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2008年9月25日の<俺>   携帯電話の恐怖 9

 風見鶏  ここで説明してあげるのは簡単だけど、自分で調べ

      みてごらん。色々面白いことが分かるから。


 風    そうなのか・・・?


 風見鶏  ヒントをあげようか。

      マスコミに、ある犯罪が取り上げられたとしよう。

      昔だったら、必ずその犯罪の容疑者の氏名、年齢な

      ども報道されたものだ。

      だけど、今は何故か犯人の名前だけがが報道されな

      いことがある。あれはどうしてだと思う?


 風    え・・・?




そういえば、テレビニュースなんかを見ていて、殺人事件なのに「あれ? 今のやつ、犯人の名前は?」と首を傾げたことが何度もある。殺人でなくても、同じような罪状なのに、実名が報道される場合と、そうでない場合があって、あれはどういう基準なんだろう? と首を捻ったことも。




 風見鶏  新聞を読み比べてみるのも楽しいよ。

      容疑者は同一人物なのに、新聞によって名前が違った

      りするしね。


 風    え、ええ? 何でそんなことが・・・




まさか、ペンネームとか、ハンドルネームとか、そういうのを書いてる新聞があるんじゃなかろうな。成人犯罪の場合は、実名報道のはずなんじゃあ?




 風見鶏  君は気づいてないみたいだけど。

      世の中には、「ある」のに「ない」、または

      「ない」のに「ある」とされていることが、

      いっぱいあるんだよねぇ・・・




<風見鶏>は謎々のようなことを言う。

一体、どういう意味なんだろう? 考えているうちに、新しく打ち込まれた文字が現れる。




 風見鶏  あの法律はね、結果的に悪人に隠れ蓑を与えてし

      まったんだよ。その影に隠れて、悪事を働くた

      めのね。まともな人間のためには、あまりなっ

      てはいないね、結局。




だって、保険の勧誘だの、リフォームのおすすめだの、マンション購入ご案内だの、そういう電話はちっとも減らないだろう? 

<風見鶏>は言った。・・・うーん、確かにそのとおりだ。




 風見鶏  そういった業界に何らかの「名簿」が流れている

      のは確実だ。つまり、「個人情報」なんて呆気

      なく洩れてしまうということ。笊に掬った砂粒

      みたいにね。




そして、「個人情報保護」というカーテンによって自分たちの素性を隠した犯罪者たちが、「洩れた個人情報」を、振り込め詐欺を初めとする様々な犯罪に利用しているのだと<風見鶏>は続ける。




 風見鶏  非通知のワン切り、あれがその代表的なものだと

      言えるだろうね。

      どこの誰から掛かってきたのか分からないけど、

      リダイヤルすると電話は変なところに繋がり、

      後から大金を請求される。犯人の姿は一切見え

      てこない。なのに、その犯人からは被害者の姿が

      丸見えだ。




ぞくり、と背中が冷えた。


のんびりと草を食む羊の群れを、狙う狼。けど、羊たちは風下にいる狼たちに気づきもしない。羊飼いにも危機感がない。──そんな情景を想像してしまったのだ。


俺も野本君も、その羊の群れのうちの一匹、ということになるんだろうな・・・




 風見鶏  まあ、そんなに怖がることもない。

      羊だって、用心してれば逃げることが出来るし、

      逆に、狼に蹴りを入れたり頭突きをかましたり

      逆襲することだって出来るんだから。




必要なのは、正しい情報だ。そう<風見鶏>は言う。




 風見鶏  振り込め詐欺でも、そういう詐欺がある、と知って

      いるのと、知らないのとでは、対応の仕方が全然違

      ってくるはずだろう。


 風    そうだな・・・ だけど、どうして振り込め詐欺の

      被害が減らないのかな。




ついこのあいだも、振り込め詐欺に引っかかってATMから振込みをしようとしている女性に対し、行員が1時間もかけて説得したのに、それを振り切って百十何万円かを振り込んでしまった、という事件があったな。


「息子」から「会社の金を横領した。監査が入ったら首になる。だから母さん、二百万振り込んでくれ」と電話があったらしいんだが、もっと息子を信用してやれよ・・・




 風見鶏  あれだけ警戒を呼びかけられているのに、耳を貸そ

      うとしない人が多いのが原因のひとつだろうね。

      自分だけは引っかからない。そんなふうに思って

      るんだろうけど。


 風    でも、引っかかるのにな。




いきなり「警察」や「弁護士」から電話がかかってきてパニックしてしまうのは俺にも分かる。だけど、「警察が示談金の話をする」のはおかしいと思わなくちゃならないし、弁護士を名乗る相手が「今すぐに示談金を払えば・・・」みたいなことを言っても、それは異常なことだと分からなくちゃいけない。


だって、電話だぜ? 普通、そういう話は顔を合わせてするだろう。


ああいうのには本当に色んなパターンの手口、というか「設定」があるらしいけど、最大の特徴は、性急に金を振り込ませようとすることだ。そこに違和感を持たなければ。そのためには・・・




 風    ・・・やっぱり、知らなくちゃいけないことを知ら

      ないのがいけないんだな。情報って、本当に大切

      なものなんだ。


 風見鶏  そうだよ。

      We want information. 武力による戦争はなくても、

      情報戦は常にある。目に見えない分、わかりにくい

      が、個人的には、情報戦、情報操作、そっちの方が

      タチが悪いと私は思っている。 


これを書いていたのは2008年のことです。



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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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