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四話 旅の始まり

 旭は月夜野村を出ると、街道を通らずに山林へと踏み込む。

 そして山林を通り抜けて越州へと向かうため、急いで道なき道を進む。


「このまま無事に進めれば今日中には抜けれるだろうか……」

 

 旭は一人呟く。

 なるべくなら夜の森は避けたい。

 魔獣に襲われた場合、夜目が利かない分、面倒な事態になるだろうと旭は考えていた。

 

 山林に入ってから数時間は経過しただろうか。

 ここまでは順調に進んでいる。

 旭は背袋から魔動式の懐中時計を取り出す……、まだ正午までにはしばらく時間がありそうだ。

 だがまだ道程の二割程しか進んでいない、懐中時計をベルトに縛りつけてからポケットに入れ、再び進み始める。


 その後も特に問題なく前進し、全体の半分程度の距離を踏破した。

 途中、ゴブリンの群れにかち合いそうになったが、上手く身を隠しやり過ごす事ができた。

 時刻は昼を回った所になり、旭は昼食を兼ねて休息を入れている。


「ここから先は越州だ、時間的にもギリギリだな。ただ道も下りになる、幾分楽になるといいが……」


 この先は越州になるため、あまり足を踏み入れた事の無い場所になる。

 旭は昼食を急いで取ると、気を引き締め直して行動を再開した。


 歩き続けてかなりの時間が経過した。

 時刻も五時前になり、そろそろ日も傾きかけている。

 あまり通った事の無い場所だったため、思いのほか時間が掛かってしまった。

 

 このままでは夜になってしまうと焦り始めた丁度その時、旭の目に光が飛び込んできた。

 ようやく無事山林を抜け出せたのだ。


「ふう……、なんとかなったか」


 無事に山林を抜けた安堵感からか、旭はどっと疲労感に襲われた。

 しかしここで夜を越すのは危険だ。

 昼にあまり正確でない地図で確認した所、この辺りから最寄の村である苗所なえどこ村までは徒歩で三時間程かかるはずである。

 ならば、走れば半分程度には短縮できるだろう。

 そう思い旭は休む事無く小走りで村へ向けて足を進めた。


 地図を頼りに苗所村へと続く小道へとたどり着いた頃には、既に日も落ちていた。

 

 旭は光魔法の込められた魔石を使った携帯用の灯りを取り出し、その光を頼りに小道を進んでいく。



---

 

 

 それから一時間程歩いただろうか。

 夜七時頃になってようやく苗所村に到着した。

 苗所村は人口三百人程の村だが、温泉が湧き出る為それ目当てに訪れる旅人などもおり、そこそこの宿泊施設は整っている。

 

 旭はその風貌と背丈より長い槍を背負っているため、門番に怪しまれた。

 彼は冒険者になりに町へ向かっていると門番に伝えながら、笑顔を見せつつ門番に銀貨を握らせる事でようやく村の中へ入る事が出来た。


 村へ入り、旭は歩き疲れた体を引きずりながらも宿へと向かう。

 数件ある宿の中でも比較的高級そうな店へと入り、一泊小金貨一枚の部屋を取った。

 平均的な部屋だとその半分の銀貨五枚で取れる。


 旭は春から家にあるほとんどの現金である金貨二百枚弱もの額を餞別として受け取っているため、小金貨一枚程度なら彼にとっては痛くもなかった。

 ちなみに春は魔石などの高級品を購入している大商店の萬屋商店の両替部門に、多額の預金しているので、旭に家中の金貨を渡してしまっても生活に困る事は無い。


 旭は部屋に入り貴重品以外の荷物を部屋に置いてから、追加に銀貨二枚を支払い、部屋に大量の夕食を用意するようにと伝える。

 

 夕食後、旭は人心地が付くと座椅子にもたれ掛かりながら、これからの行動について思案する。


 まず、現在考えている大目標としては、名声を揚げ、紀代助程度など軽くあしらえるような力を手に入れる事だ。

 

 具体的には、三万石の勢力を倒せる程度の力が必要になるだろう。

 単純に考えるとその倍の六万石程が適当だろうか。

 ただ周辺の豪族などとの兼ね合いを考慮に入れると十万石位の力が必要かもしれない。

 

