十三話 傭兵活動開始
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水竜を討伐した事で、旭の名声は瞬く間に剣ヶ峰周辺へと轟き渡った。
十五にして水竜を倒したパーティーのリーダー、に加え伝説の冒険者『大熊』の息子と言う血統。
誰もが旭は将来確実に名を成す、大器であると疑わない者はいなかった。
それからの半年間、新たな戦力を加えた一行は果敢に危険地域に乗り込み、次々と水竜クラスの魔獣を討伐する。
竜種だけでも、地竜に飛竜さらには剣ヶ峰山の主の岩竜をも討伐してしまった。
その他にも、数々の強力な魔獣の討伐に成功し、旭の名声は天を突き抜ける勢いで駆け上がっている。
旭の名声の高まりと共に、自然の流れで彼に取り入ろうとする者も急増した。
しかしいきなり態度を変えて媚びてくる輩を彼は信用しようとせず、軽く相手をする程度に留めておいた。
一方旭は己の名声を利用し、評判の良い中位冒険者と積極的に交流をした。
上位冒険者は海千山千の者が多く、逆に利用されかねないので軽く付き合う程度に留めておいた。
声をかけられた者も、飛ぶ鳥を落とす勢いの旭が相手とあり悪い気を起こすはずもなく、殆どの冒険者が旭と知己となる事を選んだ。
そして旭は声をかけた中位冒険者の中で、特に誠実かつ差別意識無く、さらに忠義に厚いと感じられた冒険者を、積極的に自身のパーティーに勧誘をした。
少なくない持参金を用意し、誠意を持って彼らを口説いた甲斐もあって、既に旭の下には彼と同じ目的を共有する者が三十人近くも集結している。
そしてその三十人の誰もが剣ヶ峰村に来るだけあり、かなりの実力を備えているのだ。
旭は剣ヶ峰を訪れて僅か半年で、トップクラスの戦力を有する軍団の首領となったのである。
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さらに半年が経過した。
旭は十六になっていた。
冒険者の位階も三位まで上がっていた。
その間は冒険者の人数は増やさずに、集団内の調和を図り、各人の連携と個人の戦力強化に努めた。
現在旭軍団の構成は以下のようになっている。
軍団長兼戦闘隊長の旭の下に、戦闘隊副長の虎千代(部隊数二十)、斥候隊長の小吉(部隊数五)、魔法隊長のタマ子(部隊数三)、衛生隊長のリナ(部隊数三)、と組織が枝分かれしている。
既に立派な組織化された軍団である。
ちなみにリナは旭が頼みこんで、ある条件と引き換えに正式に旭軍に加入してもらえた。
旭は剣ヶ峰村周辺での目標である、名声を高め家臣を作ると言う事は、既に達成したと理解した。
そろそろこの地を後にして、暁国各地で傭兵活動を開始しようと思うようになった。
その目的は暁国中を回ることで、旗揚げをするにあたって容易な地域を見つけ出すためである。
「よしそろそろここを出よう」
今『三郎』にて旭、小吉、タマ子、リナ、虎、愛、弥太郎の主要面子で机を囲み、今後の行動についての会議を開いている。
「旭様いよいよ第二段階突入でやんすね」
「ああ、これ以上ここにいても時間の無駄だからな」
旭は全員の顔を見回して判断を仰ぐが、みな頷き賛成の意を示した。
「愛と話したのだが、まずは剣ヶ峰村から傭兵活動を行いながら南下をして羽州へ向かう。そして東進して信州、遠州、尾州、備州、予州を周り、都のある本州を経由してから北進する計画だ。ただ途中で旗揚げするに相応しい地域が見つかり次第、その地で根を張る可能性もあるので、その点は考慮に入れておいてくれ」
まずは暁国の北半分を回る事にした。
なるべく上州に近い地で旗揚げをしたいからである。
「みなさん、旭様になにか質問はありますか」
愛が間を入れる。
彼女は既に俺の参謀としての地位を確立しており、軍団の運営は彼女が居なければ成り立たないと言っても過言ではない。
政治能力に長けた人物は未だに彼女しかいないのだ。
「ハーイ!」
「なんだタマ子」
「あきらは将来なんになりたいの?」
タマ子には理解するのが難しかったのか、いまいち話の全容かつかめなかったらしい。
ちなみに脳みそまで筋肉の弥太郎も、横でよく質問としてくれたという表情をしている。
「うーんそうだな、俺はとりあえず母さんを守れるくらい強くなりたいんだ。それには俺一人じゃ無理だからみんなで頑張ろうとしてるんだよ。そのあとは虎千代の仇も討たないといけないし、リナとの約束もあるんだ」
「ふーん、じゃああたしもみんなと一緒に強くなるね!」
「おおタマ子はいい子だな、よしよし」
旭は肩に座っているタマ子の頭をなでてやる。
「エヘヘ」
タマ子は無邪気な笑顔でみんなを癒してくれている、正に軍団のアイドルである。
「あと私からも質問いいかしら」
「なんだリナ、遠慮なく言ってくれ」
正式に旭軍に加入したリナは、その卓越した回復魔法で衛生部隊の中心的な役割を担ってもらっている。
「もし旭くんがどこかに領地を持ったとするじゃない。そうしたら私にもお零れは頂けるのかな?」
「リナさん、旭様に無礼ですよ!」
愛がリナを叱責する。
二人はなぜか仲が悪い。
真面目な愛に、色香のあり緩い雰囲気のリナ、水と油のような関係だろうか。
「ああ、もちろん皆にはそれ相応の報いは与えたいと思っている」
「そう、なら頑張り甲斐があるわ。色んな意味でね」
