表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/308

2008年9月25日の<俺>   携帯電話の恐怖 10

武力による戦争よりタチが悪い。

ある意味、それは真理かもしれないな。


俺は<風見鶏>の言葉に頷いていた。


「ペンは剣よりも強し」という言葉があるが、「剣」が「瞬間」でしかなく、その場限りで消えてしまうのに対し、「ペン」はいつまでも記録として残すことが出来る。そして、いかようにも編集が可能だ。その意味では、ペンは確かに剣より強いと言えるだろう。


弱者を強者に、被害者を加害者に。真実を歪め、正直者を嘘吐きにし、嘘吐きを正直者にする。


情報操作。


恐ろしい。先の戦争でも、敗戦国であるドイツは、かなり酷い情報操作をされていたという話を<風見鶏>から聞いたことがある。日本も然り。針ほど小さいものを棒ほど大きかったと言われたり、偽りの映像で捏造されたり。嘘の中傷から来る風評被害は、今も生きている。


そういった情報操作に踊らされないためには、正しい情報が必要だ。<風見鶏>の言うことは正しい。


チャット画面を見ながら考え込んでいると、<風見鶏>からの新しい書き込みがポン、と反映された。




 風見鶏  さて、風。君は今夜はもう寝るといい。

      明日も朝早いんだろう?


 風    うん。犬の散歩が入ってるからな。

      ・・・何で俺の予定を知ってるかなんて、もう

      今更聞かないけどさ。


 風見鶏  それは残念。君の知りたいことなら、

      何にでも答えてあげるのに。


 風    遠慮する。なんか怖いこと聞かされそうだから。




・・・こいつ、今、絶対に笑ってる。俺は浮かび上がる文字をむっつりと眺めていた。ま、いいけどさ。何たって、相手は<風見鶏>だし。




 風見鶏  さて。君が寝てる間に、私は私のやり方で戦略を

      練ることにするよ。




君の知り合いに、二度と変な電話が掛かってこないようにしてあげる。

<風見鶏>はそう請合ってくれた。









翌日。


グレートデンの伝さん、ボクサーのグレイ君と大型犬の散歩を続けてこなし、いったん戻ろうと、俺は事務所までの道のりをほてほて歩いていた。


朝起きて外に出た時は薄着を後悔したくらい寒かったが、犬たちのお伴で二回も公園めぐりをしたから、今はちょっと身体が火照っている。あー、喉渇いたかも。ほどよい温度の番茶が飲みたい。


お茶の葉、まだあったけ、とか考えながら足を動かしていたら、向うから野本君が歩いてくるのが見えた。きちんとリクルートスーツを着込み、A4サイズが楽々入りそうな黒のバッグを持っている。そういえば、今日も面接だって言ってたっけ。


「おはよう、野本君」


俺が声を掛けると、彼はちょっと驚いたように、それでもしっかり挨拶してくれた。うん。俺が面接官だったら、絶対採用だな。


「おはようございます」


「スーツ、決まってるよ。面接、頑張ってね」


「あはは。洋服の○山で買ったリクルート・セットだけど、今はこれが戦闘服って感じかな」


苦笑しながら、若者らしい爽やかな柄のネクタイを引っ張る。ん? ノットの作り方がちょっと変かも。


「電車の時間、まだ大丈夫かな? ちょっとネクタイ、結び方が・・・」


解いて、結び直してやった。自分でやるのとは向きが違うからやりにくいけど、リストラされるまで長いこと慣れ親しんだ手順は、手が覚えている。


「あー、ありがとうございます。僕、ぶきっちょなんですよね。バンド仲間には、そんなに不器用なくせに、何でギターだけはちゃんと弾けるんだって不思議がられたくらいで」


へへ、と照れくさそうに笑う野本君。


「そのうち慣れるさ」


「慣れる頃には内定もらえてるかなぁ・・・」


そう呟く声が、不安に揺れている。


「もらうんじゃなくて、勝ち取るんだ! ハッタリかまして来い!」


思わず檄を飛ばしてしまった。


「うん。そうだよね・・・。野本三等兵、頑張ります!」


野本君は、ぴし、と敬礼の真似をする。俺も答礼してみた。

そんな俺たちは、一瞬後には噴き出し、そして大笑いしていた。

次は約ひと月半後に時間が飛ぶので、今日はここまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