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五話 初陣①

 町を出た旭はそのまま北暁街道を北上する。


 馬を気遣い速足と並足の割合を高めて移動しても、これまでの倍以上の速さで進む事ができる。

 夕方には予定の村に到着した。 

 村では夕食と宿を取り、これと言った出来事も無く就寝し無事に夜が明けた。


 翌日もそのまま街道を進む。

 馬の呼び名が無いのも勝手が悪いので、旭は昨晩馬の名を雪風と考えておいた。

 たまたま山肌に残る残雪を目にしたのと、昨日が風が強かった為である、特に意味は無い。


 旭は雪風を乗り潰さないために、一日の移動距離を三十キロに抑える事にした。

 騎馬隊の一日の移動距離が七十~百キロであるのを考えると、いささか短い感じもするが仕方が無いだろう。

 

 雪風に跨りながら坂上郡を抜けるとその先の栃尾郡に入る。

 この辺りから北暁街道は北西に進路が変わる。

 

 旭は栃尾郡に入るのは初めてである。

 ただ熊吉が最後に参加した戦地が、ここ栃尾郡の栃尾城の戦いだというのは知っていた。

 なので少しは思う所はあったが、ここで復讐を企てても無駄死にするだけなので、さっさと気持ちを切り替えて奥州方面に向かう事にした。


 五日後にようやく栃尾郡を抜け、州都のある十条郡に入る。  

 さっさと栃尾郡から抜けたかったが、途中の村で魔獣を討伐していたため少し時間が掛かってしまった。

 緊急を要する複数のオークの討伐だったので、良い点数稼ぎになると思い受けたのだ。

 オークの様な低級魔獣の中でも上位に位置する魔獣が、この辺りでは出現するので旭には良い運動になった。

  

 十条郡に入ったが州都は暁国の国境線となる大河に面しているため、州都を通る事は無く進んだ。

 偶然出くわした数匹の魔獣を倒した事と、途中の町の冒険者組合でオークの素材と討伐報酬の合わせて金貨二枚を受け取った事以外は、別段特筆することも無く二日で十条郡を通り抜け、依頼地である柴田郡に足を踏み入れた。


 旭は郡境の糸賀村で雪風を厩舎に預けると、ひとまず宿を取り、改めて二枚の依頼書に目を通す。

 それらには柴田氏と南原氏の両家からの要請と両氏の概要が記載されていた。

 冒険者組合は独立性の強い機関であり、柴田郡に於いて南原氏の要請を掲載しても柴田氏に介入される事はない。

 もし柴田氏が強引に排除しようものなら、組合は柴田氏領内から手を引き領内の治安は悪化するだろう。

  

 柴田氏は越州西部の柴田郡を昔から支配している豪族である。

 近年郡における影響力は低下したものの、依然郡の六割強を支配している。

 その国力は石高三五千万石、今回の動員兵数は五百人程だ。

 奥州への抑えや、領内の敵対勢力との小競り合いもあり全兵力をこちらに割く事は出来ていない。


 南原氏は越州南西部の大滝郡の豪族で大滝郡の約四割を支配している。

 その領土は柴田氏の南に位置している。

 その国力は石高二万五千石で、今回の動員兵数は同盟勢力の援軍三百人に傭兵が百人程を合わせて、計一千人程と予想されている。

 柴田氏とは逆に南原氏は大滝郡の他の幾つかの勢力と婚姻関係にあるので後顧の憂い無くこちらに大部分の兵を向ける事が出できている。


 両氏は郡境の赤野銀山を巡って争いを続けている。

 赤野銀山は年間約七トン、銀貨は一枚当り十グラムなので換算すると七十万枚近くの産出量を誇る銀山だ。

 一般人の年間の生活費を銀貨二百五十枚とすると、石高換算したら約二千八百石程にもなる。

 さらに銀は米よりも流動性が高いので、その利便性を考えれば実質三千石以上の価値はあるだろう。


 赤野銀山は柴田氏が長期に渡り保有してきたが、最近になって頭角を現してきた南原氏が銀山の支配を目論み始めた為、両氏は度々小競り合いを繰り広げている。

 今回の件もこれまでと同様、柴田氏が多くの兵をこちらに回せないと踏んで、南原氏がけし掛けて来た戦である。

 

