一年で一番長い日 キリ番リクエスト はんぺんの冒険 4
「そっか、夏樹くんはがんばったんだね」
俺ははんぺんを大事そうに抱えている夏樹の頭を撫でた。黒い絹糸のような髪が、太陽の光にきらきらと輝く。子供の髪は柔らかいなぁ。
「でもね、一人でお外を歩いていたのはちょっとよくなかったかな」
「ぼく、わるい子?」
うるうるした瞳で俺を見上げる。うう。負けてはダメだ。俺が子供だった頃と今は時代が違うんだから。
「お外に出る前に、パパか葵くんか──そうだな、せめておじさんに携帯で知らせてくれれば、悪い子じゃないよ」
「ぼく・・・」
夏樹は下を向いてしまった。
「今日、夏樹くんは意地悪なお兄ちゃんにはんぺんを連れて行かれて、とっても悲しくて心配しただろう?」
「うん。むねがぎゅっとしてね、つぶれるかと思った」
大きな白い犬のぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめる夏樹。
「夏樹くんが黙っていなくなったら、パパも葵くんもおじさんも、みんな心配で胸がつぶれるような気持ちになっちゃうよ。だって、みんな夏樹くんのことが大好きだし、大切だから」
「だいすきでたいせつだから、むねがぎゅっとなるの?」
「そうだよ。夏樹くんも、はんぺんのことが大好きで大切だろう?」
子供はこっくりと頷いた。
分かってくれたか。良かった。頭ごなしに叱っても逆効果だからなぁ。
ほっと息をつきかけた時、俺はびくりと身体を強張らせた。
空気を裂く鋭い音。な、何だ? 俺は思わず夏樹の身体を抱きしめ、音の出所を見た。サカバヤシだ。
「い、今のは何かな?」
「・・・上から落ちてきたので、つい」
彼のごつい掌の中に、名残の桜の花びらがひとつ。
サカバヤシは恥じるように下を向いた。・・・夏樹と違って、そんな仕草をしたって可愛くない。
「つまり、その。動くものに反応してしまったというわけですか?」
サカバヤシは無言で頷く。
「目の端にちらりと見えたと思ったら、無意識に・・・」
「考えるより先に身体が動いてしまったんですね・・・」
これが脊髄反射というやつだろうか。それにしても、どうしてそんな状態になってるんだろう。今が一番ピークだそうだが・・・
「あの、どうしてそんなに過敏なのか、お聞きしても?」
「・・・」
サカバヤシは黙っている。なんだかその無言の存在感が、コワイ。とはいうものの、誰かを害するようなものではないのは言動からも分かる。
「俺、SPなんだ」
目をうろうろとさ迷わせながら、サカバヤシは唐突に話し出した。
「SPというと、あれですか、シークレット・ポリス? 政治家とかを暴漢や狙撃から守るという任務の?」
サカバヤシは頷く。
「今日は午後から非番になったんだが、ここ数週間ずっと対象の護衛をしていたものだから、ギリギリの緊張感が残ってる。張り詰めた神経が落ち着くまで、まだもう少しかかる・・・」
だから、人の気配が辛いのだとサカバヤシは言った。護衛対象の身の安全を守るため、SP任務中は常に気を張っている。それこそ、「寄らば、切る!」というくらい神経を研ぎ澄ませているそうだ。
「つまり、クールダウンするまで、急激な動きや音に過敏になってしまうんですね」
今はまだ、全身が臨戦態勢というわけか。




