ぷろろーぐ
車イスに乗った男の子が僕の目の前にいる。年齢の割に、身長がとても低い子だった。
男の子は険しい顔をして、僕の隣におすわりをする大きな犬をにらめつけていた。
その男の子が声を荒げて言った。
「犬が来たところで、僕の足なんかが良くなるワケないよっ!」
そんな男の子が強気で、けれど弱音をこぼす。
僕は、「あぁ、この子も昔の僕と一緒なんだな」と思い、目線を男の子に合わす。
「そうだね、確実に歩けるようになるとは限らない」
「じゃあ、なんで!?」
「でも、この犬・・・この子は君に前へと進む勇気をくれるんだ」
「勇気・・・?」
「そう、勇気だ」
不思議そうに聞いてくる男の子に向かい、僕は優しい笑顔になる。
あの子のことを思い出すと、自然と笑顔がでてしまうんだ。
「僕の、かつてのパートナーの話をしようかな。僕にも犬のパートナーがいてね。その子は、どこかマヌケな顔で、でもとても優しくて、それでいて、あったかくて、心強くてね」
僕の言葉を聞いて、男の子は興味を持ったのか、顔に険しさが薄れていく。
「それでね、いつも、どんなときでも支えてくれる大切な・・・家族であり、パートナーだったよ」
「ふ~ん、よくわかんないよ」
「まぁ、そうだね。そこは一緒に生活しないとね。あとはそうだね、一緒に遊んだり、立つのや歩くのを手伝ってくれたり、あとは・・・一緒に踊ったこともあったかな?」
「踊るの!?犬と?」
「そうだよ」
「・・・その犬がいたおかげで、足が良くなって踊れたの?」
男の子が首をかしげて聞く。
「うん、なんというか、そうだね・・・その話をする前に、もう少し僕の思い出話を聞いてほしいんだ。僕のパートナーだったあの子の・・・さくらの話をね」