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2008年9月25日の<俺>   携帯電話の恐怖 1

整理整頓のため、引き続き『何でも屋の<俺>の四季』からこちらに移します。元のタイトルは

「ある日の<俺> 9月25日。携帯電話の恐怖」です。全く同じ話なので、既読の方はスルーしてください。


2008年の話です……

初めて買った携帯電話が、怖い。


すずかけ荘の住人、野本君が言った。


すずかけ荘とは、平成の世に、よくぞこんな建物が! な、木造二階建てアパートだ。学生・独身者向けで、風呂ナシ、トイレ共同。一階と二階合わせて六畳一間の部屋が八室と、角部屋で少し広い八畳の部屋が二室で、全十室ある。


レトロすぎるこのアパート、恐ろしいことに(?)一室除いてその全てが埋まっているらしい。


大家さんは、アパートの隣のこれまた古びた木造の、こぢんまりした家に住んでいる。建物と建物の間には猫の額ほどの庭があって、桜と楓の木が植えられてあった。


桜は、花見の頃はいいが、葉桜になってくるとやはり毛虫が湧くらしい。「洗濯物についてたことがあって、気絶しそうになりました」…そう話してくれた野本君は、現在大学三回生。シュウカツに向けて、このほど携帯電話を持つことにしたらしいのだが。


「ケータイが怖いって、どうして? 使い方が分からないなら、同じ機種を持ってる人を探して、聞いてみたら?」


「いや、そういうんじゃなくて…」


野本君は雑草の根っこをちまちまとむしっている。狭いくせに草ぼうぼうの中庭の草むしりを大家さんから依頼されたのは俺なんだが、顔見知りの野本君が何故か手伝ってくれているのだ。


「もしかして、電話は掛けられるけど、切り方が分からないとか?」


恥ずかしながら、それは自分のことだ。初めて携帯電話を持った時、記念すべき初電話を妻に掛けたはいいが、通話を終えた後、どうやって切っていいのか分からず、道行く兄ちゃんを捕まえて、「ど、どこを押したら電話切れるんですか?」と必死の形相で訊ねたものだ。・・・何とかプランとかよく分からなかったから、電話代がコワかったんだよ。


「いえ。取り扱いマニュアルは一晩かけて熟読したので、操作上の不安は無いです…」


さっくり答えてくれる野本君。


う。


「そ、そうだよね。電話の切り方が分からないなんてこと、ないよね。うん!」


あはは~! と思わず笑って誤魔化す俺。

どーせ俺は機械オンチですよ。トリセツだってちんぷんかんぷんでしたよ。ふーんだ!


…ダメだ、俺。いいトシして拗ねちゃ。しかも、相手はまだハタチの若者じゃないか。気を取り直そう。


「携帯本体が問題じゃないっていうなら、あれかな、変な電話が掛かってくるとか?」


非通知で着信一秒とか、どっから番号手に入れたんだか何かの勧誘電話とか、オレオレ詐欺系とか。


俺の携帯にも妙なのが掛かってくることがあるけど、非通知は無視するし、勧誘はすぐ切るし、オレオレ詐欺系は今のところ経験したことはない。「何でも屋」という仕事柄、知らない番号だろうと出ないわけにはいかないけど、その分、妙な電話のスルー・スキルは上がったかも。


「変な電話っていうか・・・」


野本君は言いよどんだ。


「うん?」


だからどうした。早く答えるんだ、野本君。そこまで根っこを掘り出さなくていいから。


「間違い電話、だと思うんですけど・・・」


ひげ根まで引っこ抜きながら、野本君は話し始めた。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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