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17 追跡者の一日③〈鳳条柚月〉

 普段立ち寄ることもないゲームセンターという遊技場の片隅に隠れ、尾行対象である男女ペア(カップルとは言いたくない)を見つめる。

 勉強一筋。中学ではガリ勉と揶揄されていた遥真が、他種族の女の子と初めてのデート。

 私と二人で出掛けても、幼馴染という肩書が邪魔をしているせいで、デートとは認識してくれない。


 ……ええ、もう清々しいほどに意識も認識もしてくれない。

 私自身が遥真の幼馴染であることを望んだとはいえ、この仕打ちはあんまりだ。

 クララと話をしている遥真を見た時はつい取り乱してしまったが、雫がいてくれたお陰で冷静な自分に戻ることができたのは不幸中の幸いだった。

 あの状態のままでは遥真とクララのデートに水を差してしまうところだった。あえて控え目な表現をしているが、ぶち壊す! なんて野蛮な表現はしたくない。


 まあ、私のことなんて今はどうでもいい。

 どうやら二人はクレーンゲーム以外では遊ばず、次の場所に行くらしい。

 見失うわけには行かないのですぐこの場から離れたいのだが……相方の雫が落ち込んでいるようなので先ほどとは逆の立場になってしまった。


「……雫。そろそろ行かないと遥真とクララを見失うわよ」


 遥真を守るためにメイドたちを警備に付けているので、見失うということは絶対にないけど。


「兄さん……」


 理由はわからないが、雫はなにかショックを受けるようなことがあったらしい。近くの椅子に座りこんでからまるで動こうとしない。


「私が言えたことではないけど、いつまで落ち込んでいるの?」

「だって……だって、兄さんの後ろは私の特等席なんです」

「……なんですって?」

「私でも最近は自重していたのに……。まさかクララ先輩があんな大胆に抱きつくなんて……」

「……」


 いえいえ、あなたけっこう遥真の後ろに隠れていますよ。自重しきれていませんから自覚しましょう。とツッコムところかな……。

 昔から遥真の後ろにピッタリとついて歩く娘だったけど……まさか特等席と考えていたなんて初めて知った。


「私の居場所……」

「大丈夫よ雫。クララは取ったりしませんよ。ただ遥真のことを驚かそうとしたんじゃないかしら? 現に遥真はとても吃驚していたようね」


 雫の拗ねかたに微笑ましいものを感じながら、適当な言葉を並べる。


「そうでしょうか……」

「うんうん! だから気にしないで追いかけましょう」

「……はい」


 立ち上がった雫の肩を押しながらクララが遥真に抱きついた瞬間を思い返す。

 私としてもちょっと羨ましかったな……とは思ったけど先程取り乱したばかりですからなんとか抑えられた。それに抱きつくよりも撫でられたいなー……なんても思いましたが今は別の問題がある。

 雫の関心は遥真が抱きつかれたことだけだったのが幸いした。たしかに第三者から見ればクララが抱きついているように見えたが、そこに至るまでの過程が異常だった。

 遥真に肩を叩かれた瞬間。クララは一瞬にして遥真の背後にまわっていた。あのすばやい身のこなしに体捌き。武術の心得があるとしか考えられない動きだった。メイドたちに日々守られ、身近に武術を感じることのできる私にはわかった。アレはプロの動きであることを。


 抱きついている……そう見えなくもなかったが、クララの片手が遥真の首に伸びていたのも違和感がある。

 あの行動の意味がわからないにせよ、首に手を置くことなんて普通はしない。クララには悪いが、表現を悪くすれば人質を盾にする犯人のようにも見えた。

 そう考えただけでいい知れぬ不安がこみ上げてきて、やきもちを妬いている場合ではなかった。

 その不安を拭い去るためと案の定見失ってしまった遥真たちの行方を知るために、私はメイドに緊急の連絡を掛けた。


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