隣に座っているリナは目を輝かせながらムチムチの太ももを俺に当ててくる。
「ぐへへ、ぜひ色んな意味で頑張ってちょうだいな」
旭はだらしのない顔になリナの太ももを触り返す。
ここ半年でリナとの関係も進展しているのだ。
「リナさんいい加減にしなさーい!」
「旭もいい加減にするのー!」
「旭様は少し不潔だと思います」
興奮した女性陣三人から総スカンを食らってしまい、その後は議論にならず飲め食えやの大騒ぎとなってしまった。
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翌日、旭軍一行は忠五郎や惣一など、世話になった人物に別れを告げてから、剣ヶ峰村を後にした。
特に世話になった忠五郎には、将来領地を得た暁には御用商人にする事に加えて、忠五郎が来る時に起る後継者争いで、後ろ盾になることを約束した。
「この村ではいろいろな事がありすぎて、何年もいたような感じだったな」
旭は馬上で一人呟く。
現在旭の乗っている馬は雪風ではない。
彼女は虎千代に譲り、本人はなんと従二位クラスの魔獣である二角獣に跨っている。
旭と二角獣との出会いは危険地域の大森林の中であった。
一行が散策をしていると、これまで出会った二角獣より二周りは大きい固体が、片角をへし折られ、全身傷だらけの瀕死の状況で発見されたのである。
旭は「これも自然の摂理」と思い見なかった事にしようと思ったが、タマ子がその二角獣を助けてくれと懇願してきた。
「アルフォンス君はあたしのお友達なのー、お願い助けてあげて!」
なんと二角獣はタマ子のお友達だったのだ。
ならば仕方が無いと、リナと二人係で二角獣の角まで苦労して再生してやった。
すると元気になった二角獣が地面に伏せ、「俺に乗れ」と言わんばかりの態度を取ってきたのである。
「アルフォンス君はあきらに感謝してるみたい……。恩返しさせてくれだってさ、あと俺とお前は馬だけに馬があいそうだだってー」
アルファンス君のダジャレはさて置き、二角獣は不純を司る魔獣と言われている。
なんとなく旭は察してしまった、「こいつとは長い付き合いになるな」と。
以上が旭とアルフォンスとの出会い話である。
旭は剣ヶ峰村から離れる事に一抹の寂しさを感じながら、羽州へ向けて南進を開始した。
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五日間の旅路を経て、一行はようやく羽州に足を踏み入れた。
羽州は奥州ほどではないにしても、人口が少なく、人口密度も低くいため、労働力の確保と物資の運搬に費用がかさむのを嫌ってか、産業もあまり発展してはいない。
ほとんどの州民は農業と林業で生計を立てている。
そして州内は町ごとの距離が離れているため、各町ごとが独立勢力と言ってもいい程で、特に頭の抜き出た有力者が存在していない。
そしてどの町も自分の食い扶持を稼ぐので精一杯なので、他の町に喧嘩を吹っかける余裕もないのだと愛が言っていた。
「ここでは俺達の活躍できる場所はなさそうだ。だか将来に向けて各町の調査はしっかり行っておこう」
旭が旗揚げに最適と考えている条件は重要な順に以下の三点だ。
一つ目は、その地域の領主が愚鈍で民が苦しんでいること。
二つ目は、周囲に抜きん出た勢力が居ないこと。
三つ目は、なるべく上州に近いこと。
以上である。
一つ目の条件を旭は最重視している。
たとえその地域を盗ったとしても、後に民が付いてこなければどうしようもない。
なので民が苦しんでいる地域に、『颯爽と表れた英雄』になる必要があると旭は考えたのだ。
次に二つ目は簡単で有力勢力のいない方が、簡単に勢力を伸張できるからである。
最後に三つ目、春と花を迎えにいくのためには、彼女らに近い場所で旗揚げした方が有利だからである。
話を聞いた感じだと既に二つ目の条件は満たしている。
ただし羽州は国力が十五石と小さいのが難点ではあるが。
三つ目は遠からずも近からずと言った所か。
一つ目はこれからの調査次第ではあるが。
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ここは羽州最大の町、鮭義町。
旭はここを拠点に手勢を羽州各地に放って、愚鈍な領主により苦しんでいる町がないかの調査を行っている。
鮭義町にきて半月、やることも無く暇していたがそろそろ情報が集まってくる頃だ。
二日後、放った手勢も帰ってきて、二つ三つの候補地が挙げられた。
旭はそれらの町を直接この目で確かめに、タマ子と小吉のみを伴って向う事にした。
まず向ったのは雄鹿氏領だ。
ここは一万石の国力を誇るが、領主が民に収穫の八割の税を課している。
多くの民が食う物にも困っている状況で、子供を奴隷として売る家が続出している。
領内の様子も活力が無く、皆死んだ魚のような目をしていた。
続いて向った、天沢氏、葛西氏も同じような状況であった。
「この三氏は今にでもどうにかできそうだな。だがいきなり決めるのも味が無い、もう少し回ってからでも遅くはないだろう」
旭は羽州を旗揚げの候補地として記録することにして、次なる目的の信州へと向うことにした。
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