大地へ還る日
※ 挿絵あり ※ りこりすさん寄贈多謝!
39XX年 7月XX日
墓標のように閑かに霞む街
かつての住処
わたしたちは記憶を捨て
狂気の人々を逃れ
痩せた木のしたでふたり
躰をよせあってきた
39XX年 8月XX日
あなたはその日
愛を最後の言葉に出来て
しあわせだと遺し
わたしをおいて還っていった
わたしは最後の一人になった
蟲だけが蠢くこの世界で
** ** ** **
あなたは一人解放を迎えた
わたしは一人想出に耽った
わたしを抱いた 躰
わたしに触れた 指
わたしを這った 舌
わたしを酔わす 唇
一つずつ切り取って死肉を喰む
朽ち往く前に
過ごした日々の欠片を啄むように
少しずつ欠けていくあなたは
鉄と涙の味がした
血を掻き集めて 喉を潤し
あなたの皮に 抱かれて眠る
目が覚めれば 最後の日
躰を寄せた痩せた木に
ふたりで一つの実がぶら下がる
足下では かつてあなたを象った骨たちが
苗木のように両手を広げ
最後の実を見上げていた
ただ 慈しむように
ただ 哀れむように ……