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2015年元旦の<俺>  狛田さんと不思議な狛犬 1

グレートデンの伝さんとの朝の散歩の帰り。

伝さんを送り届けた後、きつい風と時折叩きつける雪の中を、ひとり肩をすぼめて歩く。


正月くらいはゆっくり寝ていたいもんだけど、お得意様に頼まれたらなぁ……。飼い主の吉井さん、夕べちょっと腰を痛めたらしい。二年参りに出掛けようとして、玄関先で滑って転んだんだそうだ。大したことはないそうだけど、超大型犬の散歩は、そりゃぁなぁ。


賢い伝さんはリードを引っ張ったりしないけど、それなりに距離を歩くし、道中何があるか分からない。腰は要、大事を取った方がいい。どうせ俺、正月は何の予定も無いしなぁ。クリスマスには娘のののかが来てくれたけど、年末年始は元妻に連れられて海外だし。


……寂しくなんか、ないぞ! ちょっと寒いだけだ。早く帰って餅でも食べよう。昼間から酒も飲んでやる! 年末に元義弟のくれたあの地酒、知る人ぞ知る銘酒らしいし。猪瀬のお婆ちゃんにもらったカズノコと、田部さんがくれた栗入り伊達巻と……


お得意様たちのお裾分けのお陰で、わりとリッチなひとり酒盛りに思いを馳せていると、ついさっきまでびゅーびゅー吹いてた風が、ふっと止んだ。雪だけがふわふわふわふわ落ちてくる。


誰もいない、音の無い世界。


須臾の間、空を見上げて俺はそこに立ち尽くしていた。


「エアポケット……?」


独り呟いて苦笑した。早く帰って酒の用意しよう、と一歩踏み出した時、俺は公園に通じる林の入り口に見慣れぬ鳥居があるのに気づいた。


こんなところに、神社があったっけ?


ふわふわふわふわ落ちてくる雪。しんしんしんしん静まり返る。

俺はぼーっとその古びた石の鳥居を見ていた。


せっかくだから、ここで初詣して行こうか? そう思いつき、俺は鳥居を潜り抜けた。


かさこそと枯れ葉を踏みながら進むと、もうひとつ鳥居。その前に、阿吽の狛犬。この狛犬もかなり古いなぁ。


ん? 


風化が進んでわかりにくいけど、阿形の狛犬の、足の下の玉が崩れ落ちてるみたいだ。台座の下にそれらしき丸い石が落ちてる。うーん、拾って元に戻しておくか? ボーリングの玉の半分よりまだ小ぶりだし、台座も俺の腰くらいの高さだし。


あ、そうだ!


俺はウエストポーチを探った。確か、瞬間接着剤を入れっぱなしにしていたはず。──おお、あった! 持ってると便利なんだよな、これ。昨日も頼まれて車のサイドミラーの縁が欠けたのをくっつけたし。落ちた玉も、ただ元に戻して置くだけよりはいいんじゃないかな。


うん、そうしよう。


俺は狛犬の足と台座と玉の破断面を確認すると、ぞれぞれの部分を手袋代わりの軍手で擦った。ごみや埃を取り除いて、接着剤が効きやすいようにするためだ。何かを塗る前には必ずその部分をキレイにする。これ基本。


んー、ブラシがあればもっときれいになるんだけどなぁ。仕上げにタオルで拭けばいいか。っと、よし。OK、きれいになった。では、玉を持ち上げて、と。接着面確認。台座、よし。狛犬の足、よし。玉を台座で支えて瞬間接着剤塗布。乾く前に、セット!


くっついたか? 手を離さず、しばらく様子を見てみる。……大丈夫かな? そっと手を離す。そーっと、そーっと……

「2014年12月22日 朔旦冬至の日の<俺>」を削除しました。

詳細は活動報告にて。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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