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2008年1月18日の<俺>  一年で一番 寒い 日 1

「何かする時は、電源は必ず切る。コンセントを抜く。そう教えましたよね?」


智晴が溜息をつく。


「お、教わったけど・・・」


教わったけど、やっちゃった。パソコンの電源。アダプタのコンセントを挿したまま、本体側で抜き挿ししたら、パシっという小さな音とともに何やらきな臭い臭いが・・・それ以降、画面は真っ暗。


慌てていったんコンセントを抜き、ちゃんとした手順でやり直したのに、パソコンはうんともすんとも言わない。焦った俺は、つい携帯で義弟に助けを求めたのだった。いや、だって。俺、機械オンチだし。


「まさかこんなことになるなんて思わなくて・・・」


もごもごと呟く俺を、智晴がジロリと睨みつけた。


外は雪。ブラインドの隙間の向こうはすっかり鉛色。窓から伝わる冷気が、冷たい。今の智晴の視線とどっちが冷たいやら。


「急がば回れ、という言葉は知ってますよね?」


あああ、声まで冷たい。まるでブリザードだ。見えない雪嵐に押されるように、俺はこくこくと無意識に頷いていた。


 「面倒だからと手順を守らないからこうなるんです。下手に近道しようとするから、足を踏み外す」


おっしゃることはよく分かりましたから。お許しください、智晴大明神。


「わ、悪かった」

「僕に謝られても、困るんですけどね」


はぁっ、と智晴は苛立たしげに自分の前髪をかき上げた。


「で、その・・・これはどうすれば」


いいのですか、智晴様。


思わず、縋るような視線を向けていたかもしれない。智晴は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「・・・そんな眼で見たってダメですよ。僕が少しばかりこういうのに詳しいから呼んだんでしょうが、僕にだって出来ることと出来ないことがあるんですよ。あなたの説明が要領を得ないんで分かりませんでしたが、これは完全に機械的な故障です」


き、機械的な故障ってナニ? もう直らないってこと? マウスをカチカチやったり、キーボードをダダダッと叩いたりしてもダメなのか?


「壊れたのが本体か、アダプタか・・・ 確認するには、同型のアダプタが必要だな」


溜息をつきつつ、智晴は呟いている。

よく分からないながら、俺はおののいていた。そんなにマズイことになっているのか?


「これはもう、専門店に持って行くしかないですね」

「そ、そうなのか?」


そうですよ、と智晴は冷たく答えた。


「餅は餅屋、という言葉があるでしょう? だいたい、ここには必要な機器がないですしね」


そういうものなのか・・・

俺は項垂れた。


「だけど・・・このノートパソコン、かなり前のだから、適合するアダプタがまだあるかどうか・・・」


智晴がまた不吉なことを呟いている。


元はといえば、俺の不注意が原因なんだが、俺には理解出来ない部分でひとり納得している智晴を見ていると、何だか理不尽な怒りが湧いてきた。


「もういい、分かった」


「何が分かったっていうんです?」


アダプタをためつすがめつしながら、上の空で智晴が答える。パソコン本体への差込口の形を見ながら、何か考え込んでいるようだ。


「餅は餅屋だっていうんだろ? だから餅屋に行ってくる」


「餅屋って・・・」


呆れたような顔に、またムッとする。俺も修行が足りないぜ。って、修行なんかしたことないけど。







そんなわけで、俺は今電気屋にいる。


智晴の言うところの、「餅は餅屋」。家電(で、いいよな? パソコン)のことなら電気屋へ。


が。今、俺の心には今冷た~い木枯らしが吹き荒れている。


耳に銀色のピアスをじゃらじゃらつけた愛想だけはいい店員が、俺には謎の器具で調べてくれたところによると、ノートパソコン本体は壊れていないらしい。一瞬喜んだ俺だが、本当に瞬き一つ分の喜びだった。


「お客さん、申しわけないんですが、このタイプのアダプタ、うちでは置いてないんですよ」

「え? でも、パソコンは壊れてないんですよね?」

「そうなんですけど・・・」


店員は毛先の荒れた茶色い前髪をばさっとかき上げた。困ったな、というような顔をしている。何をそんなに困ってるんだ、青年!


「壊れてないんだから、コンセントに繋げばいいんでしょ?」

「いや、だから」


店員はさらに困った顔をした。何だ何だ。だんだん不吉な予感がしてきたぞ。


「コンセントに繋ぐには、このパソコンに合ったアダプタが必要なんですよ。他のアダプタじゃダメなんです」


「え・・・」


そんな。


「CDプレイヤーのアダプタはダメなんですか?」


俺の持ってる丸いプレイヤーには、四角いアダプタが付属していたはずだ。


「ダメですね」


店員は頷く。


「テプラのアダプタは?」

「それも、ダメです」


店員は無情にも首を横に振った。


うなだれる俺に、店員は色々説明してくれたが、俺にはちんぷんかんぷんだった。だから、俺は機械オンチなんだってば!


「・・・とにかく、インプットとアウトプットが許容範囲でないとダメなんです。合わないのを無理に使うと、下手をしたら火を吹くことになりますよ」


さり気なく脅しつつ、店員は小さく溜息をついていた。かなり憔悴しているようだ。ごめんよ、俺だって悪気は無いんだよ。だけど、分からないものはしょうがないじゃないか。


うう。

季節はずれもいいところですが、つづく……。


ポイントとブックマークをありがとうございます。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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