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いっしょにあそぼうよ!



 学校でさくらと歩けるようになったといっても、歩行する機会がそこまで増えたとは言えなかった。


 歩いても、だいたい教室からすぐ廊下をはさんだ先の手洗い場くらいなもんだ。


 トイレは教員用のトイレを使うけど、渡り廊下の先なんで、距離がかなりある。こればかりは車イスで行く。普通の生徒が使うトイレは今時何故か和式なんだ。


 おそらく、一生使用する機会のないトイレなんだろう。


 あとは休み時間や学童の時間に外へ出て、先生と少し歩行を行うくらいだ。

 一日で歩く時間の合計は10分くらいなものだ。

 それでも、一年前と比べれば、かなりの進歩であると言えると思う。

 

 周りの生徒の反応は・・・うん、みんな喜んでいたと思う。


 教室で歩くときはリハビリと同じで、体のヒジやヒザの関節部や、首にサポーターをして、ヘルメットより少し軽めで小さいヘッドギアを装着する。

 これだけで、みんな何事かと言う目で見てくる。そりゃあ、確実に浮いているからね。まるでローラースケートでもするかのかっこうだもん。

 そして、左ワキに松葉杖をはさみ、右ワキにさくらをはさむ。そして左手は杖を、右手はハーネスについた取っ手を強く握って歩くんだ。

 みんな、スゴいスゴいと喜び、ほめてくれた。だけど、なにがスゴいのかよく分からなかった。だって、普通に歩けている君たちの方がすごいからだ。


 中にはさくらをほめてくれる人もいた。「さくらはスゴいんだね!」って。


 そこは同感だけども、自分が情けなくも感じた。


 ただでさえ車イスという他とは違う存在なのに、さらにサポーターに松葉杖、そしてなにより犬だ。学校の生徒と呼ぶには、あまりにも普通とは違い過ぎなんだ。


 でも、歯を食いしばるしかない。これは僕が普通に戻るためのものだから。

 


 数分の歩行を行う以外に、これといって学校での生活が変わったわけではないけれど、12月の中頃にちょっとした出来事があった。

 授業が全部終わり、僕が学童に行っている時だ。


 いつもはみんなで教室を使って宿題やったり遊んだりしているんだけど、今日に限っては少し違った。


 12月の中頃にしては暖かいこともあり、みんなで外の運動場で遊ぶことになったんだ。

 で、学童にいる子ってだいたい小さい子が多くて、その子たちはすべり台やブランコといった遊具で遊ぶことが多い。今はみんなすべり台に夢中だ。


 当然、僕にはすべり台はできない。そもそも登れないからね。


 学童のまゆ先生が、僕にブランコを勧めるも、僕は首をふった。


 僕がブランコを選ぶと、必然的にまゆ先生がついてくる。そうするとブランコで遊んでいる子たちもブランコへと移動しないといけない。遊具を使う場合、みんなは先生の目の届くところにいないとダメだからだ。みんなが今楽しんでいることを止めさせて、僕に合わせようとするのはわがままだと思う。


