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2011年4月 ののかと<俺>と桜の花びら 1

整理整頓のため、「何でも屋の<俺>の四季」からこちらに移します。元のタイトルは「2011年4月 ののかと<俺>と桜の花びら」です。全く同じ話なので、既読の方はスルーしてください。


東日本大震災で亡くなった方々に対する哀悼の気持ちをこめて書きました。

離婚した元妻と暮らしている娘との、四月最初の面会日。

──なんか、無理してはしゃいでるな、とは思ってたんだ。


遊園地へ連れて行こうと思ってたのに、パパとお花見したいから、近くの公園がいいっていうし。


一緒におむすび握って、甘い玉子焼きとタコさんウィンナー、うさぎリンゴを弁当箱に詰めて。手を繋いで、いつもグレートデンの伝さんやセントバーナードのナツコちゃんと散歩に行く公園へ行ったんだ。


桜がきれいだった。


広い公園のあちこちに、薄紅のソメイヨシノや白っぽい山桜が、沢山の花を咲かせてる。


その中でも特に立派な古木の下にレジャーシートを広げ、ふたりして座り、おむすびをほうばった。


ののかは俺の作ったシークレットの「十六本足のタコさんウィンナー」に笑い、ちょっと焦がしてしまった玉子焼きに笑い、ふたりで作った三角なのか俵なのか分からないおむすびに笑い転げる。


かと思えば、遠くの桜をぼんやり眺めていたりする。


何だろう。何かあったんだろうか。


こころ密かに案じていた時、ざぁっ、という音を立て、びっくりするほど強い風が公園を吹き抜けていった。


桜の花びらが、吹雪のように舞い落ち、舞い上がる。


美しい。そうとしか言いようのない光景に魅せられ、一瞬心を奪われそうになっていた俺だが、娘の声で我に帰った。


「ねえ、パパ」


「ん? どうした?」


「うん・・・」


ののかの眼は、花びらの舞いに向けられている。風はまだ止まず、木々の梢の揺れる音がする。


「あのね・・・ちがうクラスだったから、その子のこと、顔くらいしか知らなかったの」


奇妙に平坦な声で、ののかは話し始める。

俺は黙って聞いていた。


「その日、まだ二月で、とっても寒かった・・・校ていの桜の木も、まだ冬のままで・・・いつになったら咲くのかな? 咲いたらパパとお花見行こう、とか考えながら歩いてたら、あたし、ころんじゃった」


痛かったなぁ、そう呟くののかの瞳は、舞い踊る桜の花びらの行方より、もっと遠いところを見ているようだった。


「下校のとちゅうで、わすれもの取りにもどってたから、その時あたしひとりだった。ひざはすりむくし、ランドセルのふたが開いてなかみが全部おっこっちゃうし、あたし、泣きそうになった。すりむいたとこ、そんなにいたいわけじゃなかったけど、なんでかな、すごく泣きたくなったの」


でも、すぐそんな気持ちどっか行っちゃった、とののかは言う。


「だって、だれかがランドセルのなかみを拾ってくれてたの。ぐちゃぐちゃになったノートや教科書をそろえてくれて、すりむいたとこから砂はらって、キティちゃんのばんそうこうはってくれた。ほうか後でもうだれもいないって思ってたから、あたし、うれしかったの。とってもうれしかったの」


だから、「ありがとう」って言ったの。ののかは続ける。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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