2015年元旦の<俺> 狛田さんと不思議な狛犬 2
「……やった!」
緊張から開放された俺は、思わずガッツポーズをしていた。良かった、無事くっついたみたいだ。知らぬ間に滲んでいた汗を拭い、満足の息を吐いた。
一仕事終え、清々しい気持ちで狛犬の護る鳥居を潜ると、小さなお社があった。こちらも狛犬同様古びていて、由緒ありそうなたたずまい。
よし! 初詣だし、お賽銭を弾んでおこう! ……百円じゃ弾んだって言えないかな、やっぱり。ならば五百円玉を……五百円はちょっと痛いなぁ……。あれ? 賽銭箱が無い。
「……」
無いとなると、それはそれで何か落ち着かない。どうしようか……。あ、そうだ! 確か、ポケットに……。おお、あったあった。
ビスコにチロルに梅のど飴。昨日、大晦日最後のあがき(?)でお得意様の間を駆けずり回ってたら、あちらこちらでこういうのもらったんだ。ソフトさきいかなんかもあるけど、これは野良猫が荒らしそうだから止めておく。
個別包装は便利だよなぁ、と思いながらビスコたちをお社の正面にお供えして、さて、と。
二礼二拍手一礼。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
今年はいい年になりそうだ。そんなふうに思いながら上体を元に戻し、閉じていた眼を開けると──
「はへ!」
次の瞬間、俺は奇声を上げていた。止んでいた風と雪が、どっと顔に吹きつける。
「え? え? え?」
無い無い無い。さっきまであったはずのお社が、無い。振り返る。鳥居も狛犬も無い。消えてる。周囲は林。ただの林だ。あっちにたまに伝さんと通る散歩道があって、その道を辿ると公園に行き着く。見慣れたはずの、場所。
パニックに陥りながら、俺は無意識に時計を見た。一時間はここにいたはずだ、台座から落ちていた狛犬の玉を元に戻すのに、それくらいの時間は掛かっているはず。それなのに、吉井さんちを出てから五分ほどしか進んでいない。
時計が遅れてるのか? そう思って携帯を見ると、そちらも同じ時間を示している。
一体、何がどうなってるんだ?
呆けていたら、雪がぺしっと顔に当たった。──冷た痛い。
「……」
俺はとぼとぼと歩き出した。伝さんとの散歩のお陰で身体は暖まっていたはずなのに、冷えてきた。寒い。
歩きながらついさっきまでのことを思い返してみるけど、考えれば考えるほど訳が分からない。俺、もしかして寝ぼけてたのかな……今朝は布団から離れるのに苦労したっけ。夕べは遅かったし……。
……
……
狐に化かされた、とか。
白昼夢ならぬ白朝夢を見ていた、とか。
次元の隙間、とか。
ドッキリなアレ、とか。
……脳の病気、とか。
うわあ。それが一番怖い。血管が切れるとか詰まるとかそういうのだったらどうしよう? 正月明け、精密検査とか受けた方がいいかな。頭が痛いとか何も無いところで躓くとか、そういうのは今まで無かったけど、でもな。
眼の病気という線もあるかも……と、独り静かにパニックしながら歩く俺に、声を掛ける人があった。




