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第49話  <風見鶏>の正体は…?

「かざみどり……?」


智晴は首を傾げた。


「風見鶏、ですか? 日和見な人間みたいで、心外ですね」


「だったらお前、なんであんなに都合よく俺たちの前に現れたんだ?」


この期に及んでとぼける気か、こいつ。そう思いながら睨みつけると、智晴は何かを納得したように頷いた。


「義兄さん、多分あの人のこと言ってるんですね。あなたにはどうやら<風見鶏>って名乗ってるようですが、僕には違う名前を名乗ってますよ」


なんだ、そりゃ?


「……何て名乗ってるんだ?」


「内緒」


智晴は苦笑する。


「義兄さんは、僕がそうだと思ったからその名前を出したんでしょうが、そうでなければ口には出さなかったはずです。違いますか?」


「そ、その通りだけど……本当に違うのか?」


頷く智晴。げ、俺人違い? 禁断のハンドルネームを口に出しちゃったよ人前で。


ああ、<風見鶏>に怒られる。<風見鶏>にはきつく言われてるんだ、その呼び名も付き合いの事実も、誰にも漏らしちゃいけないって。何がどうやって彼──<風見鶏>の特定に繋がるか分からないからって……。


「僕も、あの人とあなたが知り合いだなんて知りませんでしたよ。あなたもでしょう?」


俺はぶんぶんと首を縦に振った。まさか智晴と<風見鶏>がネット友だちだなんて、考えたこともなかったよ。<風見鶏>はそんなことはおくびにも出さなかったし。って当然か。あれだけ用心深い人間だもんな。


「今回、僕を使ったのは、あの人の持っている<駒>の中で僕が一番動かしやすかったからなんでしょうね」


智晴は溜息をつく。


「別のタイミングだったら、また別の人間があなたたちを助けることになったと思いますよ、きっと……」


何となく俺たちの間に沈黙が落ちた時、芙蓉が訊ねてきた。


「その<風見鶏>とかいう人って、誰? 俺たちの恩人なんだよね? 変装セットや部屋まで用意してくれて。色んなこと知ってそうだし、一度会ってお礼を言いたいな」


俺と智晴は顔を見合わせた。何て説明したらいいんだ。あまり詳しく言ったら怒られそうだし……いや、それ以前に連絡取れなくなって自然消滅か。彼との付き合いが途絶えても、別に生活に影響するわけではないけど、ちょっと寂しいかな。


「俺は会ったことがない。多分、智晴も。な?」


「ええ。ないですね」


やっぱりな。智晴とも、きっとややこしいパスワードごしにつき合ってるんだろう。


「年齢性別全てが不明。電話の声は男だったけど、あれはいくらでも変えられるだろうし。どこの国の人間かすら分からない、謎の人物。俺たち、いや、少なくとも俺とつき合ってるのは、ただの気まぐれだよ」


そう、謎の人物ミスターX。ある時謎の運転手、ある時ニヒルな渡り鳥、あいつはあいつは大変身! 多羅尾伴内か怪人二十面相か、それとも銀座旋風児か、って、たとえが古すぎるよな、俺。……それ以前に、<風見鶏>は変身なんかしない。多分。


「会ったこともないのに助けてくれたの? 気まぐれで?」


芙蓉が不思議そうに言う。


「どこの誰とも分からないのに?」


「いや、多分……」


俺は言いよどんだ。どこまで話していいか悩む。助けを求めて智晴を見ると、ヤツは視線を逸らせて知らないふりをしてやがる。くっ、沈黙は金なりとしゃれ込むつもりだな。


「あー、あっちの方は俺の名前も居所も何もかも知ってると思う。確かめたことはないけど──」


そう、<風見鶏>は知っている。何たって<ウォッチャー>だし。そうでなきゃ、どうしてああも的確な指示を出せるんだ。……って、今まであまり考えたことなかったけど、彼って実はちょっと不気味な存在?


