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ティータイム

 ルチアが通したのは、先ほどの本だらけの書斎とは異なり、すっきりとした部屋だ。板張りの床に絨毯が引かれ、二人掛けのソファが1脚、それに対面する形で一人掛けのソファが二脚が置かれている。丸テーブルが二脚の一人掛けのソファの間に置かれ、二人掛けのソファの方には両側に小さめのサイドテーブルが置かれている。

 ルチアは手でソファへ座るように促す。どこへ座るか、迷ったが懸が二人掛けの方へ座ったので、なんとなくそっちへ座る。

 ルチアが一人掛けのソファへ座ったころに先に会った女中とは違う若い女中が現れ、ティーポットとカップがのったトレイを丸テーブルにおいた。

「ありがとう。後はやるからいっていいわ」

 ルチアが女中に言うと、女中は静かにお辞儀をして退室した。

 ルチアはポットをカップになれた手つきで入れると「砂糖はいくつ」と言って、微笑んだ。少し独特だが匂いからして、紅茶のようだ。紅茶はあまり好きじゃないけど、と思いながら俺は懸をみると、懸もこちらを見ていた。お互いにどうかえせばいいか、混乱してしまったのだろう。

 俺は「じゃあ、一つでお願いします」と言うと、懸も同じで、ルチアに答えた。渡されたカップの中は見知れた紅茶より少し黒くて、麦茶のようだった。

 カップとソーサーの温度が思ったより熱く、口を付けるには躊躇する。隣で懸が熱っと声を上げて、あわててサイドテーブルにカップを置いた。俺もそれを機に、カップをテーブルに置いた。

 ルチアの方を見ると、ルチアは苦笑して、「すこし熱過ぎたみたいね」と言って、笑った。

 マーガレットが慇懃無礼な高飛車女だとすると、ルチアは品行方正な淑女のような印象を受ける。

 だから「さあ、何から説明したものかしら」と膝を組んで、頬杖をついたのは意外に思えた。

 懸を見れば、口元を押さえて、眉間にしわを寄せている。しゃべれそうにないな、と思って、しょうがないと腹をくくる。攻撃的なマーガレットよりは話しやすいと思えば、気は楽だ。

「あぁ、えぇっと、整理させてください」と話し始める。

 あなたがたは、何か魔法使いのようなもので、なんとかという人を召喚しようとしたら、失敗して、俺たちを召喚してしまった。戻そうにも戻す方法が分からないから、協会に行って、情報収集する必要がある。で、マーガレットは行きたくないけど、協会に行こうと言っている。

「そう言うことですよね」とルチアに念を押すと、「その通りよ」と返答した。

「で、何を知りたいの」と尋ねられた。マーガレットのような問いつめるような雰囲気はなく、落ち着いた言葉から余裕のようなものを感じる。年上という様にも見えないが、自信なのか風格なのか、こちらの方が萎縮してしまいそうな空気をなんとなく感じさせる。

 尋ねたいことがあっても、言いよどみそうになる。懸はといえば、そうでもないようで、「まずよ、その召喚に失敗して、俺らってどういうことだよ」と聞いた。

 ルチアは少し思案するように一息入れる。

「そうね、じゃあ、マーガレットが魔獣を殺したところから話しましょう」と言う。

 魔獣退治とは、これまたRPGみたいな話になってきたな、内心思った。隣の懸はうーんと唸る。何を考えているのか。

「二ヶ月前、協会の依頼でマーガレットはある魔獣を退治することになったの。その魔獣を退治すること自体は問題なかったのだけど、問題だったのは、魔獣を殺したことで、女神の怒りを買ってしまったこと。名もない森の女神だったけれど、その女神がマーガレットに呪いをかけた」

神妙な面持ちでルチアは語る。「呪われたにしては元気じゃねえか。あんな風にいらいらしてんのが、呪いか」と懸は皮肉ったように言うが、 ルチアは眉を若干、顰めながらも微笑して「いいえ」と否定した。

「呪い自体は非常に厄介だけれど、マーガレット自身も強力な魔術師だから、この屋敷にいる間は、マーガレットに呪いの影響はほとんどないわ。ふつうに生活する分には、だけど」

「よくわかんねぇな。呪いで召喚したら失敗しましたってことか」

 懸がせっつくように尋ねると、ルチアは「まあ、それもあるかもしれませんが」とつないで話を続ける。

「なぜ、失敗したかと言うより、まずなぜ、そのような状況で召喚したことに対して、説明させてもらうわ。まず、一つの理由は、彼女が使用する魔法は大体が多くの魔力が必要とするせいで、今はほとんどの魔法が使えないのよ。呪いを受けてる状態でそのような魔法を使用することは致命的だから。一方で呪いを解くためには、先ほどのあなた達を元の世界に戻すのと同じように協会に行く必要があるの。つまりは情報収集のためね」

 なんとなく見当がついたので、つい口を挟さむ。

「つまり、協会に行くに当たって、手頃な魔力で済む召喚魔法が欲しかったということですか」

「ええ、そういうことよ。話が早くて助かるわ。もう少し言えば、私達の護衛と、協会での情報提供に対しておそらく何らかの代償を求めらると思っているの。そのとき、マーガレットの手足として動く駒が必要になるわ」

 駒という言葉を面と向かって言われ、道具として扱われていることに少し傷つく自分がいる。一方、懸は懸で腑に落ちないようでまだ、うーん、と唸っている。しかし俺と同じようなことを感じたわけではないらしい。

「そいつらのために魔物をやったんだろ?なんでその呪いを解くためにまたそいつらの言うことを聞いてやらなきゃいけないんだ」

「呪いを受けたのはこちらの落ち度ですし、魔獣退治の対価は退治前に決定されていますから」

 ふーん、と一応納得したようだった。ちなみに、と言って懸は問いを重ねる。

「なにもらったの」

 ルチアは茶をすすりながら「秘密です」と答えた。

「コイツ、ケチだな」とルチアに聞こえるようにこの世界の言葉で、こちらへ同意を求める。俺は苦笑いで、場を濁すことしかできなかった。ルチアはと言えば澄まし顔でカップをテーブルに置いた。

「結果としては、召喚には失敗しました。さきほど言われたようにそれは呪いのせいかもしれないし、供物、あるいは儀式のやり方が悪かったのかもね。もしかしたらマーガレットはすでに何か原因に心当たりがあるかもしれないけど」

 結局、詳しいことはわからないということなのだろう。それでもやらなければいけないことは分かった。協会へ行って、情報収集してクエストをもらってクリアといったところなんだろう。

 隣の懸といえば、カップの中身をすすって、口に出さないが、明らかにまずそうな顔をした。カップをサイドテーブルにおくと、「まあ、いいや。邪魔する奴をはり倒しゃいいんだろう」と挑戦的な顔で言った。

「そこでお話なんですが」とルチアは言葉を置いて、「お二方はお強いですか」と聞いてきた。

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