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 お昼休みはお弁当派、学食派、購買派、なにも食べない金欠派などに別れる。俺はときどき弁当持参の時もあるが、ほとんどは学食ですましている。

 学食五割、購買四割、弁当一割という割合で生活している。一年のときは食べないという選択肢も選らんでいたが、二年の今は妹が同じ高校に入学してきてそれを許さない。「兄さんが食べないなら私も食べません」と言われた時は黙って食うという選択肢しか残されていなかった。幸い学食は学生に優しい料金設定なので俺と雫はここの常連となっている。


 そして、今現在。俺の目の前にとても重大な問題が仁王立ちしている。俺との距離は約五メートル、それ以上は怖くて近づけない。朝にいつも通り学食で食べることを約束した柚月が、腕を組んで俺を見据えているからだ。


「遅かったわね」

「すまん」

「なにか弁明はある?」


 うぅ、どうやら不機嫌らしい。


「ありません」

「………そうよね。両手に花状態じゃ説得力がないしね」

「え?」


 言われて思い出した。屋上で二人の手を握ったままずっと繋ぎっぱなしだったことに。



「わ、わるい」


 今頃恥ずかしくなり手を離す。

 柚月の表情が心なしか多少緩んだ気がするのは俺の勘違いではないと祈りたい。


「いえ、大丈夫ですよ」


 クララの頬がまだ赤いが、手を握っていたためか走った所為かは考えないことにした。


「………ふふふ、遥真くんがここまで強引だったなんて知らなかったわ」


 くねくねとわざとしなをつくり、赤くした顔に手を当てているユリアには無視を決め込む。

 学食まで全速力で来たが、どうやら二人とも運動神経がいいみたいで疲れは確認できない。


「……まあ、彼女の話も知っているし、遅れた理由は大体想像がつくから許けど……」


 同じくユリアに無視を決め込んだ柚月がクララに目をやる。


「え、あの」


 突然話を振られた所為か戸惑っている。柚月は気にすることなく話を進める。


「初めまして、鳳上柚月よ。よろしくね」


 優雅に挨拶する姿は流石お嬢様だった。


「あ、はい! 獣人界から来たクララ・ローゼンベルンです。よろしくお願いします」


 我に返ったクララが背筋と尻尾をピン! と立てて慌ててお辞儀する。

 尻尾がゆらゆら揺れている。いきなり触ったら驚くかどうか試したくなってくる愛らしさだ。


「んん~? 遥真くん。尻尾フェチだったの?」

「ちがう………たぶん」


 目ざとく俺の視線に気づいたユリアが腕を引っ張り、耳元で呟く。吐息が耳にかかり、一瞬ブルっと寒気が来た。


「それで、遥真の許婚らしいけど本当なの?」

「はい。一方的にですが、私は遥真さんの許婚です」


 柚月「ふ~ん」と半眼で俺を見る。俺が苦笑いして返すと面白くなさそうな顔をしてクララに向きなおってしまった。


「いろいろ聞きたいこともあるし、折角だから一緒にお昼にしましょう。遥真もそのつもりだったのでしょう?」

「あ、ああ。そうだな」


 誘ってきたのはクララの方だったが概ね間違ってないため肯定する。


「そう。じゃあ早速食堂に入りましょうか。……と言いたいところだけど、まだ雫が戻って来ていないの」

表情に些細な呆れと慈しみが混ざる。


「戻ってきてないって……どこにいったんだ」


 兄としてかなり心配。


「それはもちろんお兄ちゃんのことが心配で心配でしょうがない雫は、噂を聞いて居ても立っていられず校内を駆けだし中よ」

「あ~、なるほどね」


 ユリアが苦笑して頷いている。


「雫さん……遥真さんの妹さんでいいんですよね?」


 遠慮がちにクララが聞いてきたので俺は即座に教えてあげた。


「そうだよ。俺の可愛い妹」

「……」

「……」

「……」


 ……あれ?


「みんな黙ってどうしたんだ?」


 急に沈黙が下りた。何かおかしなことを言っただろうか? 


「クララ。遥真のコレは真面目に答えているだけだから慣れないと駄目よ」

「ふふ、もっと凄いときもあるからね。思わず妬いちゃうほど」

「は、はあ。そうですか………」


 な、なんだ? 俺がなにかしたのか?


