相手チームは三人、後ろから僕にせまって来ているのが二人、必然的にキーパーと僕との一対一となる。
ゴールまでの距離はおよそ20メートル。十分に届くとは思う。だけど、僕の蹴ったボールでは簡単に受け止められるだろう。
なら、ボールを細かく蹴って、近付くしかない。
生まれて初めてのドリブルだ。上手くいくか分からない。でもやるしかない。
一つ息を大きく吸って、深く吐き出す。そして意を決する。
「さくら、ムーブ」
僕はさくらと共に前へ出た。
右足に、ボールがこつんと当たる。
「あっ」
だが思うように前へとは進まず、少し左にそれる。
僕はさくらを左へ少し引っ張り、進行方向をやや横にそらす。
ボールに追いつくと、もう一度右足のつま先でボールを前へと押しだす。
だけど、やっぱり、思うようにまっすぐ前へとは進まず、今度は右にそれた。
あせりがでてくる。
後ろからは多くの足音がドンドンと大きくなり、僕へとせまってきているのが分かる。
どうしよう、このままだとすぐ追いつかれる。
パスする?いや無理だ、後ろへのパスの仕方なんかわからない。
なら、進むしかない。フラフラでも、前へと進むしかない。格好悪くても、さくらに支えられながらでも、歩いてきたんだ。
「さくら、行くよっ、ムーブ」
決心がついた。僕はボールを追いかけて足で捕まえ、そのまま前へと進む。
残り5メートル、もうここが限界だ。これ以上は近づけない。近付けば相手チームのキーパーに前から、そして僕を追ってきている後ろの二人からとボールを取られてしまうだろう。
キーパーは両手を大きく開いて待ち構える。
僕はすぐ目の前、二歩分に離れたボールをドリブルせずに、ここままシュートを決める心づもりで近付く。
僕は歩いた足の勢いを助走として、シュートを決めようと、
「あっ・・・」
「へぇっ?」
「うわっ、えっ、えっ?」
僕や相手のキーパー、すぐ後ろにいた味方チーム、相手チームが同時に変な声を出してぼう然としていた。
いったい何が起こったのか、僕の足元にはボールがなかった。だけどボールはキーパーを抜けてゴールへと収まっていたんだ。
僕は蹴った覚えがない。だとすれば、ボールを蹴ったのは・・・
「さくら?」
さくらは、舌を出して、間抜けな顔で、僕を見つめる。
『ゴーン、ゴーン』
そこで予鈴が鳴った。五時五分前の鐘の音が校庭に響き渡った。それが試合終了のホイッスルのように。
「いやいやいや、今のありかよ?」
相手チームのキーパーがみんなに聞く。それに相手チームの一人がうなずく。
「そうだよ、これ、さくらが蹴ったんだろ?反則じゃね?」
えっ?そうなの?
僕はサッカーのルールを詳しく分からず、オロオロしてみんなの顔色をうかがう。
「そんなことないよっ」
だけど、その抗議に異をとなえたのは今井さんだった。
「だって、ヒロ君とさくらは二人で一人と考えるべきでしょ、最初から二人で一人として参加しているんだし」
「でもさぁ、さくらは前の手を使ったじゃんか!ハンドだろ、ルール違反だ」
「いや、待った、そこは違う」
そこに味方チームのキーパーをしていた大西が加わる。
「犬や猫は四足歩行というだろ?だったら前の手も足に当たるんじゃないのか?」
「えぇ~、そうなのかよ?」
「そうだそうだっ、それに・・・」
ここでカズ君が加わる。
「二人で一人なら、一つで二つとも考えられるだろ?ならこのシュートは二点になって4―3で俺たちの逆転勝ちだなッ!」
・・・・・・
『それはねーよっ!』
相手チームや味方チームからいっせいにツッコまれる。
「なんでだよっ、どういうルールだよっ、意味わかんねえよっ!」
「なにさりげなく変なルールねじ込もうとしてんだ、通らねえからな!」
「カズ君、高学年になってその屁理屈押し通そうとするのはないよ・・・」
みんなから非難を受けてたじろぐカズ君、その姿がなんだか、変で、今の状況がバカバカしくて、なんだか心が軽くて・・・
「ふふっ、あっはっはっは」
おかしくて僕は笑ってしまう。
するとみんなもそれに合わせて、大きく笑いあった。
ひとしきり笑ったあと、五時のチャイムが鳴る。
「あーあ、3―3の同点かよぉ」
相手チームのキーパーだった東君が、地面の土の上へとどっかり座る。
するとカズ君も同じように座り、服が汚れるだろうに、ばたりと寝転がった。
「あ~、足痛ってぇ~、なんか太ももパンパンだわ」
そして、今井さん、大西君も同じように土の上へ寝転がる。
「走るのとは違う筋肉を使ってるのかもね」
「だぁ~、だるい、なんかしばらく歩けないわ」
そして相手チームの二人もドサッと地べたに仰向けに倒れる。
「だけど、ナイスシュート、ヒロ、いや、さくらか?」
相手チームの一人、桐岡君が僕をほめる。もう一人の中村君も、
「川島もパス回しょったし、ナイスファイトだったろ」
「う、うんありがとう・・・」
はじめて、運動でほめられた。なんだかとても背中がムズムズした。
そこで僕は、僕以外のみんなが地面で仰向けになっていることに気付く。
そこで僕はさくらに指示を出す。
「さくら、ダウン」
さくらが姿勢を下げ、そして僕もさくらの横で地面に仰向けになる。すると・・・
僕の目の先、そしてはるか遠くに、紫がかった大きな空があった。
雲はこんなにも早かったっけ?と思うくらいの速さで西から東へと流れていく。
その光景は・・・とてもきれいだった。僕は大きく鼻から息を吸う。
