2011年4月 ののかと<俺>と桜の花びら 2
「それから、じこしょうかいしようとしたら、その子、前からあたしの名前知ってくれてたみたいで・・・」
──知ってるよ、となりのクラスの、ののかちゃんでしょ?
──うん。どうして知ってるの?
──あなたのクラスに、しずかちゃんて子いるでしょ? あたし、あの子と
はおさななじみなの。しずかちゃん、よく言ってるわ、同じクラスにの
のかちゃんて子がいて、とってもいい子だって。
──あ、ありがとう・・・なんだかはずかしいな。ねえ、あたしとも友だち
になってくれない?
「ののか?」
急に黙り込んでしまった娘に、俺はそっと呼びかけた。
「パパ、あたしね」
「うん?」
「あたし、あの子とお友だちになりたかった。でも、なれないっていわれたの。・・・転校するからって」
「そっか・・・」
「あのね、もっと小さいころはこのあたりに住んでたんだって。でも、その子のパパのお仕事のつごうで、小学校に上がる前、かぞくで九州に引っこしたっていってた。去年の春、せっかくまたしずかちゃんちのおとなりにもどって来られてうれしかったのに、急にまた引っこすことになったって。だから、お友だちにはなれないって・・・」
その子、東北のほうに引っこすんだって、言ってた。
──そう続けるののかの声は、こころなしか沈んでいた。
「じしん、おきたあと、心ぱいになってしずかちゃんにきいてみたの、あの子が、東北のどこに引っこしたのか。・・・そしたら、しずかちゃん、泣きだした。あの子ね、みやぎ県に引っこしたんだって。海に、海に近い、けしきの、とってもきれいなところに・・・」
「ののか・・・」
「津浪に、さらわれちゃったんだって。その子の、パパも、ママも、お兄ちゃんも。みんな、ゆくえふめいだって・・・」
「ののか!」
見開いた目から、静かに静かに涙をこぼし続けるののかを、俺は抱きしめた。
とたん、声を上げて泣き出した娘の小さな背中を、俺はただ撫でてやることしか出来なかった。
──ののかちゃん、今はお友だちになれないけど・・・
──うん・・・
──でもね、引っこし先でおちついたら、お手紙書くね。しずかちゃんにも言っといてくれる? 三人でぶんつうしようよ。えっと、そうだな、桜が咲いたら! あっちでも桜が咲いたらお手紙書く。待っててね。
──うん。待ってる!
桜の花が、咲いたらね。
全ての災害の犠牲者と、残された方たちへ。
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自分用メモ
前 ある日の<俺> 4月9日。 松ぼっくり地蔵
後 ある日の<俺> 5月14日。 13日の金曜日




