一年で一番長い日 キリ番リクエスト はんぺんの冒険 3
それにしても、動くものと突然の物音に過敏反応って・・・
「街中を歩くには、不便な体質ですね」
俺の言葉に、サカバヤシは首を垂れた。
「群集は、最悪だ。神経が極限まで尖って、酔う。」
「もしかして、だからこんな人気のない公園にいたんですか?」
サカバヤシは無言で頷いた。
「だが、常にこんな状態というわけじゃない。期間限定だ。今が最高潮で、そのうちある程度までは薄れる」
なんだか、月の満ち欠けみたいだな。今が満月とすれば、半月くらいまでは小さくなるっていうことか?
うーん、芋満月。ふと食べたくなった。
いや、そうじゃなくて。とりあえず、どっか座ろう。近くにベンチもあることだし。さっき地面に引き倒された時の動揺がまだ尾を引いている。危険(?)からの回避行動だとはいえ、俺も夏樹もそんなことに慣れてないもんな。
「そこ、座りませんか? この子から何でこんなところにいたのかも聞かないといけないし」
俺は夏樹を抱っこしてベンチの端に座った。サカバヤシはしばらく逡巡していたようだが、反対側の端っこに腰を下ろした。何故だか居心地悪そうに大きな身体を縮こませているのを横目で見ながら、俺は優しく子供に訊ねた。
「で、夏樹くんは今日はどうして独りなのかな? パパと葵おじちゃんは?」
ここのところ、ハッキリさせておかないとな。芙蓉と葵には小さな子供を独りにするなと叱っておかないと。
「パパは急におしごとで出かけちゃった。葵ちゃんは今日はことわりきれないこんぱが入ったんだって」
夏樹のつたない説明を要約するとこうだ。
父親と叔父が出かけた後、どちらかが帰ってくるまで部屋で大人しくしているようにきつく言い含められたにもかかわらず、それに逆らって独りで外に出かけてしまったのだという。──今日は本当は、ピクニックに連れて行ってもらう約束だったらしい。
だって、窓から見たお外はぴかぴかして、とっても気持ちがよさそうだったんだもん。
子供は拗ねたようにピンクの唇を尖らせた。可愛い。けど、だからこそ危ないんだよ夏樹、今の世の中は! ロリコンショタコンの変態な大人が少なくないというのに。
もちろん、夏樹は大親友のぬいぐるみ、はんぺんを連れていた。終わりの桜を眺めながらトテトテ歩いていると、いきなり中学生くらいの少年にはんぺんをひったくられたという。からかい半分だろうが、未成年とはいえ幼児に対してあまりにも大人気ないんじゃないか。俺は憤慨した。
その後は最初に夏樹が言ったとおりだ。奪われたはんぺんを追いかけて、この公園まで来た。かえして! と叫ぶ夏樹を振り切って、性悪の(そうに決まっている!)少年ははんぺんを持ったままどこかに走り去ったらしい。きっと小さな子供をなぶるのに飽きたんだろう。
精神年齢幾つだ、まったく。
どうしていいか分からなくなった夏樹は、「どうぶつさがしのめいじんのおじちゃん」の俺に助けを求めることを思いついたらしい。俺との通話中にはんぺんを見つけたのは、まさしく「愛」だな。




