表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/26

24 秘め事~初めて出会った夜~

「……レイちゃん。怒ってる?」

「もちろんです」

「で、でもね、やっぱり私も心配だったし。それにあの方がどういう人か、この目で確かめたかったのっ!」

「お気持ちはわかります。ですが城を抜け出して、単身でこちらの世界に来たことは褒められたことではありません。一番危険な方は遥真様に変わりありませんが、お嬢様だっていつ、どんな輩に命を狙われるかわからないんですよ?」

「うっ、でもお父様が許してくれるわけないし……それに私のこの姿はほとんど誰も見たことないからばれないよ………?」

「ばれる、ばれないの問題ではないのです。そもそもその姿はあまり衆目に晒してはいけないものです。お嬢様が城を抜け出してこちらに来ている、と聞いただけでも慌てましたのに、捜してみればなぜか遥真様にお会いしていている最中。しかも変化したそのお姿で抱かれているわ、キスするわで驚きの連続。思わず悲鳴を上げてしまい私の存在もばれてしまいました」


 本日の午後。私は初めてレイシアとして遥真様に本来の姿で会ってしまった。予定に無かったことだったので少々混乱気味で遥真様に接してしまい、何を喋ったかまったく覚えていない。変な娘だと思われてないといいな……。


「それは相変わらずどこか抜けているレイちゃんのせいだと思うけど……」

「なにかいいましたか?」

「い、いえ。なんでもないです……」

「……ふう」


 私たちが話しているこの場所は、お嬢様が人間界にすむために造られた木造建築の一戸建て。価格は聞いていないがセキュリティーもしっかりしているので相当なものだろう。

 自宅だからといって警戒を怠らないようにしながら、私は襖越しにお嬢様とお話をしている。外は夜なので部屋から漏れる光が中にいる者のシルエットを作りだし、そのシルエットは小さな身体で尻尾や耳を頻りに揺らしている。


「お嬢様」

「なに?」

「今日はもう遅いですから寝ましょう。明日には使いの者が来ますから大人しく帰ってくださいね」

「えー」

「えーっじゃありません。それにいつまでその格好をしているおつもりですか? 何度も言いますが、その姿は衆目にさらすべきものでないんですよ」

「くぅーん」

「可愛らしく鳴いても駄目です」

「……もう、レイちゃんは相変わらずお固いんだから。……じゃあ変化を解く前に、一つお願いがあります」

「? なんですか? お嬢様」

「うん。そう、それ。お嬢様って呼ぶの禁止。今は城の中じゃないんだから違う呼び方があるでしょ?」

「うっ、そ、それは……」

「呼んでくれないと変化は解かないよ?」


 影は楽しそうに身体と尻尾を左右に揺らす。


「……わかりました。じゃあクララ様……」

「それも駄目」

「……クララちゃん」

「違うよ? ほらあの時のように」

「……」


 あのときは遥真様の前だったからばれないように仕方なく呼んだのに……。


「わかりました。……くーちゃん(・・・・・)。……これでいいですか?」

「はーい!」


 くーちゃんが嬉しそうに声を上げると同時に、さっきまで小さかった影のシルエットはすくすくと大きくなり、動物の姿から女性の姿へと変化した。


「レイちゃん。服を着るから手伝ってほしいな」

「わかりました。……失礼しますね。くーちゃん」

「言葉も固くなくていいのに……」


 クスクス、というくーちゃんの笑い声を合図に、私は主の部屋へと入っていった。


 これもまた遥真様に言えない私たちの秘密。でもそれもすぐ教えられる日が来るだろう。

 私が無事に護衛の任務を遂行して、くーちゃんを遥真様に会わせてあげるのだと、この夜により深く心に刻んだ。


おわり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