 旭は一通り依頼書に目を通すと、どちらの勢力に参加するか考たが、それ程悩む事無く柴田氏に付く事にした。

 理由は単純に守勢の柴田氏の方が有利だと思ったからだ。

 

 柴田氏は南原氏より兵数は少ないものの、赤野銀山は要塞化されているため倍程度の兵力差なら覆せるだろう。

 わざわざ負けそうな南原氏に付く特段の理由もない。


 そうと決まれば、翌日には糸賀村を出て冒険者組合のある柴田町へと向う。

 夕方には柴田町に到着し、町の冒険者組合へ顔を見せる。

 

「失礼、俺は七位の旭と言う者だが、坂上町の組合でこの辺りで戦があると聞き柴田氏側で参戦しに来た……、まだ戦は始まってないだろうか?」


 受付のおばさんに問いかける。


「赤野銀山に行くのかい? 旭さんか……、随分立派な体だね! えーと十四歳でもう七位かい、……それに回復魔法も使えると、こりゃ将来有望な冒険者だ。戦はまだ始まってはないよ、でもそろそろ銀山で両軍が睨み合う頃合いだから参戦するなら急いだ方がいいかもしれないね」


 威勢のいいおばさんだ、その上話しついでに旭の体をベタベタ触ってくる。

 中年の女は羞恥心というものが無くなってくる様だ。


「ああ、赤野銀山に行くつもりだよ、依頼として登録してくれ。開戦が近いのなら明日にでもあちらに行くのでね」


 旭はおばさんの手が大事な所には当たらないように上手くずらしながら、手帳を渡し依頼の登録を促す。


「あんた中々大した肝っ玉してるみたいだね……。ちょっと待っとくれよ今登録するからね、……ほら登録完了だ。報酬は一日辺り基本小金貨五枚、後は歩合制だよ、詳しくは雇い主に確認しておくれよ」

「了解した」

「ああ。あんたなら大丈夫だと思うが危険な橋は渡らない事だよ。所詮傭兵なんだから手柄を立てても褒美もたかが知れてるんだし、それに死んだら元も子も無いからね」

「気遣ってくれてありがとな……、無理しないように心がけるよ。ではまたな」


 旭はそう言い残し組合を後にする。

 おばさんは最後は自分の息子程の年齢であろう旭を心配そうな顔で見送った。

 

 組合から出る頃には時刻も夜七時に近づいたので、本日は柴田町で宿をとる事にした。

 

