時じくの香の木の実 2016年12月21日 第四話
間が空いてしまいました。
短いですが、とりあえず投稿しておきます……。
この寒空に濡れた着物一枚で?
「虐待?」
「分かりません。手掛かりがありませんから。今のところは、可能性のひとつというだけです」
「じゃあ、どうして監禁されてたと……?」
根拠も無くそんなこと言うわけないとは思うけど、穏やかじゃないよな。
「手足の筋肉がね……ほとんど付いてないと医者は言ってました。ずっと寝たきりの人のように。足の裏も軟らかくて、滅多に歩くこともなかったんじゃないかと……そういった肉体的な側面から、狭い部屋に何年も閉じ込められてたんじゃないかという仮説が立ったんです」
「……」
そういえば、全体的に細かったなぁ、特に手足。女のように細かった。肌もびっくりするほど白く、今思えば、子供のように滑らかだった。あれは、閉じ込められていて陽の光を浴びていなかったから……?
「お仕事柄、あの辺りの地域にはお詳しいと思うんですが、どこかおかしいような家は無かったですか? あるいは、不審な噂」
「いやぁ……そういうのは特に……」
仕事に回る範囲の家を全部知ってるわけじゃないけど、違和感のある家も、妙な噂も聞いたことはない。せいぜい「二丁目の田中さんちの猫が仔猫を産んだんだって!」レベルだ。
「そうですか……」
「監禁、されていたとして──」
つい、“監禁”のところ、声を低めてしまう。
「鈴木さんは、あの近所の人が彼を閉じ込めていたと考えているんですか?」
「着ているものが身体に張り付くほど、びしょ濡れだったんですよね?」
「ええ、髪まで。それは救急車の人も病院の人も見てるはずです」
積んであったバスタオルで、髪拭かれてたし。
「いくら霧が濃くて人目につきにくかったとはいえ、そんな姿で遠出は出来ないはずです。公共交通機関を利用したとすれば、あの弱り方です、もっと早く保護されているでしょう。そういう意味では、近隣の家から出てきたんじゃないかと考えるのが自然だとは思うんですが……、あなたの聞いたという車のぶつかる音、それを考慮に入れると、どこか遠方から連れて来られたという可能性も出てくるわけです」
そこで放り出したか、逃げ出したか、と鈴木さんは考え込む。
「こんなこと言うのは怖いんですけど……、車で人を運んできて放り出すって、こんな街中じゃなくてどっかの山の中とかじゃないんですか?」
「それは何とも言えません。様々な動機、そこに至るまでの状況、千差万別ですよ。事故にしても、時々信じられないような原因で起こったりしますから」




