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推し王子世界

私は探偵になりたくない!

作者: トバリ

私が生まれ変わったこの世界には生まれた時から人々は職業(クラス)と名付けられた能力を手に入れている。


それは人々の個性として育てられ花開く。派手なもの、地味なもの、人それぞれ。軽業師(アクロバット)前衛戦士(ヴァンガード)吟遊詩人(カンタストリ)などなどだ。人の数だけ職業はあるけど、沢山の人々が世界中にはいる。職業が被ることもある。むしろ、大体被ることのほうが多い。だからレアな職業ほど偉い、とかそんな優劣が付いていたりする。


職業によるスキルは便利だ。だから実際に働く仕事に関わってくることもある。


さて。そんな職業に囚われがちな世界で、人々は本当に生まれ持ったモノに納得しているのだろうか?


「するわけない!!」


窓越しに昼の柔らかな陽射しを受ける机をバン!と音を鳴らして机を叩く。積まれていた本が揺れる。


私の名前はソフィ・ティート。前世は日本人の女子高生。将来の夢はニートだったパソコンがお友達のダメ人間だったよ!


この世界はありえない。だって生まれ持った職業でもしかしたら一生が決まるかもしれない。八割はかもではすまない。職業のスキルは大きい。


そしてレアな職業ほど求められ、その職業内でも性能によるランクがある。高ければ高い程、それがどんなものであろうと、保護という名で監禁されてしまうという。恐ろしい。逆に低いレア度の、もはやレアとかつけられないレベルに溢れ返った職業は、求められない。自由度が高いともいう。自由はあれど劣等感はある、らしい。生きづらい世の中……。


そんななかで、私の持った職業はというとユニーク職業と呼ばれる探偵(ディテクティブ)だった。探偵。探偵とは隠された事を調べるもの。真実を探るもの。つまり。


前世のニートになることを再び夢見る私には向かない。


絶対に一日中外を出歩くじゃないか。無理無理。しかし職業レア度ランク共に星五つ。ソシャゲでも最高レア。出たらパーティに必ず入れるやつ。外出は不可避。


今はまだ学生として生活しているけど、もうすぐ私の十六歳の誕生日。精神的にやばくなる事件に関わることができると決められた年齢。SAN値ピンチ。


「ソフィ。図書室で大きな音は鳴らさない」


目の前で軽く注意をしてきたチャールズ・ラスト。白い髪と黄色い瞳は陽射しを浴びて煌めいている。一年生の白い制服を着ていると本当に白いな。現実味のない容姿は常々本当に私の幼馴染だろうかと疑問に思わせる。しかしチャールズの両親が仕事が忙しいときにご飯を家でよく食べていたりしたのでこいつは幻ではない。


「だって何を読んでもニートになれそうな例がない」


「またそんなもの……」


机にだらんと無気力に頭を置く。頭に刺さる呆れている視線は無視だ。こいつはいつも私を嗜める。こんなでも私は追い込まれているのだとチャールズを睨んだ。


「チャールズは嫌じゃないの?決まりきった未来とか、押し付けられる職業関係のものとか!探偵の副業始めた覚えないし!まだ学生だし!」


ブラックな社会だ。当たり前のように仕事をさせるのだから。今こうして学園の図書館に私たちはいるけど、今も仕事をしているらしい学園の王子様とか呼ばれている先輩もいるらしい。見たことないけど。


「それは……僕は軽業師(アクロバット)だから。大したことはしてないから」


私の言ったことに何か思い当たることがあったのか、チャールズは目をそらした。


「大道芸も危険そうだけど」


「ソフィは、ニートとかそういうのは置いといてさ。危険な事件に関わりたくないんだよね?」


「うーん。まあ、そうだね」


毎回思う。チャールズがニートと言うと違和感が半端無い。


「そっか」


なんて話をしていても時間は過ぎて行く……。

本日、私の(永遠に来て欲しくなかった)十六歳のお誕生日です。わー、ぱちぱち。かなしい。


「では、ソフィ・ティート嬢。これから宜しく頼むよ」


警察の偉い人に頼まれてしまった。凄く頭の悪い感じがあるけど、私は何もわからない。何故か最近出て来た怪盗を捕まえろ、という任務が私に来た。警察の偉い人的に怪盗には探偵というお約束という名の夢あるそうで、怪盗を捕まえるまでは怪盗専門で宜しく、という事。まじで……!?