 翌日、朝日が昇ると共に、旭は赤野銀山に向けて出発した。

 銀山までの距離は約五十キロだ。

 出来れば今日中に到着したい。

 雪風には悪いが銀山についたら暫く休めるだろうし、今日は少し頑張ってもらう事にした。

 道中は人参を多めに与え機嫌を良くしてもらい何時もよりスピードを上げてもらった。


 雪風の頑張りもあって予定通り夕方には無事に赤野銀山に到着する事が出来た。

 南原軍は昨日到着したらしくまだ戦は始まっていないようだ。

 それを確認して、旭は一安心した。


 そこに柴田氏は赤野山の地形を利用して銀山を守るために赤野銀山城と呼ばれる山城を築いていた。

 赤野銀山城の城郭は連郭式で、山頂に本丸があり、その下に二の丸を、その先の傾斜が緩く攻め込まれ易い場所に三の丸が作られている。

 さらに空堀が本丸と二の丸の周り、三の丸と大手門の前方の斜面に掘られている。

 その他にも土塁や櫓などが所々に作られている。

 戦で重要な水の手も、各曲輪に複数の井戸が掘られている他に、数箇所で沢の水を確保しているので水を絶たれる心配も無い。

 それでも苦戦した場合には近隣の城から後詰をだせば挟み撃ちに出来るので、守勢としては守りやすい城である。


 旭は城の裏口である搦手からめて口へと向い、門の内で見張りをしているであろう兵士に声をかける。


「おーい! 冒険者組合で傭兵の依頼を受けて来たんだけど、門を開けてもらえるか」

「冒険者か、今からそちらへ行くから門の前で待ってろ。お前の身分を確認しないと中に入れる事はできないのでな」


 兵士は門まで来ると門の脇の小窓を開けて、冒険者証明書と冒険者手帳を要求する。

 旭はそれらを提出し、兵士に確認をしてもらいようやく門の内側に入る事が出来た。


「ぎりぎりだったな、そろそろ南原軍の攻撃が始まるかもしれない。多分お前がここに来る者では最後になるだろうな」

「そうか、急いできたので間に合って良かったよ……、それでこれから俺はどうしたらいいんだ?」

「とりあえず本丸に向い城代に挨拶して来てくれ、詳しい事はそこで聞かされると思う」

「了解した、では本丸へ向かうとするよ」


 旭は兵士に頭を下げてから本丸への坂道を登り出す。

 搦手は有事の際の脱出経路でもあるため、門の内側は大軍が通れない様に細く傾斜のきつい小道が続いている。

 その小道は途中で枝分かれし、二の丸と本丸の搦手門へと繋がっている訳だ。


 さすがに雪風にはこれ以上負担はかけられないと思い、旭は下馬して急で狭い坂道を登って行く。

 一時間程歩いただろうか、ようやく旭の目に本丸が見えて来た。

 空堀に架けられた跳ね橋を渡り、搦手門に詰めている兵士に事情を説明すると、旭は雪風を厩舎に送ってから城代の居る館へと案内された。

 

「失礼します」

「おお、そなたが旭か、わしはこの赤野銀山城を任されておる柴田盛家と言う。お主は齢十五を前にして七位の冒険者であり回復魔法も使えるらしいな。お主一人でかなりの戦力になりそうじゃ、此度は我が陣営に参戦してくれて感謝するぞ」

「はい、でも魔獣討伐は経験豊富ですが、対人戦の経験は一度しかありません。本格的な戦に参加するのは今回が初めてです。それに回復魔法も初級までで、回数も一度に三十回余りしか使えません、過大に評価されすぎても困ります」 

 

 旭は成長期の到来と何回も魔法を使い続けた事で魔力が上がり、二年前と比べて倍以上に成長し魔法の回数、効果の両方が上達している。

 このまま鍛錬を続ければ数年以内には中級魔法まで使えるようになるだろう。

 

「謙遜するでない、魔法を使えるだけでも素晴らしいのだ。我が軍にも回復魔法使いは一人しかいないからな、あとは火魔法使いが一人いるだけだ。当家も複数の敵を相手してるのでここには多くの戦力を回せなくてな、お主の働きにも期待したい所が本音だよ、もちろん恩賞はしっかり出すので頑張ってくれよ。お主の所属については明日までに考えるので追って報告する。とりあえず長旅で疲れたであろう、部屋を用意させるので外に居る兵に付いていってゆっくり休んでくれ」

「解りました、お気遣いありがとう御座います。お言葉に甘えて休ませていただきます、では失礼します」


 柴田盛家か……、当主の弟で長年柴田家の屋台骨を支えている名将との事だが、なかなか話が分りそうな人物のようだな。

 大将が少なくとも無能ではなさそうだと判り旭は一安心する。

 

 館の外に出ると、案内役の兵士に二の丸にある傭兵用の宿舎へ連れて来られた。


「ここがお前の部屋だ、七位という実績のあるお前には特別に個室を用意しろとのお達しだ、感謝しろよ」

「そうか、わざわざ悪いな。戻ったら盛家様に礼を言っておいてくれ」


 部屋に入り人心地付いたら腹が減ってきた、丁度夕食の時間との事なので旭は十分しない内に部屋から出る。

 兵士の談によると赤野銀山城には食糧の備蓄は十分あるらしいので腹いっぱい食べれるらしい。

 ならば米一升でも食ってやるかと意気込んで食堂へと足を運んだ。


 食堂は既に大勢の兵でごった返しており中は熱気で包まれていた。

 そんな中、旭が足を踏み入れると溢れている喧騒が次第に小さくなり、多くの者が強者の風格が漂う偉丈夫に目を向け始めた。

 旭はこの手の視線は慣れたものなので、今更萎縮する事もなく山盛りの飯、汁、惣菜を取って空いている席に腰掛ける。

 