 ちなみに上州の石高は凡そ三十万石で、越州の石高は凡そ五十万石程だ。

 だだし越州は越前地方と越後地方とに分かれており、実質的には凡そ二州分の国力がある。


 十万石を有していれば、上州の三分の一を支配する事になる、爵位ならば子爵を名乗れる程だ。

 それは現在、仲間の一人もいない旭にとっては、あまりにもとてつもない目標である。

 だからと言って、はいそうですかと諦める訳にはいかない。

 旭は目を閉じ、今迄思案していた考えを頭に入れながら、今後の行動を思考した。


 しばらくして暫定的だが考えがまとまった。

 それは簡潔に言うと、まず冒険者になり力を蓄える。

 そしてその後適切な地域で旗揚げし、その勢力を拡大する事である。

 

 旭は主に二つの理由から、冒険者として名を揚げる事を選んだ。

 

 その理由は、一つは配下を得るためだ。

 いくら旭が精強であっても、一人で数百の敵を打ち破る事は出来ない。

 最初の標的になるであろう五千から一万石程度の豪族でも、防衛戦となれば傭兵も入れて、五千石なら二百人、一万石なら四百人程の動員が可能である。

 旭が五十人を相手に出来ても、残りの敵兵を相手にしてくれる味方がいなければどう仕様もない。

 

 また奇襲で敵将だけを狙う事も考えたが、頭を倒したからと言って残りの将や兵が大人しく従うとは思えない。

 その後に領地経営を行うにしても、旭一人では到底無理だろう。

 なので旭はできれば優秀で、自身に忠実な配下が欲しいと思った。


 では配下を得るにはそのようにすればよいだろうか。

 旭は祐光に対して行ったように、自身の力を示し器の大きい所を見せれば彼に付いて行きたいと思う者も出てくるのではないかとの考えに至ったのだ。

 ならば手っ取り早く力を示すには、冒険者になって魔境や戦場で活躍するのが最善の道だと結論づけたのだ。


 二つは冒険者として皇国各地を渡り歩く事で、攻略しやすい土地を発見出来ると考えたからだ。

 現在暁国は、百年前の王位継承問題による内乱をきっかけに各地で諸勢力が入り乱れている。

 内乱により王の権威、権力は形骸化し、その勢力は王の本拠地である本州にしか及ばなくなってしまった。

 爵位に関しても、王室が正式に任命した諸侯もいるものの、所領する石高に応じて勝手に名乗っている諸侯も後を絶たない。

 もはや一部の忠臣と呼ばれている諸侯を除いては、王室の顔色など伺う必要も無いといった空気が蔓延しているのである。

 

 旭は諸勢力が入り乱れている暁国の中でも、特に混沌とした状況になっている地域を見つけたいと思っている。

 力が均衡している地域の方が、旭の様な新興勢力も参入しやすいからである。

 もし数十万石ものずば抜けた力を持つ勢力のいる地域で旗を揚げたとしたら、たとえ数万石の勢力になったとしても、数十万石の勢力に従属する以外には選択肢が無くなる可能性が高い。


 各戦地で働けはその地域の内情も自然と見えてくるだろうし、その点に於いても冒険者は正にうってつけと言えるだろう。

 

 旗揚げして順調に勢力を拡大したその後の事は、現状では想像もつかないので、それから先はその時々の状況を踏まえながら判断していく事になるだろう。


 暫定的ではあるが今後の方針を決定した所で、旭は今日一日中動き回った疲れを癒すために、早々に床に就いた。

 布団に入りながら、旭の胸には言い知れない不安、心細さが押し寄せて来る一方で、これからの未知なる体験を想像すると、これまで感じたことのない胸の高鳴りを覚えた。



--- 

 


 夜が開け、旭は朝早くに宿出て、その足で早々に苗所村を後にする。

 冒険者組合のある坂上さかがみ町へと向かう。

 坂上町は、現在旭のいる越州坂上郡の中心地である。

 

 一時間程小道を歩くと、暁国の首都がある本州から奥州へと伸びている主要道路である北暁ほくぎょう街道へと合流した。

 その後は街道を徒歩で北進する事二時間程、無事に坂上町に到着した。

 

