2008年9月25日の<俺> 携帯電話の恐怖 4
「闇金なんかがね、多重責務者から本人の携帯を取り上げたり、新たに契約させたりして手に入れたものを、高額で売るんです。買った人間は、それを使う。もちろん、匿名で。で、何に使うかっていうと、当然──」
「オレオレ詐欺とか、変なテレクラとか、そういうのに使われるんだな?」
「そう。それに、不法滞在の外国人もそういう携帯を欲しがります。正規の手続きを踏まずに違法にこの国に滞在しているわけだから、自分名義の携帯なんて持てないし。高いお金を出してまでそれを欲しがるのは、やっぱり犯罪目的としか考えられない」
このあいだ、「実録!警○庁24時!」でそういうのやってたんだよね、と野本君は弱々しく溜息をつく。
「・・・君は、善良な市民だよ。どっからどう見ても、真面目なシュウカツ学生だ!」
俺は落ち込んでいる野本君の肩を軽く叩き、励ました。
確かに、犯罪者仲間(?)みたいに言われたら、誰だって嫌だよなぁ。
夏休みで帰省する前までの彼は、長めのゴールドの髪にブルーのメッシュ、耳にはシルバーのピアスをじゃらじゃら、黒のインナーに同色の細身のパンツ、シルバーのウォレットチェーンを飾った腰には、鋲打ちのベルト、というようなパンク? か、びじゅある系? な格好で自己を表現しつつ、バンド活動に勤しんでいたようだったが。
今の彼は、元の色に戻した髪はさっぱりとした短髪、ピアスは無し、今日は外出の予定はないのか、ヨレたTシャツにジャージー姿だ。会社訪問や説明会に赴く際には、黒のリクルートスーツを着用するという。まるで別人。
が、彼が真面目であるということは間違いない。大学にも真面目に通っていたようだし、帰省前までのハデな格好だって、真面目にバンド活動をやるためのものだった。
そして今、彼なりの転機を迎え、性格もそのままに、真面目に就職活動を行っている。
いい青年じゃないか。
どこのどいつだ、将来ある若者に不気味な電話を掛けてくるやつは!
「野本君、それ、履歴残してるかい?」
「いえ・・・気持ち悪いんで、つい削除しちゃいました」
野本君はまた雑草の根っこを弄りだした。
この部分だけ、雑草の根は根絶したな。また近くから伸びてくるだろうけど。
「あー、うーん、気持ちは分かる。電話ってさ、メールと違って何ていうか、ダイレクトだもんなぁ」
「そうなんですよ! 得体の知れない相手と回線が繋がってて、その時はリアルタイムで会話をしてるわけで、つまり、同じ時間を共有してるわけですよ。もう、気持ち悪くて不気味で気味悪くて・・・!」
「そうだよなぁ。そんなんとの繋がり、残しておきたくないよな」
「そうですよ! 一番最近の電話では、『その携帯、どこでいつ頃買いましたか?』とか聞かれたんですよ!」
「うわ、それは・・・」
不気味だ。
「まさか、そんな質問に答えたりは・・・」
恐る恐る訊ねる俺に、しかし、野本君は即座に否定した。
「しません! 見ず知らずの人間に、そんなこと答える義務は無い! って言って即切りました」
「だよね。それが正解だよ」
俺はほっとした。
──相手の知らない情報を、わざわざ教えてやるは愚の骨頂。相手が知らない、ということを自分は知っているわけだから、それを利用して撹乱せよ──
・・・これは、インターネットに溢れる情報の奔流の真っ只中に有りながら、それでも己を見失わず、必要なものとそうでないものを取捨選択しつつ、ただひたすら冷静にその膨大な情報の監視を続けるという<ウォッチャー>のひとり、<風見鶏>の言葉だ。
ちなみに、<風見鶏>とは、俺専用の識別ネームで、他の人間、例えば、俺の元義弟である智晴にはまた別の識別名を名乗っているらしい。
それはともかく。
「でもさぁ、野本君・・・」
「はい」
「それって、本当に間違い電話、なのかなぁ・・・」




