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第76話  親の愛なら大巨獣ガッパ そして天然最強。

「君が彼らと出合ったあの日──」


友人は言葉を続ける。


「高山は芙蓉の持ち出した情報の件で、双子の片割れと話し合いをしてた。ああ、話し合いに出てきたのが芙蓉なのか葵なのか、そこまで僕は知らないよ。芙蓉が女装しなければ、彼らは本当に瓜ふたつだからね」


君たちみたいにね、と友人は悪戯っぽく片目をつぶってみせたけど、俺を見るその目は、どこか寂しそうだった。


そうか、あんたは……。


覚えてくれてるんだな、俺の弟を。

哀しんでくれてるんだな、弟の死を。


けれど。


このやさしい友人にあんまり辛い思いをしてもらいたくなかったから。

俺はボケておくことにした。


「俺らはどっちかというと瓜よりもピーナツかも。ザ・ピーナッツと呼んでくれ。モスラの歌を歌おうか?」


「古過ぎるよ、それ」


友人は笑った。それから、「僕は『大巨獣ガッパ』の歌の方が好きだな」といつの時代の人間なんだか分からない答を返してきた。あんた……実は特撮オ○クだったのか?


怪獣のガッパの方が、ずっと子供思いだけどねぇ、と友人は呟く。高山が彼の息子たちに対して、冷淡だったということも知っているようだ。


「君は、彼ら親子の話し合い、というか、腹の探りあいをやってるところに突如飛び込んできた。高山にとっては衝撃的な出来事だっただろう。それは想像に難くない」


「俺、そんなつもりは……」


もし、弟と<ヘカテ>組織と高山の関係を知っていたら、俺だってもう少し用心深く行動していた、はず、だと……。


「酔ってて何も覚えていないくせに」


そう言って、友人は意地悪く笑う。俺は、う、と言葉に詰まった。


どうせ俺は一定量の酒を過ごすと記憶を無くす体質だよ。<コンパの座敷童子>だよ。


ふん!


「酔っ払いって最強だよねぇ……特に、君みたいなタイプは」


友人のやけにしみじみとした呟きは、無視することにしておく。


「まあ、そう拗ねるなよ」


友人は言う。


「高山は自滅しただけだから」


自滅? <笑い仮面>が? 意味が分からん。どういうことだ? 寂滅? 入滅? それは違うか。


無意識に眉を寄せて考え込み、ふと気づくと、友人は苦笑している。何だよ?

そして、そのままじっと俺の顔を見つめていたかと思うと、いきなり妙な質問をしてきた。


「あのねぇ、天然と疑心暗鬼では、どっちが強いと思う?」


「へ?」


意味不明。ついポカンと友人の顔を見つめていると、やつは失礼にもわざとらしく溜息を吐きやがった。


「……ああ、僕も天然には勝てる気がしないよ」


あらら、まさかの弱音。


「あんたに勝てないものなんて、あるのか?」


金持ちで、顔も頭もスタイルも良くて、性格にはちと難があるかもしれないが、臨機応変・変幻自在に機転の利くこの友人に、そんなものがあろうとは。


「あああ、もう……」


友人はまた溜息を吐いた。今度のは、やたらに重苦しかった。どうしたんだろう。何か個人的に悩んでいることでもあるんだろうか。


「もういいよ。君に謎をかけてもしょうがなかったね……」


がっくりと肩を落としている。あー、脱力する~、などと呟いている。変なやつ。


「とにかく!」


いきなり顔を上げたかと思うと、強い口調で友人は言った。

……何か、開き直ったように見えるんだけど、何でだろ?


「高山は深読みしすぎたんだよ。息子のひとりと深刻な話し合いをしていた所に、たまたま君が現れた。<ヘカテ>組織の力を持ってしても、これまでどうしても探し出せなかった君が、何故その場に現れたのか」


「え、だから、それは偶然──」


それは分かってる、と友人は俺の言葉を遮った。


「その時、一緒にいた芙蓉だか葵だかは、どうして君に対して愛想が良かったんだろう、実は以前から連絡を取り合ったりする仲だったんだろうか、とか」


「えー、初対面なのにそれはないよ。愛想良かったって、単に俺が酔っ払ってたせいだろ。後からあいつら双子に聞いたけど、親父さんとの殺伐とした腹の探り合いの、いい緩衝材になってたって聞いたよ」