「食事中の所失礼する、皆さんも俺の事は気にせず楽にしてくれるとこちらとしても助かる」


 近くに座っている者に一言添えると、旭は空腹を満たす事に専念し始める。

 

 しかし、底なし沼に入ったように旭の胃袋に米が吸い込まれていく様を見て、周りの者は無関心を装う事は出来るはずがなかった。

 恐らく三回目であろうおかわりをしようと席を立とうとした時、鼠の様な顔付の小男が山盛りの丼飯、汁、惣菜を旭の前に持ってきてくれた。


「お兄さんの食べっぷりが凄いんで、勝手にですがおかわり持ってきました。よかったら食べて下さい」


 その小男はにかっと愛想笑いを見せながら旭におかわりを勧める。


「おう、わざわざ悪いね。遠慮なく頂かせてもらうよ」


 小男の言葉に甘えて旭は運ばれてきた飯に手をつける。

 

 それからは丼が空になると、タイミングよくその小男がおかわりを持ってきてくれ、それが旭が満腹に成るまで十回ほど繰り返された。


「はぁー食った食った、見ず知らずなのに給仕紛いの事をさせてしまって申し訳ないな。俺の名は旭と言う、冒険者をしていて先日傭兵の依頼を受けてここへ着いたばかりだ」


 食事が終わると思い出したかのように小男に話しかけた。


「いいって事ですよ、あっしもお兄さんがどんな方か興味があったんで、話す切っ掛けを作らせて貰ったまでですから。あとあっしの名は小吉朗って言います。従九位の冒険者で、ここにはお兄さんと同じで傭兵の依頼を受けて来ました」

「それは奇遇だな、同じ冒険者同士頑張るとしようや」

「そう言ってくれると嬉しいです、でもあっしは腕力はそんな自信がないんで戦闘は死なない程度に頑張ります。派手なお仕事旭さんにお任せしますよ」


 この後も食後の麦茶を飲みながらしばらく二人は戦の事など色々な話題について話をした。

 旭の小吉朗との話しぶりが以外にも気さくだったので、始めは旭の迫力の為なかなか話しかけられなかった他の者も次第に話の輪に加わり、思いのほか皆と打ち解ける事が出来た。

 

 特に話の中で旭が『大熊』と呼ばれた熊吉が父だと話した時は、周りの反応が物凄かった。

 小吉朗が言うには、熊吉は暁国全体でも数人しか居ない従一位以上の冒険者で、数年前の戦での壮絶な死に様は兵達の間では語り草になっているらしい。

 旭が熊吉の息子だと判った事で、旭の立派な体躯から醸し出される強者の雰囲気から彼は何者だと思っていた者達も『大熊』の倅なら……、と皆納得したようだ。

 

 話も一段落し旭が食堂から出ると、小吉朗がなし崩し的について来る。


「もう給仕はしなくていいぞ、お前も部屋で休んだらどうだ」

「気にしないで下せえ、あっしが好きでやる事ですから」

「何故俺の様な無力な若造に取り入ろうとするんだ? 他にもっと見返りを得られそうな奴がいるだろうに」

 

 率直な疑問を小吉朗にぶつける。


「謙遜なさらねえで下さい、あっしはこう見えても人を見る目には自信があるつもりなんです。そんなあっしの直感が旭さんは必ず大事を成すと告げてるんですよ。なもんで、どうにか旭さんにあっしが役に立つ所を見せたいんです」


 この様な事はもちろん旭は初めてだった。

 だが小吉朗に持ち上げられて悪い気もしなかったのは事実だ。


「そうか、なら好きにすればいい。だが俺がお前の眼鏡に敵う人物であるかは保障しないぞ」

 

 一応釘を刺しておく。


「本当ですか! 有難う御座います。旭さんの役に立って見せますんで、どうかよろしくお願いします」

  

 小吉朗は飛び回らんばかりの勢いで感謝を示した。


 旭は小吉朗を引き連れ、宛がわれた部屋に向う。

 部屋に入り二人で荷物の整理を行った後ようやく小吉朗を帰し、強行軍の疲れを癒す為にさっさと就寝した。


 旭は翌日朝一番に本丸まで来るようにとの命令を受けた。

 

