魔女王様の視察 内政府編。
翁とのお茶のみ話しとも言える意見交換も終了したわねえ。
最後は、政務関連かしら?
あら、どうしたの?レディウス、いつもより機嫌が悪そうだわ。
え?今までの2カ所は待機していたのに今回は付いてくるの?
・・・・・犬猿の仲だものねえ、貴方達。
《傲慢なりし鬼才の宰相 エドワード 》
「よくぞ、お越し頂きました。敬愛なる我が君。」
国政を預かりし文官の集う王宮の一角にある内政府に、俺の声が朗々と響く。
「お邪魔するわ、エディ。何か困っていることはないかしら?」
俺の歓迎の言葉を受けて、年頃に似合わぬ退廃的な雰囲気を持ちながらも、咲き綻び始めた大輪の黒薔薇のような美しさを魅せる我が君は艶然と微笑んでみせる。
俺は無意識に目の前の少女に魅了され喉を鳴らす。目の前に無防備に晒された我が君の白い首筋へ思わず手を伸ばそうとすれば無粋な輩に邪魔される。
「おやおや、誰かと思えば執事殿ですか?
ここに貴男は必要有りませんよ、私に任せて退室されて結構です。
(てめえがここにいる必要はねえ。さっさと失せろよ、糞犬が。)」
「主の側に侍り、悪しき魔の手より尊き御身をお護りする事も我が役目と心得ております。
(貴様のような輩がいる場所に我が君を置いていけるか、馬鹿猫が。)」
俺たちの間に火花が散るのは幻影じゃ無いはずだ。我が君の心も、身体も何もかもが欲しくて、堪らない俺の邪魔ばかりするこの糞犬。おかげで、我が君を口説けやしねえ。
「・・・・・二人が仲がよいことは分かったから、話しを進めても良いかしら?」
『仲良くなど有りませんっっっ!!!』
声をそろえて抗議する俺たちへ呆れたような眼差しを送ってくる我が君。くそっ、だからこいつは嫌いなんだっ!
「・・・取り乱してしまい申し訳ありません、我が君。
ご報告いたします。まずは、我が君によって数を増やして頂いた農耕用ゴーレムの稼働は順調です。
おかげで、予定を前倒しにして耕作地域拡大は進んでおります。
また、外よりの移民ですが前回報告させて頂いてからは特に今のところ追加では来ておりませんね。」
「そう、耕作地が順調に拡大できていることは何よりね。
以前に、話した肥料や農作物の掛け合わせなどはどうかしら?」
「肥料に関しては、移住してきたホビット族の者達が改良を重ねてまずまずの結果が出ています。
植物の掛け合わせに関しては、エルフ族に一任していますが結果が出るまでにはしばらく時間を要するでしょう。」
俺の言葉に、我が君は静かに頷いている。後ろに控えている糞犬がすげえ目障りだがな。
「あとは、今後の国民増加に伴う街の建設に関してです。
我が君が予定している4都市のうち農耕と研究都市とする予定の"クリサンセマム"は徐々に形になり始めました。」
我が君の考えでは、国民が増えていけばこのルシファート王国の王城がある城下町を王都に定め、四方を囲むようにそれぞれの特徴を持った都市を造る予定となっている。
まずはゲイプラー大森林の側、王都の南側に"農耕と研究都市 クリサンセマム"。
アビス大山脈の麓、王都の北側に"工業と創造都市 リリイ"。
ダットイング海域の港、王都の東側に"文化と芸術の都市 ジェンシャン"。
イエンソド大湿原の入り口、王都の西側に"商業と冒険都市 リコリス"。
そして、王国の中心である"政治と教育の王都 ダークロゼ"
今後、大きく成長を続け、いずれはどの大国をも凌ぐ国力を持った王国となっていくことを想像する。その大国に君臨する、今以上に美しく成長した我が君の横に己が立っていることを夢想するだけで、身体の底から震えが走る。
数年前までの妾の子だと蔑まれていた境遇との変わりように、我が君に出会えた奇跡に感謝せずにはいられない。
「エディ、これからはもっと、もっと貴男の力が必要になってくるわ。
だから、私のために、私の造った国のために力を捧げてちょうだい。」
我が君の言葉に指先まで余すことなく己の身に歓喜が広がっていく。
欲の籠もった濃紺の双眸を隠すこともせずに鬼才の宰相は跪く。その表情より伺い知れるは、忠誠と暗い情欲の感情であった。
「承りまして、我が君。
全ては貴女の理想のままに。」
俺が欲する愛しくも、手に入れ難き美しき黒薔薇よ。俺の魂の全てを捧げ、何処までも共に墜ちていきたいと請い願う、忠誠を誓いし愛しき黒薔薇の魔女王陛下。