魔女王様のお仕事 玉座の間。
玉座に座った私の後ろにレディウスとアイリスが控え、紅い絨毯が広がる私の視界の一番前にまずは3人の人物が控えている。
「翁、エディ、ナギ、報告を聞くわ。」
『イエス・ユア・マジェスティ』
--顔が引き攣って無いかしら?こういう風に言われるのって、いつまで経っても慣れないのよね・・・・・。
私の目の前にいる3人の言葉に引き攣りそうになる顔を必死で隠して、話しを聴く体勢に入る。
まず進み出てきたのは、3人の中で1番年長そうなゆったりとした服装の初老の男性。ロマンスグレーの髪がよく似合っている彼の正体は、王国の側にある"アビス大山脈"を住み処としていた数千年の時を生きている古代龍である。
現在は、私の側近の一人として相談役を務めている。
「ほっほっほ。儂から報告しますかのう。
我が君の願い通り、民衆のうち幼い子どもたちへの義務教育機関の立ち上げ、学習意欲ある若者のための学院を開校する準備はまもなく全て整いますのう。」
「そう、私が目指すのは優秀な人材が、愚か者の中に埋もれない未来よ。
この国が発展していくためにも重要な役割だわ。これからも、よろしく頼むわ、翁。」
「ほっほっほ。頼まれましたぞ、我が君。」
報告を終えた翁が下がれば、次に進み出たのは3人の中で唯一の女性であった。
黄金の鬣のような髪を靡かせ、自信に満ちた蒼い瞳、大柄な身体には大小様々な傷跡がある。しかし、1番目を引くのは黄金の髪より生える動物の耳と、腰よりしたの辺りより生える長い尻尾である。彼女は、数年前に私が他国にあった闘技場で気に入り勧誘した獅子の獣人であった。
現在は、私の側近の一人として軍務を束ねる大将軍を務めている。
「あたいからも報告させて貰うぜ。
我が君の命令通り、兵士の質の向上は予定通り進んでいるぜ。
ただ、他国の動向を探る諜報機関作成には人材が足りてねえ事もあるから、もう少し時間が欲しい。」
「兵士の質の確保はこれまで通り続けてちょうだい。
そうね、人材に関しては外の捨て子でも集めてきなさい。
そして、徹底的に忠誠心を叩き込めば使えるでしょう?
今後、巡礼者を装った密偵とかも欲しいから使える者は使わないとね。」
「・・・わかった。」
「ナギ、貴女の仕事は私の剣よ。
とても、期待しているの。これからも、よろしく頼むわ。」
「ああっ!我が君の期待に応えてみせるぜ!!」
しゅんと耳を垂れていたけど、私の言葉にやる気を漲らせているわ。
最後に進み出てきたのは、ブルネットの髪を襟足の辺りまで伸ばした、濃紺の瞳を持つ青年。周囲へは、口元に傲慢そうな笑みを浮かべ見渡し、主にのみ誠実そうな顔を見せる男の色香漂う美男子。他国において高位貴族の妾腹の子として産まれ、その才能を潰されそうとしていた所を私が拾った男。
現在は、私の側近の一人として内政を司る宰相を務めている。
「私からも報告します。
我が君の指示通りに農場の拡大を進めています。
農場より、肥料などの開発で十分な収穫も得ることが出来るようになってきました。
しかし、今後飢饉などの事も考えますと、十分ではないかと。
そのためにも、開墾速度をもっと上昇させるために我が君のお力をお貸し下さい。」
「わかったわ。民を飢えさせないことは重要だわ。
レディウスに私の予定を確認しなさい。」
「仰せのままに我が君。」
3人の報告を聞き終わり辺りを見渡す。3人以外の配下も私の一挙一動に注目していることが分かる。
「・・・この地に降り立ち、国を立ち上げて5年。
長くも、短い5年だったわ。鬱陶しい周辺国家どもは、未だに"私"を求めているみたいね。
けれど、私の恩恵を受けられるの者は、この私の王国に住む者だけ。」
私の言葉を一字一句聞き逃さないようにしている彼らに向かって、静かに、けれど良く通る声で言葉を続ける。
「私は、栄光など求めない。
私が求めるのは、己とこの国に住まう者達の静穏だけ・・・・・。
それを害する者は許しはしない。
容赦なく私に力になぎ払われ、醜い屍を晒すことになるでしょう。」
艶然と微笑みを浮かべ、凶悪な魔力を纏い、宣言します。
「全ての勝利は私のために。」
その宣言と同時に文字通り城が揺れるのでした。
・・・・・害されると思うと、中二病的な発現が飛び出すようになった、この癖をいい加減なおしたいわね・・・。配下の雄叫びを聴きながら、思わず虚空を眺めてしまう私だった。