だから愛想が良かったんだよ、と言うと、友人はまた大きく溜息を吐いた。


「……僕の話を聞きなさい」


睨まれた。ちょっとコワイ。


「さらにその翌日。高山属する<ヘカテ>組織の、大切な取り引きの行われる予定だったホテルにまで、君が現れたのはどうしてなのか」


「それは、芙蓉と葵が件の取り引きをぶち壊そうとひと芝居を……って、ゴメンナサイ。お話を続けてください」


どうしてか機嫌の悪くなった友人に、ひたすら平伏する俺。情けない。

でも、何で友人はこんなに不機嫌になったんだろう?


「全ては偶然なんだよ、君の言うとおり。作為的なものは何も無い。だって、君は何も知らなかった。高山の双子だって君の事情は何も知らなかった。だけど、高山は深読みしすぎて疑心暗鬼に陥ったんだ」


「深読み……? 疑心暗鬼……」


考えすぎってことか?


「ババ抜きで、見え見えの分かりやすい位置にババがあるから、普通なら他のカードを引くところを、考えすぎてわざわざババを引いてしまう、みたいな感じ?」


想像しながら言い終えてふと見ると、友人は何故か椅子からずっこけそうになっていた。え? 座ってるのに立ちくらみした?


「大丈夫か? 俺たちを助けてくれるために無理して、もしかして寝てないとか?」


心配になって立ち上がろうとしたら、足の裏に痛みを感じて呻いてしまった。そうだった、俺は今、怪我のせいで車椅子に乗ってるんだった。


「いや、これは立ちくらみじゃないから。君の方こそ、大丈夫、足?」


包帯を巻きなおそうか、と気遣ってくれる。いいやつだな、やっぱり。


「うっかり怪我を忘れて立ち上がろうとしたからさ。今朝も手当てしてもらったところだから、体重さえかけなきゃ何てことない」


俺は両足を浮かせてバタバタさせてみせ、元気をアピールした。実際元気だし、こんなのすぐ直るだろうし、心配掛けたくないもんな。


「そ、それは良かったよ……」


前髪を意味もなくかき上げながら友人は言った。

邪魔になるなら切ってしまえばいいのに。けど、そんなに気になるほど長いかなぁ?


「あー……だからって、無理しちゃダメだよ?」


気を取り直したように続ける友人に、つい俺は愚痴ってしまった。


「無理するつもりはないけど、車椅子って鬱陶しい・・・」


うーん、早く自分の足で歩きたい。


「後でちゃんと医者に見てもらうからね」


「え~、大した傷じゃないのに」


いや、ホント。縫うほどの傷は無かったし、血だってすぐ止まったし。

何となく抵抗すると、友人は怖い顔になった。


「足の裏にはツボがいっぱいあるんだよ。ちゃんとしておかないと、何かあったら困るじゃないか」


「けど・・・」


「四の五の言ってると、足ツボマッサージしちゃうよ?」


君、たしか、あれ苦手じゃなかったっけね? と友人はにぃっこり笑う。・・・<笑い仮面>の笑顔よりコワイかもしれない。俺は降参した。


「お代官様のおっしゃる通りにいたします」


へへ~!


「誰がお代官様だよ、もう……!」


あーもー天然コワイ、とわけのわからないことを言いながら、友人はバリバリと頭を掻いている。どうしたんだ、友よ。頭皮が痛むからやめておけ。ハゲるぞ。……と、思ったことは内緒にしておく。こわいから。


「ま、いいや」


今に始まったことじゃなし、って何のこと?


俺は内心首を傾げたが、その疑問は友人の次の言葉でどこかに吹き飛んでしまった。


「疑心暗鬼な深読みで自縄自縛に陥り、高山は彼の属する組織に対して秘密を持った。組織はそんな高山に不信感を持った。そして──詳しくは言えないが、組織は現在国際的に微妙な位置にいて、目立つような動きをすることが出来ない。だからこれは、千載一遇のタイミングだったんだよ」


<ヘカテ>組織の情報を開放するためのね。と友人は結んだ。


つまり、期間限定の大チャンスだったってこと?


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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