心地の良い風が、土や草、様々な匂いを運んでくる。そしてその風が、いつのまにか多量にかいていた僕の汗をぬぐってくれて、とても心地よかった。
「あーあ、もう今日も終わりかぁ、早いなぁ」
「いや、帰って宿題あるだろ」
東君と大西君が言う。
「なあ、宿題の範囲どこだっけ?」
中村君が誰かに聞く、だけどみんな言いよどむ。誰も覚えていないようなので代わりに僕が答える。
「計算ドリルの30ページと31ページだよ。量は多いけど、そんな難しくないから時間はあまりかからないと思うよ」
「えっ、もう終わってるのかよ?ヒロ!」
カズ君が頭を起こして聞いてくる。
「う、うん学童でみんなが集まる間にちょっと・・・」
「えぇ~、今すぐ写させてくれよ」
「それじゃ宿題にならないでしょうに、自分の学力向上のためにだね」
「でたっ、今井さんの良い子ちゃん発言」
「優等生の今井さんは言うことが違うなっ!」
「なんだよそれっ!そんなんだからカズ君も東君もテストの点数が低いんだろ!」
「今日の給食のプリンうまかったな」
「オレ、じゃんけんで二個もらったし」
「聞いてよっ!なにその雑な話のそらし方ッ!」
そんな他愛のない話を、みんなで寝転がりながら話した。今日の晩ご飯だったり、明日の授業だったり、冬休みのことだったり、どうでもいいような話。
でもこうやってみんなでおしゃべりをするのは、久々で、とても楽しかった。
だけど、楽しい時間はあっという間で、松原先生が学校から出ていくように呼びかけに来た。
「ほらほら、五時半になると門が閉まるぞ、早く出ろよぉ」
『はーいっ』
みんなが返事をする。僕は体を起こすと、気付いたら僕の周りには同級生のみんなだけでなく、遠くから僕たちのサッカーを笑いながら見ていた低学年の子供たちや、学童のみんなまで寝そべっていた。じっちゃんや、まゆ先生までだ。全員で20人くらいはいたので、ビックリした。
その後、低学年の子たちはさくらをなでて、バイバイと言って校門から出て行った。それから、同級生のカズ君やみんなも自転車にまたがって手をふる。
「ようっ、ヒロ、今日は楽しかったな。またやろうなっ!」
「うんっ」
僕は力強くうなずいた。それからみんなと別れた。
それから、じっちゃんが乗ってきた軽トラへと車いすで、さくらと一緒に向かう。
「なあ、ヒロ、楽しかったか?」
じっちゃんが聞く。僕はまたも力強くうなずく。
「うん、すごく楽しかった」
「そうか、ようやったな。ええ試合やったで」
そう言って、僕とさくらの頭をなでた。
頭にとてもかたく、でも温かい感触のその手は、なんだか心地よかった。
僕とさくらは互いに見つめ合い、舌を出して笑いあった。
お家に帰ってから、とても珍しい光景が待っていた。
まず、お母さんがとんでもないくらい驚いていた。目が丸くなるというのはこういうことなのだろう。
「どうしたのっ?ヒロもさくらもこんなに泥だらけになって!」
事情をリハビリの先生であるヤスちゃんが説明して、お母さんはとても驚いていた。そして怒ってもいた。
「お父さんっ、先生の許可もないのに、そうやって簡単に決めて!」
「先生なら横におったやんけ」
「川島さん、確かに黙認した私も同罪ですが、本来は他の関係者とアセスメントを通してですね」
「ほいほい、分かったわ、次回からはそのアセスなんちゃらをすりゃええんやな?ほんじゃワシとヒロで先に風呂に入って来るわ、ヒロあげたら、さくらも入れぇ、その土落とすさかい」
そう言ってじっちゃんは服を脱ぎながらお風呂へと向かう。
「ちょっと、お父さんっ!」
お母さんがものすごく怒った顔だった。いつも元気なヤスちゃんですらなんだか疲れた顔をしていた。それに対してじっちゃんは年とは不釣り合いな子供がいたずらに成功したような無邪気な笑顔を見せていた。
色んな表情が混じり合って、僕はそれがおかしくて、なんだか笑ってしまった。
「ほれっ、ヒロ早く行くでっ」
「はーいっ」
返事をして、僕はお風呂に入った。さくらも僕と入れかえでその後に入った。
それから、ヤスちゃんとリハビリの今後のお話しをして、それがすんだら晩ご飯を食べてベッドへと向かう。
さくらの力を借りてベッドで横になると、体はとても疲れていたようで、まぶたはすぐに重くなった。
今日はとても楽しいことがいっぱいあった。中でも楽しかったことは、体をこんなにも動かしたことだ。動かせたことだ。
体を動かして楽しいと思ったのは初めてかもしれない。動かせて良かったと思ったのも初めてかもしれなかった。
もっと体が動かせるようになったら、もっと楽しいことが待っているのかな?
それはとても楽しみだ。
僕はベッドの下にいる、さくら専用ソファで眠るさくらの頭に手をのばす。
そっとふれると、フワフワのかんしょくの後に、シャンプーの良い匂いがした。
「これからも、いっぱい楽しいことがあるといいな」
温かく、柔らかな心地に包まれて、僕はゆっくりと目を閉じた。
※ドッグスポーツというのがありますけど、サッカーはないですね(笑)
犬にルールは理解できないでしょうし、めちゃくちゃになりそうです。
ただ人間と倍以上の反射神経を犬は持っていましすので、ボールや
フライングディスク、フリスビーをキャッチしたりするのは得意です。
それを持ってくるレトリーブを競技であります。
あとは障害物競走や、中にはダンスもあります。
ダンスの話はいつかいずれ出てきます。