あれが職権乱用というものか?と疑問に思いながら夜空を眺める。さて、23時に【封じられた館】にある【覚醒のクリスタル】を手に入れる……と、予告状をご丁寧に警察に送り付けた怪盗とは。


怪盗スノームーン・ゼロ。名前以外はアンノウン。以上。全く何もわからない。え、大丈夫なの?これ。クリスタルは星五つの錬金術師(アルケミスト)が作ったどんな職業の不安定なスキルも安定させるといわれるレアな代物だ。お金にしたら一億はするよね……そんなものを狙う人物……。


だけど当たって砕けるしか私には道がない。これだから嫌なんだ。世の中って。期待の目を見せる警察の皆さんを背に私は館に入る。これがソフィ・ティートの最後であった……みたいになったら呪ってやるからな!


ギィ、と軋む扉を開ける。心臓が早くも飛び跳ねている。


「こんばんは、お嬢さん」


「うわあああああ!!!!」


扉を閉めるために背後を向いていると前から声をかけられた!驚きと恐怖で頭が真っ白になった。


前を向くと、あれ……。


「…………チャールズ?」


「こんばんは。初めまして、お嬢さん。俺はスノームーン・ゼロ。ゼロと呼んでくれ」


真っ暗な館の中、真っ黒な髪のに黄色い瞳、真っ黒で高そうなマントに帽子に服。怪盗だ….…。怪盗ファッションの黒チャールズがいた。


髪の毛が黒いチャールズだ。


「チャールズではない?」


「怪盗スノームーン・ゼロだ。探偵のお嬢さんは?」


「ソフィ・ティート」


雰囲気が違うので別人なのだろうか。じっと見ていると苦笑いをされた。名乗られた名前は今回の怪盗の名前だ。ひとまずチャールズ云々は置いておこう。


「じゃあ、ソフィ。俺と勝負をしよう。先に【覚醒のクリスタル】を手に入れた者が勝ち。お前が勝ったら俺は捕まる。」


「ゼロが勝ったら?」


「……そうだな。その時考える」


そうして始まった勝負であった。しかし。


「仕掛けが!きっつい!!」


「そこの仕掛けは解くなバカ!」


探偵の勘で仕掛けを解いたら余計な物まで解いてしまっていた。からくり屋敷か、ここは。天井からタライまで落ちてきたりする。今は落とし穴に落ちた。


「ほら、手を出せ」


「はい……」


その度に助けられている。探偵と怪盗だというのに。何なんだ一体。


「探偵のスキル、普段使ってないんだろう。熟練度が関わる【見抜く】スキルが成長していない」


「探偵になんてなりたくないし、使わないから」


「それで今こうなってんだろ。ほら、先に行くぞ」


「待て」


ゼロの言葉に言い返せない。とても腹が立つけど、なりたくないとあれこれ言おうと、行動したり、しなかったりしても今ここに私はいる。しかもスキルを使いこなせずに罠にかかるし。散々だ。突き付けられる現実が嫌だ。