 僕は車イスに乗って、さくらと運動場の散歩をすることを選んだ。これなら、遊具を使用しないし、目の届く範囲内だから特に危険はない。


 僕はさくらとゆっくり車いすをこいで、運動場の外周をのんびり進んだ。

 運動場の周りは色々な遊具が設置されてあり、その遊具で放課後に残って遊ぶ生徒たちがいた。

 その子たちが僕とさくらに気付いて、少しさわっていく。そして、すぐに遊びに戻る。その背中を見つめながら、僕は再び車イスをこぐ。

 そんなことを何度かくりかえし、運動場を一周し終えようかという時だった。


 目の前に、一個のサッカーボールが転がってきたんだ。


 そのボールは、さくらの足元で止まる。僕はボールが転がってきた方を見る。そこは運動場の中央で、サッカーをしていた生徒たちだった。


 その生徒たちの一人が近付いてくる。その生徒に見覚えがあった。


「やっ、ヒロ、ボールがそっち行っちった。わりぃな」


 元気に話しかけてきたのは同じクラスメイトのカズ君だ。

 カズ君は僕と幼なじみというやつだ。僕の小さいころからの友達で、仲がとても良い。だけど、ここ最近で一緒に遊ぶということはかなり減った。


 高学年になるにつれ、活動のはばが広がり、僕には着いていけなくなったからだ。


 いつもカズ君は僕を遊びに誘ってくれた。だけど、僕はいつも断った。次第に、関わることも減った。だから、僕はカズ君と話すのに気まずいものを感じていた。


「お、なんだ?さくらがボールを止めてくれたのか?ヘヘッ、サンキュー」


 カズ君がそう言ってさくらの前でかがみ、さくらの頭をなでる。さくらは舌を出して間抜けな顔をする。

 実はカズ君がクラスの中で初めにさくらにさわった子だった。


 カズ君は犬に慣れているらしく、よくこうやって授業の合間になでてくれる。


 そしてさくらの足元にあるボールを拾って、僕に聞く。


「どう、久々に一緒に遊ばん?」


 カズ君はたまに、そうやってさそってくれる。

 でも、僕は首を振る。サッカーなんてできるはずないもの。でも、カズ君は、


「いや、別にサッカーしようって言ってるんじゃないんだよ。ボール使って、ヒロでもできる遊びくらいあるだろと思ってな。なあ、みんな、いいだろ?」


 そういって、運動場でサッカーをしていた5人の男子たちに聞く。


 彼はいつもこうやって、物事をすぐに決める。とても活動的で、リーダー的な存在だ。僕には、彼がとてもまぶしく見えた。とてもうらやましい存在だった。

 だからこそ、心苦しかった。そこから、わずらわしくも感じた。

 男子たちは口をそろえて開く。


「え~、サッカーしてたのに、急に何言いだすんだよ、カズは」

「そうだよ、ボール使って、車イスの人にできる遊びってなんだよ?」

「それより、サッカーの続きしようぜ、ヒロも嫌だって言ってるじゃん」


 ほら見た事か。みんなの遊びを止めてしまったせいで、まるで僕が迷惑をかけたような役回りになってしまった。


 しかし、カズ君はかぶりを振る。


「いやいや、俺は久々にヒロと遊びたいんだよ、最近付き合い悪いし。ドッジボールとかどうよ?それか中当て、これなら外野限定でヒロでもできるし」

 そして、みんなのしぶる顔。


「え~、でもなぁ、車イスに当てても大丈夫なのそれ?」

「弁償とかなったらヤダよ、僕。この前、家の窓を割っちゃったし」

「もういいじゃん。サッカーの続きをしようよ」


 これ以上は・・・ここにいられないな。


 僕は車イスのタイヤに手をかけて口を開く。


「いいよいいよ、僕、さくらと散歩の続きするから。それにもうすぐ、家の人がむかえにくるしね」


 そう言って、車イスをこいで、この場から離れようとした時だった。


「別にもう少しくらい学校おってもええよ、せっかくやしみんなと遊びいや、ヒロ」


 後ろから声がした。特徴ある関西弁、少しかすれつつも耳によく通る声、その正体は案の定、じっちゃんだった。


「それにヒロ、けっこう歩けるようになったやろ。ちょっと軽く混ぜてもらわんけ」


 じっちゃんがニヤリと笑って言う。ニッコリではない、何故か得意げな笑みだった。


「でも・・・ボールなんて蹴ったことないし、それに一人じゃなにもできないし」

「さくらおるやろ、なんのための犬やねんな」

「で、でも、でも、そんな、リハビリの先生とか、そんな許しでてないし」

「ワシが許す」


 なんて滅茶苦茶なんだ。僕はじっちゃんの無茶な提案に言葉を失う。


 更に、カズ君が楽しそうに話しに混ざってくる。


「そうだよ、ヒロ!今日もさくらと廊下歩いてたじゃんか。見た感じ傾いてはいたけど、しっかり歩いてたと思うぞ?」

「歩くったって、そんな、みんなみたいに走れるわけじゃないし・・・」

「じゃあ、俺らだけ走り禁止のサッカーってどうよ?前やったヤツ、競歩サッカー」


 カズ君の提案に他の男子も乗っかる。


「ああ、やったなーそれ。あれ足パンパンになるんだけど、いいんじゃない?」

「ん~、それならいいかもな。サッカーの続きにもなるし、案外おもろいかも」

「だね、それにさくらが入るんだろ、どんな風になるんだろうね」


 そんな無茶苦茶な・・・


 こうして、僕は人生初のサッカーをすることとなった。


※養護学校等に行きますと、子供によってはリハビリの時間がありました。

 装具を付けて学校の中を歩いたりします。もちろん、先生が一対一でついてです。

 低学部は基本一対一ですね。

 小学校でも支援学級の生徒には先生が一人付きました。

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