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2016年8月16日の<俺>  送り火 中編

『何でも屋の<俺>の四季』に投稿したつもりでこちらに誤爆した話を削除し、あちらに投稿し直しました。

「ここ、どうして通行止めになってるんですか?」


雨合羽姿の警備員さんに聞いてみる。


「ああ、この先の坂道の法面(のりめん)が崩れたんだ。車が一台巻き込まれてねぇ」


「えっ?」


俺は思わず声を上げていた。法面というと、坂道の脇の、あのコンクリートブロックで固められた斜面の壁のことだよな。まさか、数日前にも通ったばかりなのに……。顔色を悪くした俺に、警備員さんは苦笑した。


「いや、ドライバーは無事で怪我も無し。ただ車が大破した。さっきレッカーが引いて行ったところだよ。後続車が無くて本当に良かった」


それを聞いて幾分か気が楽になったけど。続きを聞いて血の気が引いた。


「これが歩行者や自転車なら、崩れた土砂に埋もれて酷いことになっただろうね。崩れる直前にこの道を通ったという奥さんも真っ青な顔してたよ。ちょうどここまで来たところで轟音と急ブレーキの音を聞いたって。それがほんの二時間くらい前のことなんだからねぇ」


人間、何時どこで何があるか分からないよね、と言う警備員さんにうんうん頷きつつ、迂回路を聞いて礼を言い、とぼとぼ智晴の待つ車に戻ると、呆れられた。


「雨の中出て行かなくても……迂回路ならカーナビがあるのに」


「そうだろうけど、うん……」


本当は聞かなくても、俺だってこの辺りの道は分かるんだ。でもさ──。


「俺もわりと通る道だから、何で通行止めなのか気になったんだよ。あそこ、少し行くと結構な勾配の坂道になってるんだけど、その法面が崩れて、車が一台巻き込まれたんだって」


ハザードの音を聞きながら、俺は警備員さんから聞いたことを伝えた。


「崩れたって、え? そんなことになってたんですか?」


滑らかに車を発進させながら、智晴も驚いている。


「ドライバーは無事で良かったけど、車は大破だって。ってことはだいぶ崩れたんだろうな……。いや、それがさあ……」


ゆっくり動くワイパーを見ながら俺は続けた。


「今からほんの二時間くらい前のことだっていうんだよ。もし、自転車がパンクしてなかったら、俺、ちょうどそれくらいの時間に法面が崩れたっていう坂道に差し掛かってたはずなんだ。それを考えると、何だかなぁ……」


ふう、と大きな息をついてしまう。人間、一体どこで何があるやら。まさに一寸先は闇。智晴も黙り込んでいる。今日はもしかして、この元義弟だってうっかり巻き込まれてたかもしれない。それを思うと──、怖いな。


「天災とか、こういうのっていつ起こるか分からないから避けようが無いけど、智晴も気をつけてくれよ。事故とかさ」


気をつけてても、どうにも出来ないことだってあるだろうけどさ。


「義兄さんこそ、気をつけてくださいよ。うかうかと大怪我でもしたら、ののかも姉さんも悲しみます。二人を泣かせたら承知しませんからね」


ふん、と智晴は鼻を鳴らす。


「きっと今日だって──さんが」


死んだ俺の弟が、俺を助けてくれたに違いないと智晴は言う。


「義兄さんぼーっとしてるから、崩落の気配なんかに全然気づかないだろうって。それで仕方なく自転車をパンクさせたんですよ、きっと。僕だって、今日は別にこっちに来る予定じゃなかったんです。それが、突然約束がキャンセルになって時間が空いたと思ったら、まるで狙いすましたかのように、この近くに住んでる大学時代の友人から電話がかかってきたわけですよ、旅行土産もあるし、時間があるなら久しぶりに遊びに来ないかってね。これもきっと──」


ふう、と智晴は息をついた。


「まあ、分からないですけどね。──本当に義兄さんは弟たち(・・・)に心配ばかりかけるんだから、もう」


でも今日のは仕方がないから、ののかと姉さんには黙っておいてあげますよ、と智晴は言った。<弟同盟>を組んだ誼ですからね、と片目だけちらっとこちらを見て悪戯っぽく笑う。


「……」


お前も俺の弟を忘れずにいてくれるんだな。──ありがとう、智晴。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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