 いつ戦闘が始まってもいい状況なので、眠り眼を擦りながらも足早に本丸の館へと赴くと既に盛家が待ち構えていた。


「お早う御座います旭です、お待たせしてすいませんでした」

「気にするな、最近年を取ると朝が早くてな朝四時には目が覚めてしまうんじゃよ」

「……そうなんですか」


 旭はなんともいえぬ表情で苦笑するしかなかった・


「まあわしの事は置いておいて、昨日言った通りお主の配置を伝えるぞ。旭には前線で敵を食い止めてもらいたい。傭兵にいきなりで酷かもしれんが、今回我が軍は兵が思った程動員できなくてな。と言っても兵力差は倍程なので、攻城戦で必要な三倍迄は達してない。なので依然我々が有利な状況なので、そこまで理不尽な命令じゃないはずだ、……やってくれるよな?」


 初陣でいきなり前線送りのようだ。

 昨日の盛家評は撤回しておかねばと思う。

 しかし前線で戦の空気に触れられるのは貴重なので前向きに捕らえる事にした。


「了解しました。盛重様の期待に恥じない働きが出来る様に微力を尽くします」

「おおっ! やってくれるか。では飯を食ったら早速大手門まで向ってくれ、すぐにわしも向い指揮を執る」


 盛家様が直接出張るのか、さすが名将ではあるな。


「はい。あと小吉朗という冒険者に懐かれまして、そいつを俺の傍に置かせたいのですがよろしいですか?」

「別に構わんぞ、それにしてもいきなり同業から慕われるとは流石だな。やはり蛙の子は蛙か……」


 小吉朗の処遇については予め了承を得て置く事にした。

 ただ盛家も気になる発言をしたので父の事を聞いてみる。


「有難う御座います。盛家様も父の事をご存知なのですか?」

「勿論だとも、『大熊』と言えばここ一帯で最強の戦士として有名だったからな。冒険者の階位も当時で従一位で、後数年で一位、さらに数年で正一位、さらにはこれまで誰一人なったことのない零位にすらなるかもしれない言われていた程だから知ってて当然だわい」

「そうだったのですか……、俺は将来父を超えたいと思っているのですが、それはとてつもない事みたですね」


 熊吉は思っていた以上の大物であったみたいだ。

 旭は改めて父の偉大さを感じると共に、将来の超えるべき者としても良い目標が出来たとも思った。 

「今からそう気張る事もあるまい。お主はその体躯と魔法が使える事からして、才に恵まれている事は間違えないのだから、日々の鍛錬を繰り返す事を忘れなければ自ずと道も開けてくるじゃろうて」

「そうですね……、ご助言有難う御座います。ではそろそろ俺は失礼します」

「あいわかった、ではまた大手門でな」


 旭は本丸を出て急ぎ食堂へ向い、待ち構えていた小吉朗に世話されながら朝飯を食い、部屋に戻り装備を整えた後二人して城の入り口である大手門へと向う。


「お前の名は長ったらしくて言い難いな、何か呼び易いあだ名は無いのか?」


 大手門までの坂を下りながら問いかける。

 

「お袋や親戚からは小吉や吉ですかね、悪友にはこんな顔とすばしっこい事から小鼠なんても呼ばれてましたわ……」

「小鼠かそれは傑作だな、だが人を貶めるようなあだ名は俺は好かん。とりあえず小吉と呼ぶ事にする、いいな」

「小吉で何ら構いません、人が嫌がる名では呼ばないなんで、流石は旭さん、お人が出来てますね」


 小吉朗もその呼び名で了承したようだ。

 

 しばらく坂を下ると二人は大手門に到着した。

 門周辺には南原軍がいつ攻めてきても良い様に、二百名程の兵士が常駐していた。

 しばらくして盛家が兵百人を引き連れて到着し、計三百名以上の兵士で大手門の防衛に当る事になった。

 残りの二百名は百人が後詰で、残りの百人と一名の火魔法使いは搦め手からの攻撃に対応するため本丸と二の丸に控えている。


 時刻が九時を過ぎた頃、敵陣に動きが見られた。

 大手門に攻撃を開始したのだ。


 旭の初陣がいよいよ幕を開ける。


  



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