 余談だが北暁街道を逆に南進すると宗光達が布陣しているはずだ。

 彼らの出陣理由は、越州に不穏な動きがあるとの事だったが、実際越州に来ても少しも物々しい様子も無い。

 恐らく月夜野村を空にするため紀代助の作戦だったのだろう。


 坂上町に入り街の様子を見ると、さすがに郡の中心だけあって中々の規模だ。

 大体沼田町と同じ位だろう。


 旭は門番に冒険者組合の場所を聞こうと話しかける。

 

「こんにちは、お勤めご苦労様」

「おう。ん……、お前坂上村は初めてか?」

「ええ、俺は上州から来たんです。冒険者組合に行きたいんですけど、場所教えてもらえませんか?」

「なるほど……、その立派な体格なら冒険者と言われても納得するな。組合はここから真直ぐに二十分程歩いたらその内に目立つ建物が見えるからすぐ判ると思うぞ」

「解りました。わざわざありがとう御座います」


 門番は旭の人並み外れた体格を見て、冒険者だと納得した様だ。

 

 旭は門番に礼を言うと、冒険者組合に向けて歩を進める。

 その後、門番の言葉通りに二十分程したら、一際大きな二階建ての建物が見えてきた。

 看板を見て間違いないかを確認してから、扉を開け中へと入って行った。


 冒険者組合の中に入り、旭は壁に張られている依頼を調べる。

 ぱっとだが一通り見渡した所、やはりこの辺りは討伐系だと低級魔獣の依頼しか無いらしい。

 中級魔獣以上の依頼となると、奥州の端などの辺境や、さらにその先の未開の地にへと行く必要がありそうだ。

 逆に傭兵募集の依頼は結構あるようだ。


 旭は奥州に向かって魔獣討伐を行うか、それとも戦乱が起きている地へ向い傭兵として参加するか、考え始める。

 

 当面の目標は、冒険者の階位を上げる事だ。

 階位が高い方が、旭に一目置いてくれる人が増え、配下になるのを希望する者も出てくるだろうと考えての事だ。 

 

 一定以上に階位になるには、強力な魔獣を討伐する、又は戦場で名の通った戦士、身分の高い者を倒すか捕らえて点数を積み重ねなければならない。

 いくら雑魚を倒しても一定以上の階位には上がらないのである。


 そこで旭は戦場よりも辺境の方が、点数を稼ぐ機会が多そうだと思った。

 規模によるが、一般的な小競り合いでは名の有る者は大体十人以下だが、辺境ならば魔獣に遭遇する機会は幾らでもあるからである。

 それに奥州は越州の隣にあるため、地理的にも近いといった点も旭を後押しした。


 奥州行きを決めた旭だが、行き掛けに何もしないのも勿体無いので、奥州までの道程でついでにこなせる依頼がないかを確かめるべくカウンターにいる職員の女性に尋ねる。


「失礼、俺は七位の旭と言う者だ、これが証明書になる。これから奥州に向かうのだけど、道すがら何か依頼を受けたいので、何か適当なのってないかな?」


 旭は月夜野村で魔獣討伐の際に冒険者登録は済ませているので、証明書は既に持っている。 


「……確認しました。若いのに七位なんて優秀なんですね。奥州への道中で適当な依頼ですか……、調べますので少々お待ち下さいね」


 職員の女性は旭の証明書を確認した後、分厚い紙束を取り出し一枚一枚目を通し始めた。


「えーと……、この四件なんかどうでしょうかね」


 旭は差し出された四枚の紙を受け取り、目を通す。

 

 そこには、

 一枚目には無期限の魔獣討伐。

 二枚目は近隣の村でのゴブリン退治。

 三枚目には中不知なかしらず峠の賊退治。

 四枚目には柴田郡、大滝郡周辺における戦への参加。

 と記載されていた。


 旭はそれぞれの内容について吟味する。

 

 まず一枚目の無期限の魔獣討伐については、単価は安いが行き掛けの駄賃に丁度いいだろう。

 