「遥真。惚気はいいから雫に連絡してあげて。ずっと待っていたんだから」

「お、おう。ちょっと待ってくれ、いま携帯に掛けてみる」


 これ以上妹に無駄な運動をさせないために携帯をとりだす。この学校は休み時間は携帯を自由に使っていいので助かる。

 学校に来てからというもの追いかけられてばかりだったので、携帯を見る暇すらなかったことを思い出す。そして……後悔した。


「……」

「どうしました?」

「い、いや。なんでもない」


 慌ててクララに首と手を振り誤魔化す。改めて携帯をみると、そこには柚月と雫からきたメールでいっぱいになっていた。ほとんどが分刻みでストーカーレベルに達している。

 恐る恐る柚月の顔を窺うと、俺の様子に気づいたらしくニコニコと笑顔で応答してくる。マジで怖いです。

 これは幼馴染が心配だったのか、それともいわゆるヤンデレ? のヤンの前兆なのだろうか本気で悩んでいると後方から聞きなれた声が飛んできた。


「兄さん!」


 振り返ると妹が息を切らして駆けよって来ている。


「雫!!」


 返事に答えるように手を振ると雫はまっすぐ迷うことなく俺の胸へダイブしてきた。もちろん熱く受け止めてやるのが兄の務めだぜ!


「兄さん! 心配したんですよ! 転校生の先輩の話を耳にしてからずっとメールをしても返してくれないし、電話も出てくれない。直接会いに行っても休み時間はずっと不在でしたし……」


 胸に顔を埋め、うるんだ瞳で見上げてくる。

 どうやら雫の方は純粋に俺の身を案じてくれていたようだ。


「ごめん。余裕がなくてメールには今気づいたんだ」


 安心させるために雫の髪を梳くように撫でる。公衆の面前でやるには少々気恥かしいが、昔からの習慣になっているので抵抗はない。

 雫も満足したのか不安の色はなくなり、されるがまま撫でられ続ける……というか抱きしめられてからずっと離してくれない。


「えーと……雫?」

「なんですか兄さん?」

「そろそろ離れてくれると……ね?」


 昼休みも後半にさしかかり、昼を食べ終えた生徒が食堂から出てくる。食堂の手前で抱き合っているせいか視線が痛い。だが、あえて離れてくれとまでは言わない。だって気持ちいいから。


「いやです。心配をかけさせた罰として、もう少しこのままでいてください」

 そう言って雫はさらに強く抱きしめてきた。制服越しに伝わる胸の柔らかさにどぎまぎしながらも、無理にはがそうとしないシスコンの俺。

 よく見ると雫の頬が赤くなっており、この状況を恥ずかしく思っていることがわかる。心配をかけさせた罰か……普段ならこういったことを率先してするような妹ではないので、本当に心配していたから離れたくないのかもしれない。

 その様子から幼かったころの姿を思い出し、また頭に手を置いてしまうのはシスコン兄の悲しいさがとして割り切った。


「それで、いつまで兄妹愛を見ていればいいの?」


 柚月が業を煮やしちょっかいをかけてくる。


「相変わらずラブラブねー」


 便乗してユリアも好き勝手に言い始めた。


「は~なるほど………素敵ですね」


 クララは彼女なりの結論に達したようだ。


「すっ! すいません!」


 余計恥ずかしくなったのか、雫は慌てて俺と距離を置きみんなに謝罪した。


「謝らなくていいの、雫。悪いのは全て遥真だから」


 反論しようとしたが、遅れて心配させたのも俺の所為なので何も言えなかった。


「く、容赦ねーな」


 俺が反論できないのがよっぽど嬉しいのか、柚月はご機嫌だった。


「そういう潔いところ好きよ」

「うっ」


 腐れ縁の幼馴染はときどき好意をすぐ口にするから返答に困る。


「さて、それじゃあ立ち話も何だから、食堂に入りましょうか」


 もちろん異議を唱えるものはいない。満場一致で遅めの昼食となった。

 昼を取りながらクララと雫は自己紹介をから始めてすぐ仲良くなった。そこから許婚の話しに持っていくと思いきやどんどん雲行きが怪しくなり、遥真トークが展開されていった。本人を目の前に俺の話をする美少女4人に悪意を感じた。そのためもともと時間がなかった昼休みでは本来聞きたかった詳しい話は聞けず、放課後集まって俺と雫のバイト先で続きをすることになった。


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