魔女王様と他国の情報。
この世界について少し語ろう。
この世界は、未だに人間が越える事が出来ていない未開の大地は少なくなかった。
例えば、荒波を超えた海の向こう側。果てしなく広がる砂漠の果て。
今、私達が立っている大陸以外にも、人間が住んでいる場所があるのかも分かっていない。
そして黒薔薇の魔女王が治めるかの国以外に、この大陸には大小様々な沢山の国が有る。
その中でも特に大きいのは、"聖女"が住んでいる信仰の中心といえるマグミッタ聖王国と国土の中に広大な砂漠を持つ砂漠の民が集まったリバミピド帝国、そして二家国よりも少し小さいエルフや獣人達の集う連合国がある。
他中小様々な国々は、そんな巨大な聖王国と帝国に挟まれ、それぞれが争い、同盟を結び滅んだり、建国したりを繰り返している。
王城内にある小会議室の一室に6人の人影が見えた。集まっているのは魔女王を初めとした幹部達5人と深紅の密偵だった。
「うふふ、昨日は4人ともご苦労様。みんな素晴らしい闘いぶりだったわ。」
私の言葉に嬉しそうに顔を綻ばせるナギを初めとした3人、表情が特に変化する事が無いロキ。
しかし、すぐにアイリス以外の全員が嫌な事を思い出したとばかりにげっそりとした表情を浮かべた。その原因を作った彼女は昨日のうちに意気揚々と住み処へ帰宅している。
「さて、楽しい時間は一旦終了よ。
今回皆に集まって貰ったのは、私が連れてきた元帝国の密偵からの情報を共有するため。
・・・レディウス、初めてちょうだい。」
「はい、承りました」
レディウスが私からの指示を受け、他国の情報に関する説明を開始する。ロキは元密偵という事で様々な種類の情報を持っていたけれど、その中でも気になる事があったわ。
それは、エルフや獣人達を代表にした亜人達の国について。
小さい国々が争ったり、滅んだりするのはいつもの事。そんな愚か者どもと決して関わろうとしなかった彼らが、何故かおかしな動きを見せているらしいのよ。
「まずは、こちらをご覧下さい。」
会議室の大きな机の上に一枚の簡易地図が広げられる。
「簡単にしか書いていませんが、最近聖王国の活動が再び活発になっています。聖王国に隣接する小国を初め、亜人達の国の方向へ傘下、・・・失礼、同盟を結び影響力を伸ばしているのです。」
聖王国は、この大陸の東の果てにある私の国から見れば南西の方向にあるわ。そして、亜人の国はこの国の北西側、帝国は亜人の国のさらに向こう側にあるのよ。だから、大きな国の中で一番近いのは亜人の国と言っても良いわね。
「・・・聖王国の亜人を見下した宗教は知ってるけどよぉ、何で今更そんな事をしてんだい?
今まで通り捨て置けばいい話だろうに。」
獣人であるナギが忌々しそうに告げ、エルフのアイリスも嫌悪感をあらわにしている。
「元帝国の密偵であるロキだけの情報では、今ひとつ真実みに掛けますが聖王国の現王が病を患っているとか。・・・再び、我が君を手中に収めんがため亜人の国へ圧力を掛けているとの事。」
『!!』
レディウスの言葉に皆の剣呑な雰囲気を宿した視線が情報をもたらしたロキへ降り注ぐ。居心地の悪い雰囲気に、多少は顔を顰めてしまっているロキ。
「・・・うふふ、情報をロキは私達に提供したに過ぎないでしょうに。
そんなに睨んでは駄目よ。」
「ですがっ、・・・あの愚王は再び貴女様を狙い始めているのですわ!」
アイリスが嫌悪の感情を隠しもせずにその顔に浮かべ、他の者達も一様に侮蔑の感情を瞳に浮かべている。
「ほんに権力を持てば、持つほどに我が君以外の人族の者は愚かとなるのう。
永遠に老いぬ身体、果てなく続く命など有りはしないというに・・・。」
「だから、愚王なのですよ。
聖なる王国などと掲げながらも、あの国の実態は貴族だけでなく、神官や王族さえも腐りきっているんですから。」
聖王国出身のエディの言葉には、実体験を伴っているせいか妙な説得力があるわね。
「・・・話しを続けますよ。
圧力を掛けている理由は、皆様ご推察の通り亜人が囲っているという"我が君"です。
愚か者達は、そのようなくだらない噂を信じているのです。」
「とんだとばっちりじゃねえか。」
「そうじゃのう。じゃが、亜人達には圧力を跳ね返す力は無かろうて。」
「・・・亜人達は、俺の最後の情報では"魔女"を探していた。」
・・・ロキがまともに話したの初めて見たわねえ。でも、その言葉で皆が浮き足立っちゃてるわ。
「・・・巫山戯ないで頂きたい話しですね。
己達が助かるために我が君を献上するつもりという事か。」
「私と同じエルフ族もいると言うに、何という愚かな真似を・・・。」
エディとアイリスから魔力が渦巻き、立ち上り始める。
「・・・そっちがその気なら、例え同族であろうと容赦はしねえ。」
「ほっほっほ、なんじゃったら儂も手伝うぞい。」
ナギと翁は殺気を漲らせているわね・・・。
「我が君の御身を生け贄にしようなど以ての外。
身の程という物を教えて差し上げなければいけませんね。」
・・・レディウスが私のために怒っているわね。ロキは、・・・部屋の隅の離れた場所で皆の変わりようにちょっと引いちゃってる感じかしら。
まあ、そんな彼らの好きにさせてあげても良いんだけどねえ・・・。
「あら、そんな必要は無いわ。」
『我が君!』
皆が揃って抗議の声を上げるけど、本当に必要ないもの。
「亜人達がここに来る事は出来ないし、放っておけば勝手に滅びるじゃない。
そんな事に手を出すよりも、私はこの国を整え、力を付ける事を優先するわ。」
私の言葉でも、あんまり納得していない顔をしているわねえ。
「私は、くだらない外の争いで貴方達を汚したくは無いわ。
貴方達は私の大切な側近達なのだからね。」
私の言葉を受け彼らは、何者にも変えられない宝を得たかのような表情に染まる。
『イエス・ユア・マジェスティ』
そして、私へ恭しく頭を下げる姿が私の前に広がった。




