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俺は緊張している。歩調よりも数倍早い鼓動は、まるでここから逃げ出したいと、急かしているようにも思える。どうしてここまで緊張するのか……考えるまでもない。隣にクララが歩いているからだ。
ただでさえデートなど行ったことのない俺に美少女であるクララが横を歩いている。それを考えただけで動悸が激しくなるのはしかたがないってものだ。
女の子と出かけることは今まで何回もあった。二人きりの時も多い。でもそれは昔からの馴染みである柚月や雫と『買い物』という名目で出掛けていたから平静でいたのであって、クララとはまだ知り合って二週間とたっていない。
あれやこれやと言い訳を考えているが最終的に何が言いたいかと言うと……クララとなにを喋っていいかわからないのだ。
広場を離れてからすぐ自分の不甲斐無さに気がついた。こんなことだから恋愛に疎いなんて言われてしまうんだ。
どうする? 話しかけるか? 男としてリードするべきじゃないのか?
思考を張り巡らしながらクララを横目で見る。カジュアルで動きやすそうな服で身を包み、手提げのバックを持っている。学園ではまた違った雰囲気を華持ち出し、余計に俺の緊張を促している。だが、そこで俺は彼女が出している異質な雰囲気に気がついた。表情は穏やかそうに見えるが目に鋭さを感じる。まるで何かを警戒し、威圧しているような佇まいだった。その普段との違いに俺は一種の畏怖さえを覚えた。
「クララ。大丈夫? なにかあったの?」
心配になった俺はさっきまで話題に困っていたことなど忘れ、クララに話しかけていた。
「……え、どうしてですか?」
「なんて言ったらいいかな………思い詰めてるって言うか、心配ごとでも抱えてるように見えたから」
そう言うとクララはパチクリと瞬きして苦笑気味に呟いた。
「……まだ私も精進が足りませんね」
「ん? ごめん、聞こえなかった。なんて言ったの?」
俺の耳に届かなかった言葉を聞き返す。
「ふふ、なんでもありません。遥真さんは私のことをずっと見てくれていたんですね」
突然ほほ笑んだかと思ったら探るような目つきで恥ずかしいことを言われた。
「いや! ずっと見ていたわけじゃないんだ。ただそのクララの服が似合ってて可愛いなーなんて思って……」
狼狽してつい本音を漏らしてしまった。
「ふふ、ありがとうございます」
どこか小悪魔めいた笑顔は俺の反応を楽しんでいるのかもしれない。
クララにからかわれるのは初めてのことだったが、別の一面を垣間見ることができて嬉しかった。
それから最初の目的地であるゲームセンターに着くまで俺たちの会話は尽きることがなかった。