ま、助けてくれたんだから、何だっていいや。


「うん。あっちは知ってるだろうな。けど、俺は知らない。別に知りたいとも思わなかったし……。なんていうか、たまに公園で会う野良猫と挨拶するみたいな感じ?」


「野良猫?」


何それ? 芙蓉の目がそう言っているのが分かる。だけど、他のたとえが浮かばないんだからしょうがない。


「いや、だからさ。毎日は顔を見ないけど、たまに会うと寄ってきて、ひとしきりからだをスリスリしてきたと思ったら、また何事もなかったように知らん顔してどっか行っちゃうような猫、知らない? そういうのに似てる」


会うと挨拶するけど、会わなきゃ会わないで特に思い出しもしない。

ホント、改めて考えてみたら、<風見鶏>って猫っぽい。何考えてるのか全然分からないし。


俺が自分の考えにひとり頷いていると、智晴がぷっと吹き出した。


「本当にあなたらしいですね、義兄さん。彼が何者なのか、どういう目的で接触してくるのか、全く考えなかったんですか?」


「んー? 考えても分からないし。害は無いから別にいいか、と思ってた」


俺、たまに顔を見る野良猫と遊ぶのも好きだし。そういえば、全身真っ黒なのに足だけ見事に白足袋はいた猫、最近会わないな。元気にしてるかな。


「分からないけど、彼にとって俺は利用価値があるんだと思うよ。それと、今回最初に彼に連絡を取ったのは、実は俺の方なんだ」


そうそう。あんまり目まぐるしいから忘れてたよ。葵と、ついでに芙蓉の行方も探してくれって<風見鶏>に頼んだこと。


「何か知りたいことがあったら訊ねてくれてもいいって、以前彼が言ってくれてたのを思い出してね。頼んだんだ、君らの行方を探して欲しいって」


俺たちの行方を? と、双子は同時に顔を見合わせた。


「そうだよ。依頼されて葵くんの行方を探し始めてはみたものの、高山氏は不気味だし、写真で見た葵くんそっくりの<謎の女>が出てきて謎の言葉を残していくし……」


俺は少しだけ非難をこめて芙蓉を見た。が、彼は口元に笑みを含んでみせただけで、何も言わない。今度は<謎の男>か、ああ? ったく、この小悪魔その1め。ん? その2なのか? んとに、ややこしいな。


「何より、だ。<白いドレスの女の死体>問題があったからな。俺としては切羽詰っていたわけだ」


ここでようやく双子はすまなさそうな顔をした。

あーあ。あの悪夢がこいつらの自作自演だったとは。あんなに悩んで損したよ、全く。


しかし……<風見鶏>は、それも知っていたのかな? 


彼は、「君の知りたいことは教えてあげる」と言った。けど、俺自身が知らないことを、訊ねることは出来ない。


訊ねられなかったから教えなかった、ということなのか。

情報って、扱い方を知らなければ不便なものなんだな……。


「この二人が、あなたの探していた高山家の双子の兄弟だというのは知っています。助けに来る前、あの人から聞きましたから」


智晴は芙蓉と葵に視線を向けた。双子はそれをしっかり受け止め、無言で見つめ返している。


なんだか部屋の空気が急に濃くなったように思えるんだが、気のせいだろうか。濃くなりすぎて酸素原子が三つくっついてオゾンにでもなったんじゃあ……。 あれって実は猛毒だというし。なんだか息苦しい──。


「義兄さんもあの人に教えてもらったんですか? この二人の居所を」


くるりと智晴がこちらを向く。俺はゴクッと息を呑んだ。うっ、なんか怖い。


「いや……」


なんとか答え、俺は縮こまっていた肺を必死で動かした。大きく息を、吸って吐いて、吸って吐いて。──さっき、彼らの間に大きな火花が散っていたように見えたけど、そんなのは錯覚に違いない。


「あー、その、だな。ちょっと振り出しに戻ってみようと思ってさ。夏至の日、女の死体と一緒に目覚めたあのホテルに行ってみたんだ。『現場百回』って言葉があるだろう?」


「あなたは刑事じゃないでしょう?」


呆れたように智晴は言ったが、その表情から、心配してくれていたのがよく分かった。そりゃそうだよな、昨夜……そう、まだ昨夜のことなんだよ、智晴と話し合ったのは。


なんだか、もう何年も前のことのように思える。時空を超えて別の世界に来てしまったような。


昨夜は、まだ何も分からなかった。例の<死体>や高山父子について、どんな関係があるのか、何故俺が巻き込まれたのか、何も分からなかったんだ。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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