15 追跡者の一日②〈七瀬雫〉
「兄さんとクララ先輩、楽しそうですね」
「……そうね」
二人が楽しげに歩いているのを見て正直な感想を述べた。兄さんが笑っている姿を見るのは好きだが、その隣に自分がいないことに寂しさが募る。
柚月先輩の車に拾われた私は、兄さんより十分程度早く駅に着くことができた。そこにはすでに約束の時間より断然早く到着していたクララ先輩の姿があった。
私と柚月先輩は車を降り、見つからないように物陰からこっそりとクララ先輩の様子を窺った。珍しいことに、クララ先輩は忙しなく広場を右往左往していて落ち着きがなかった。もしかしたら兄さんとのデートのことを考えて緊張しているのかもしれない。羨ましいな……。
遅れて登場した兄さんはクララ先輩が先に来ていたことに驚いているようだった。
申し訳なさそうに謝っている姿を見た時はこのデートの行く末が心配になった。
だがそれは杞憂に終わる。会話がなかったのは最初だけで、後からは楽しそうに笑い合っている二人は恋人同士のそれに見えた。
「心配はいらなかったようですね」
「……そうね」
兄さんたちが近くのゲームセンターに入っていくのを見守り、同行者の姉に声を掛ける。
「……どうしましょうか。もう帰りますか?」
「……」
やきもちを抑えるためにこれ以上は見ていられなかった。だが、私以上に嫉妬に燃えていた女の子がいた。
「……ずるい」
「……え?」
「ずるい!」
誰にも聞こえない声で呟いたと思ったら、次は突然声を張り上げた。
「ゆ、柚月ちゃん?」
思わぬ出来事につい、昔の呼び方をしてしまう。
「あんな遥真見たことないわ! 私と二人で出掛けてもデートと思ってはくれないし、それに…………それにっ! あんな風に恥ずかしそうな顔を見せてくれたこともっ!」
我慢の限界だったのか涙目で一気にまくし立てた。
「落ち着いて。柚月ちゃん! 兄さんはクララ先輩と知り合って日が浅いから、話すのが照れくさいだけですって!」
「でも! でも~!」
ダダをこね始めた柚月ちゃんは資産家の令嬢の見る影もなかった。
そういえば昔から、兄さんに付かず離れずの態度で接していたがこの人も兄のことが好きなのはなんとなくわかる。何かしらの事情で告白できないのか。それともただ単に勇気を持てないだけなのか(人のことは言えないと反省)一歩踏み出すことはしなかった。
その理由はわからないが、
「もうだめ! 遥真に文句を言ってきます!」
「柚月ちゃん! 堪えてください! まだ始まったばかりなんですから!」
まずは姉の暴走を抑えることに専念しなくてはいけなかった。