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13.自分を保つために


 五月二十四日。- Monday -


 ボクとマリアはいつものように寮から登校した。

「それではまた、休み時間に」

「ああ」

 教室の出入り口で別れたボクらは各々の席へ着席した。彼女はすぐにクラスメイトの女子に囲まれ質問攻めに遭っている。男女どちらにも人気があるが、その近寄り難い凛々しさのせいか男子たちは一歩踏み出せずにいるようだ。


 担任がガラガラと音を立て姿を見せると生徒たちは散っていくように各々の席へ向い始める。ここまでは普段と変わらなかった。担任が教室に入るとそのすぐ後を追うように見知らぬ女生徒が姿を見せた。ざわめく教室。

「うひょーまた美少女じゃねーか俺ってばラッキー」

 ──他校の制服だ。転校生か、こんな時期に。竹村は何を浮かれてるんだ。美少女なのは認めるが別にお前の得になるかどうかは別だろう。

 体系はスマートな印象を残しつつもふくよか。髪は肩より長いツーサイドアップで結ばれ瞳にはどこか力がないように見える。背中には大きな楽器ケースを背負っていた。

 人見知りなのだろうか。やや下を向いている。時折顔を上げるがすぐに俯いてしまう。

 その場の空気を断ち切るように担任が話を始めた。

「みんな静かに。先日榊原さんが来たばかりで驚くのは無理もないが新しいお友達の紹介だぞ」

「ひ、ひいらぎ 早苗さなえ、です。よ、よろしくおねがい、します」

 肩を丸めるように自身の前で手を握っているのだが二の腕から溢れた胸に思わず目が奪われる。

「女子力あんなー。うちのクラスにはいないタイプじゃね?」

 なぜか上から目線の竹村は放っておくが、確かに大人しそうだし、女々しいといえばそうかもしれない。

 彼女の座席は新たなに増設された教室後方になった。横はボクと同じ列だが生徒一人を挟んでいる。


 一時間目、ふと新入りが座る横に目を向けた。

 ──ね、寝てる?! まだ一時間目だぞ。

 彼女は両手を自身の太ももに挟みながらうとうとと眠っている。小動物が睡眠中に体温を逃がさないようにするあれなのか?

 それに気づいた隣の女子に起こされ、彼女は授業への参加を果たしたようだ。


 二時間目、世界史。さっきの件もあって気になったボクはノートへの書き写しがひと段落したところで横を覗いてみた。

 真面目にノートをとっているようだ。一生懸命ペンを動かしている。

 ──朝に弱かっただけか。よかった。……ん? ……教科間違ってる! 今は世界史だぞなんで物理の教科書出てるんだ。

 それに気づいた隣の女子に指摘され、彼女は世界史を学び始めた。


 三時間目は移動教室。各々は次の授業が行われる教室へ移動する。ボクは転校生が次の教室へたどり着けるか気がかりで、ふと彼女の机へ目を向けた。

 ──なんか弁当ひろげてる?! ち、違うよ柊。みんなが居なくなったのは昼休みだからじゃないぞ。

 それに気づいた隣の女子に教えられ、きょとんとしていた彼女は事態を把握したようだ。


 そんな感じで一日目が終わり、ボクは理解した。柊は天然なのだと。

 放課後。

 マリアに声をかけたが生活に必要な買い物があるらしくボクは一人で部室へ向かった。部室へは先輩の姿もなく、携帯を開いてみると今日は用事で顔を出せないとメールが来ていた。

 特にすることもなく、備品であるDVDの中から無作為に選んだ作品を視聴することにした。テレビアニメの劇場版らしい。

 二時間後。

「ふぅ……」

 ──可愛らしいタイトルで見やすいと思ったら内容は結構重い話だったな……。まさかあの可愛らしい動物が黒幕だったとは。帰るか。


「あ」

 寮へ戻ったボクは自室のドアの前で鍵を閉め忘れていたことに気づいた。しかし貴重品が無ければ盗まれるようなものも無く気に留めずドアを開いた。

 靴を脱ごうとすると異変に気づいた。誰かの靴が脱ぎ捨てられている。男物ではない。

 恐る恐る部屋を進むと布団が不自然に膨らんでいる。そっと覗き込むと誰かが寝ている。ボクは静かに布団をめくった。

 ──柊?! なんでボクの布団に寝てるんだ。どうする……マリアに連れて行ってもらうか。だけど買い物はもう終わってるかな……。

 寝返りを打って仰向けになった柊の格好に思わずドキっとした。着替えの途中で力尽きたのかはだけたシャツから谷間が見える。

 間もなくして彼女は重そうなまぶたを開いた。ボクを見て数秒後、彼女の目に涙がたまっていくのがわかる。

「……うう」

「ち、違う。落ち着け転校生っ。ここはボクの部屋だし、ボクはまだ何もしていない」

 今にも泣き出しそうに言った。

「ま、まだ……?」

「いやずっと! ずっと何もしない」

「そ、そう、なの……」

 ゆっくりと起き上がった彼女は座った状態で布団に包まった。そして上目遣いでボクを見た。

「な、何……する気……?」

 豊満なボディにミスマッチな愛くるしさは小動物のそれに近い。だけど見惚れている場合ではない。この状況を的確に治めなければボクの学園生活は危うい。

「待て、ボクが連れ込んだような言い草はやめてくれないか。仕方ないなぁ……クラスメイトのマリア呼んでくるから待っててくれ。女の子同士なら平気だろ」

「う、うん。待ってる……」

 ボクは柊一人をその場に残し、駆け足で部屋を出た。少ししてマリアと共に自室へ戻るとベッドの上にいた彼女の露出がさらに増えていた。無防備を通り越して挑発的ですらある。にも関わらず表情は純粋無垢、こんな調子で今までどうやって生きてきたのだろうか。

 それを見たマリアはボクと距離を取った。彼女の視線が一気に冷ややかになった。

「近づかないでください来栖様。キモチワルイ」

「だから何もしてないって」

 後でわかった話だが柊も寮を利用するらしく、部屋を間違えてボクの部屋で寝ていたらしい。

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