でも、今はさっさと進む奴を追いかける。チャールズみたいな黒い奴を負かしてやりたくなった。八つ当たりだ。


追いかけて、横に並ぶ。ゼロの後ろにいてやるものか。横で笑った声がしたから足を踏んでやる。避けられた。おのれ。


「これがクリスタルだ。さあ、手に取れ」


月の光の差す部屋で、ゼロが輝く宝石を指し示す。


何を言っているんだろう、こいつは。クリスタルといわれた宝石はキラキラしていて綺麗だ。しかし。


「これはクリスタルじゃない」


「何故そう思う?」


「これは、ただの普通の宝石だよ。キラキラして綺麗だけど本物の【覚醒のクリスタル】なら、魔力的要素によってむしろ光らないはずだから」


「ふうん。スキル、使ったのか?」


「あんたが煽ってくるからでしょ」


にやりと笑うゼロを睨む。そんな私の手に奴は黒と白の丸い石を乗せた。まさかこれは!と目を見開く。


「ははっ、そっか。じゃあコレ、本物のクリスタル。どうぞ?」


「はっ?いらない。勝負に私、勝ってないでしょ!」


「おいおい、仮にだとしても探偵だろ?怪盗が狙うお宝を渡してんだから受け取れよ」


手に乗せられたクリスタルを押し返す。勝った要素の無さすぎる私にこれは馬鹿にしているのか。正しそうなこと言ってくるのが腹立つ。


「そもそもが怪しいんだけど、ゼロが怪盗って本当?というかやっぱりチャールズじゃない?仕掛けがあるにしろ警察は何で入ってこないの?これ自体罠だったりしない?」


「あー、えっと」


疑問を苛立ち任せに放つ。するとゼロは言いよどんで視線を彷徨わせる。


バァン!と突然部屋の扉が勢いよく開いた。


「課題クリアーーーー!!」


「えっ」


現れた人物はあの警察の偉い人だった。どこか嬉しそうな感じで、口元を上げて、宝石の輝きのように目をキラキラさせている。


「あー、ソフィ・ティート嬢。この度は探偵と怪盗コンビの第一課題に合格。おめでとう!及第点の部分が大きいが、君とゼロならば大丈夫だろう。私達に夢を見せてくれ!」


「は?」


第一課題……?何だかよくわからない言葉が出てきている。


「ちょっと。リーダー、まだ説明してない」


謎すぎる流れに乗れない。疑問符を量産しているとゼロが偉い人にストップをかける。これもまた謎。


「なんだと?お前、あんなにソフィ嬢をパートナーに推しておいてまだ説明をしていないのか」


「うるさいな」


親しげな二人。つまり、やはり、今回の事は罠だったのだ。しかし理由が謎。


「えー、おほん。ソフィ嬢、実は今回の事件は、事件ではなく……その、怪盗スノームーン・ゼロの相棒を決めるものであって」


「何故警察が怪盗の相棒を?」


もはや私はジト目で彼らを見ていた。


「ゼロは警察の極秘なんだ。表立って証拠を掴めないもののための存在。職業が怪盗であることが必須条件。この人は先代の怪盗。」


「はあ」


「おいチャールズ、親に向かってこの人呼ばわりするな」


理解が追いつかないときに爆弾をうっかりで落とされた。


「ちょっと!」


「えっ」


親。父親。チャールズ。


「やっぱりチャールズなんじゃん!」


「そこ!?ソフィ嬢今そこ!?息子がお世話になってます!!」


「こちらこそチャールズのお父さん!」


「おい、やめて!!」


現場はカオスとなった。


***


「それでなんでチャールズは髪の毛黒いの?染めたの?」


場所を改めてチャールズの家へ。ソファーに座り横にいるチャールズに問いかける。


怪盗(ファントムシーフ)のスキルだよ。というか聞きたい事ってそこ?」


呆れた目をするチャールズ。服装は館を出る際、私服になった。あれもスキルだったのか。


「軽業師は偽装だったんだね」


「それもスキル」


「何で私を相棒に推したの?」


「少なくとも相棒になれば、危険度は高いこともあるけどそう変わらないけど僕が一緒にいる。守ることもできるから」


そう言って顔を赤く染めたチャールズを見て私は言った。


「横に並ぶよ。負けたくないからね!」


そうして、私たちは探偵と怪盗コンビになった。


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