 次に二枚目のゴブリン退治だが、これは旭が今までに何度もやってきた事なので、わざわざやる必要もないだろう。


 続いてに三枚目の賊退治だ。

 対人戦の経験が少ない旭にとっては悪くない依頼だが、場所が越前地方と越後地方を結ぶ中越峠という事なので、旭の進行ルートから多少外れてしまう。

 なので今回は見送る事にする。

 

 最後に四枚目の戦への参加だが、詳しく調べてみると敵対する二勢力から依頼が来ている。

 どちらに付くかは追々決めるとして、奥州に行く前に経験を積む為にも、せめて一回は戦に参加しておくのもいいだろうと思った。

 さらに戦地の柴田郡も奥州へ向かう途中に通過するため、回り道にならなくて済む事も魅力的である。


 旭は一枚目と四枚目の依頼を受けると決め、その旨を職員に伝える。


「じゃあこの二件でお願いしたい」

「わかりました。では冒険者手帳お貸し下さい、依頼を登録しますので」

「ああ」


 ポケットから予め用意していた冒険者手帳を受付に差し出す。

 

「……はい、これで登録完了です。依頼、がんばってくださいね」

「ありがとう、また機会があれば伺わせてもらうよ」


 女性職員なので笑顔で礼を言い冒険者組合を後にする。


 その後、商店街に立ち寄り日持ちのしそうな食料を買い込んでから、坂上町で一番大きな商店である越後屋に両替と馬を紹介してもらいに向かった。

 

 越後屋は、越州での商いの大部分を担う州一番の商店で、州中のすべての町に出店している。

 旭は暁国で五指に入るであろう萬屋商店のお得意様なのだが、坂上町には出店していなかった為仕方なく越後屋を選択した。


 旭は越後屋に入り、受付に座っている男に声をかける。


「急ぎで馬が欲しいのだが……、何せこの体では暁産の馬ではすぐに潰してしまう。前の馬も乗り潰してしまってな……。仲介料を払うので、俺が乗っても大丈夫な馬を紹介してもらえないだろうか」


 旭はその体格から東方系の小型馬ではなく北方系か西方系の大型馬を求めた。

 月夜野村で乗っていたのも暁国では希少な西方馬だ。


 男は旭の全身を眺めてから、困った顔をしながら口を開いた。


「うーん……。お客様みたいな体格の方が乗れる馬はここには無いと思いますね。なにしろあなたの様な大きな方はこの町でも数える位しかいないですから……。でも一応この町の馬商に当ってみます、今から三時間後にもう一度来てもらえますか?」

「了解した、手数かけさせて悪いね……、これは前金だ、取っといてくれ。あとついでに金貨十枚分両替を頼む。小金貨九十枚、銀貨九十枚、銅貨百枚だ、鉄貨は結構だ」


 旭はついでに両替を済ませると、前金として小金貨五枚、それと別に男の手に小金貨三枚を渡した。

 

 男は望外の臨時収入に、越後屋名物らしい陰湿な笑みを旭に向けつつ、無言で胸に銀貨をしまう。

 そして二時間以内で急いで終わらせると、耳元でささやかれた。

 

 両替する額や旭の装備を見て、上客だと思われたようだ。

 もしくは噂どおり越後屋には賄賂が効果的だった事も考えられる。


 とにかく二時間後に再び来る事にして店を出る。


 時刻は十時半頃、昼にはまだ早いが特にすることも無いので旭は昼飯を取る事にした。

 例の如く十人前程の定食を食べたら、時刻は十一時になった。

 

 約束の時間まであと一時間、その間旭は武器屋に行く事にした、

 一人での戦いでは飛び道具があった方が便利と思い、投擲用の武器を物色したかったのだ。

 

 町には越後屋系列の武器屋の他に個人経営の店も数件ある様だ。

 旭は越後屋は後でも行けると思い個人経営の店を覗いてみた所、その中の一軒が良い仕事をしていそうなので、その店で銀貨五枚で十本の投げナイフを買い、サービスで数本をベルトに差し込み何時でも投げられるように細工してもらった。


