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2015年元旦の<俺>  狛田さんと不思議な狛犬 5

──次に気づいた時、私は病院のベッドで寝ていた。なんでも、丸一日目を覚まさなかったらしい。母に泣かれ、父に怒られ、正月なのに散々だったよ。存命だった祖父にも叱られた。


叱られながら聞いた話によると、どうやら私は池に落ち、溺れたらしかった。


今はもう埋め立てられて無くなってしまったんだが、昔は公園と裏山の間に溜め池があってね、ひとりで家に帰る途中、持っていた凧が強い風に煽られ飛ばされたのを追いかけて、足を滑らせたらしいんだ。


助けてくれたのは、公園の近くに住んでた小母さんだった。家でお餅を食べながらテレビを見ていたら、外から尋常ではない犬の鳴き声が聞こえてきたという。


不審に思って外にでると、見知らぬ犬が二匹いて、そいつらが小母さんを案内するみたいに振り返り振り返り歩くんで、着いていったら池で私が溺れていたからびっくりしたそうだ。


幸い、岸に近くて、こんな時のために溜め池の端に備えてある浮き具も届いたし、私は小柄な子供だったから、小母さんの力でも引っ張り上げることが出来た。


朦朧としながらも、私は自力で水を吐き出したらしいんだが、そうして咳き込んでいる間も二匹の犬は吠え続けたので、様子を見に来る人が増え、それぞれ救急車を呼んでくれたり、毛布を持ってきてくれたり、私の家に連絡してくれたりした。


だけどねえ、私はそのことを殆ど覚えていなかったんだ。


凧の修理を諦めてひとりでとぼとぼ帰ったこと、それは覚えている。だけど、後は赤い花の咲く道と、小さなお社と鳥居、そこで一緒に遊んだ二人の男の子たちのことしか思い出せなかった。


だから私は、両親に言ったんだ。


家に帰るはずが、気がつくと知らない道を歩いていて、鳥居のある小さなお社にたどり着いたこと。そこで弟と同じ年頃くらいの男の子二人と遊んだこと。持ってたうまうま棒をあげたら、お返しにそれまで飲んだことのないくらいとても美味しい甘酒を飲ませてくれたこと。


飲ませてもらった後、男の子たちに「おにーちゃんは今日死ぬはずだった」と言われたこと。その次の瞬間水の中にいて、犬の遠吠えを聞きながら気を失ったことを……。


そこからいきなり病院のベッドの上で、何がなにやら分からない、と泣きながら訴えると、両親よりも祖父が慌てた。どんな道だったのか、どんなお社だったのかと訊ねてくる。道の両脇に赤い花が咲いてたとか、お社も鳥居も前に祖父に連れられて行った神社より小さかったとか答えていたら、祖父はさらに訊ねてきた。


鳥居の前に狛犬は居たか? と。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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