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腕試し その2

「場外だし、じゃあ、次は俺の番だな」と懸が言ったのか、と思うと魔他県を担いで、広場に戻っていく。

 その様子を広場の外、林の下の茂みの中で。ぼんやりと見ていた。

 広場の向こうに屋敷が見える。ひさしの下にいつの間にか椅子が用意され、ルチアの他に、マーガレットの姿が見えた。

 様子を見に来たと思ったら、マーガレットはテペトに向かって「テペト、次は手加減はしなくてはいいわ」と言い放った。

 それが当然だと思っていたから、手加減していることには驚かなかった。それとは反対に手加減を止めてよいと言った意味がわからなかった。

 手加減されて、二人とも負けているのに本気で戦うと言うことはどういうことだろうか。

 しかし懸はそんなことにはお構いなしのようでテペトに相対した。

 そこで懸とテペトとの間合いが広い。先ほどより少なくても、二倍はある様に見える。

 剣の構えも違う。正面に置いていた剣は剣先が正面の斜め前の地面を裂している。テペトの構えも変化がある。構えはない。剣も握ってただぶら下げている。ただ立っているようにも見えない。印象としてはなんとなく「軽い」という感じだ。

 懸が前に飛んだ。しかしそれはテペトの目の前ではない。テペトの横だ。懸の剣の方が大きい分、体の大きさを考慮してもテペトより攻撃できる間合いは広い。テペトで言えば、剣先が当たるかどうかと言う間合いに懸は踏み込むと同時、飛んだ瞬間に振りかぶった剣を野球のバッドのようにテペトに向かってスイングする。攻撃に溜めとなる時間はほとんどない。スイングにつられて、懸の重心が少し揺らいだように見える。

対して、テペトも飛んだ。上に。

タイミングが悪ければ、テペトの足が飛んだのだろうが、テペトは見事に懸の攻撃を交わした。テペトは空中ですでに攻撃の態勢を問っている。着地と同時に攻撃するはずだったが、着地の時点では、もう懸の二撃目がテペトを襲っていた。スイングした剣を担ぎ、そこから脳天への打ち降ろしへ切り替えていたのだ。どこにそんな筋力が不思議なほどの剣を担いだ仕草は木の棒でも持っているかのようだった。

 テペトは攻撃のために作っていたその溜めを打ち降ろされる剣へ迎撃するのと同時に、前に飛んだ。

 懸の剣はテペトの剣で横へ軌道をずらされ、その横をテペトが通り過ぎようとしたところで、テペトは後ろに吹き飛ばされた。

 懸の膝がテペトの体を打ったのだった。

「ふう、やっと何となく慣れてきたぜ」

と言って、懸は油断なのか、手を腰に当てて一息ついた。

 そして吹き飛んだ先、たっているテペトに「つーか大丈夫か、その腕」と指さして、尋ねた。

 そう懸が言った先でテペトが腕をぶら下げていた。変な方向に曲がっている。あれが腕が折れている状態なのだろうか。自分がショックを受けている一方で周りの人間、懸、ルチア、マーガレット、折れている本人であるテペトですら平然としているようだった。

「まあ、これぐらいならな」と大丈夫かと聞いた懸の言葉に答えると、独りでに変な風に折れ曲がっていた腕が普通の腕のように戻った。

「気味悪いな」と懸が呟くと、「君たちが本当にマーガレット様の使い魔ならこれ以上のことができるさ」とテペトが返す。

「あ」と懸が顔をしかめると同時に今度はテペトから間合いを詰める。

 懸のような一気に近寄るようなことはしない。普通に歩いているが、どことなく軽い。剣を降れば、すぐにどこかへ行ってしまいそうな気がする。

 懸の間合いに入ったが、懸はまだ見ていた。しかし二人の攻撃範囲にそこまで差があるわけではない。そこから半歩の半分入った先で二人が仕掛けた。

 先に仕掛けたのは、テペトの突き。容赦なく頭を貫くそれを懸は首を火ねって横へ避けた。

 長い得物に短い間合い。懸は剣が振れない。だから懸は片手を剣から外して、殴りつけるがテペトは後ろに体に傾けて、それをやり過ごす。すると、殴りかかった懸は殴った拳につられたようにして、転倒した。

 テペトの剣が懸の内ももをなで切りにしたようだった。ズボンに赤い線が滲んでいる見える。

「くそっ」と言って、懸は立ち上がる。思ったより。大丈夫のようでよろけたりする様子はない。

「大丈夫か」とテペトはさっきの懸のように尋ねる。

「大丈夫だよ。うっせーな」と懸は苛立ったように言うが、テペトはそんなことは気にもしていないようで、「本当に大丈夫だろ」と重ねて尋ねた。それには懸もキョトンとした顔をする。テペトは内ももを指さして、「さわってみな」と言う。訝しげな様子で懸はゆっくりと黒くなりかけている服の裂け目に指を入れてみる。

「無いだろ。傷口」とテペトが言う。懸は静かに驚いたようで、「ああ」と言った。「なんだこれ」と呟いて、少なからず動揺しているようだった。

「気づいているだろうが、思った以上に剣を降ったり、飛んだり跳ねたりできるだろう。ついでにそれぐらいの傷ならすぐに治癒する。多少跡は残るかもしれないがな。それが使い魔の肉体というやつだ。神が作りし人の体に対する、魔術師が作りし魔の体。というやつだな」

 テペトは説明する。懸だけでなく、俺に対しても言葉を放っているようだった。

「本当に知らないようで、面白いやら、呆れるやら」とため息をついた。

「どうする。交代するか」とテペトは懸と俺を交互に見る。

 混乱はしている。ゲームで薬草を食べれば回復する、なんてことは簡単に納得できても、いつもと何ら変わりないこの体がそうなっているなんて言われてもそんなこと信じられはしない。

 そうしてまたこんな風にこの世界についていけてない中で、それとは対照的に「うし、まあ、何でもいいや。とりあえず、まだ大丈夫ってことだな」と懸はあっけらかんとした答えを出した。

「じゃあ、まだおまえがやるか」と問うテペトに対して、「おう。まだ負けてないしな」と懸は笑ってみせた。

「駄目よ、テペト。アガタとはもう十分よ。次はヒロカワと戦いなさい」

 そこに話へ割り込んで入ったのは、マーガレットだった。

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