 武器屋を出ると、時間も丁度二時間が経過したのでそのまま越後屋に向かう。


 越後屋に戻ると先程の男が丁寧に頭を下げて出迎えてきた。

 現金な奴である。


「首尾はどうだ?」


 旭は一回り以上は年上であろう男のいきなりの慇懃な態度に少し面食らったが、萬屋商店の店員もそんな感じだったなと思い出し、冷静に対応する事ができた。


「いやいや、大急ぎで町中の馬商に頼み込んだんですが、お客様が所望されている西方馬や北方馬などの大型馬は残念ですがやはり居ないようです。ただ大陸中央のサマルカンド王国産の名馬を暁国の体躯の良い名牝と交配させた馬なら何とか確保できました。いかがなさいますか?」


 なんだがややこしいが、簡潔に言うと中型馬の牡を大きめの東方馬の牝に掛け合せた馬がいるらしい。

 旭はとりあえず見てみる事にした。


「一応見てみる事にするか。ではその馬がいる所まで連れて行ってくれ」

「かしこまりました。お車を用意しておりますのでよろしかったらお乗り下さい」


 そう言われ、旭は馬車に乗り込む。

 暁国は山地が多いため馬車はそれ程多くないが、権力者や金持ちが町内や平地での移動には使用する事もある。

 きっと今回馬車を出したのは、越後屋が旭を上客とみなした為であろう。


 馬車に揺られる事約二十分、厩舎に到着した。

 恐らくここは越後屋の系列店の様だ。

 

「さあ旭様、どうぞお入り下さい。厩舎の一番奥にいるのが例の馬で御座います」

「了解した、まずは見てみよう」


 旭は奥へ行き例の馬を観察する……。

 中型馬程度の体躯はありそうだ、もちろん並の東方馬よりは十分大きい。

 それに名馬と名牝との組み合わせだけあって筋肉の付き具合は中々の物だ。

 

 これほどの馬なら並の人間にはお釣りが来る程であろう。

 しかし旭にとってはこれでもまだ十分とは言えない。

 ただ無理をさせなければなんとかなりそうだ。

 旭はこの馬を購入する事にした。

 

「うん、悪くないな、こいつを買う事にする。で、値段は?」

「それなりの馬なので金貨十五枚と言いたい所ですが、今後も御贔屓にして頂きたいので、即金で金貨十二枚で結構で御座います」

「気が利くじゃないか、その額で問題ない。さあ受け取ってくれ」


 金貨十二枚は買い得と思い、旭は即決しすぐに料金を支払った。


「ありがとう御座います。旭様はこれからすぐに旅立たれるのですか?」

「ああそのつもりだ。馬ならば今からでも夕方までには宿がある村まで行けそうだしな」

「なるほど、了解しました。では今から馬の方も旅の支度をさせますので少々お待ち下さい」


 厩舎の外で十分程待つと、厩舎の者が馬に鞍、鐙、手綱を装着し、そして足に藁沓を履かせて、旭の前に連れてきた。

 

 暁国の馬の大半は足に藁沓わらぐつを装着している。

 その理由は、東方馬は基本的に蹄が強い事と、暁国の道が西方や北方の様に石畳や煉瓦で舗装されていない為、蹄をそれ程保護する必要がないからである。

 

 ただ暁国でも、馬の品種改良が近年行われるようになり、蹄の強くない馬が増えた事と、蹄鉄の有用性自体が認められたことにより、徐々にではあるが蹄鉄を導入したいと考える諸侯も出てきている。

 しかし装蹄師の絶対数が少ないため他国から呼ぶなどしているものの、なかなか思う様には進んでいないのが現状である。


「おお、様になっているな。早速だが乗せてもらうよ」


 旭は馬に負担をかけない様に優しく騎乗する。


「俺はこのまま町から出る。機会があればまた越後屋を利用させてもらうよ。これは残りの仲介料と馬の化粧代だ、取っておいてくれ」


 そう口にすると、馬上から金貨一枚を投げ渡し、馬を速足で操り町の出口へと向かって行った。


「此度は良い商売をさせて頂きありがとう御座います。又の機会をお待ちしております」


 男は金貨を受け取ると、再び慇懃に頭を下げながら旭の後姿を見送った。

 

 

 

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