翌年かその年の<俺> ある双子の兄弟 芙蓉と葵 4 終
「あ」
仲睦まじい親子の後姿を見送っていた俺は、ふといい事を思いついた。
ふふふ・・・
「夏樹く~ん! ちょっと待って!」
声を掛け、俺は数歩二人を追いかけた。
「おじさん、なぁに?」
返事しながら、ちょこちょこと戻ってきてくれる。可愛いなぁ。
「葵君との男と男の約束、パパには内緒だけど、おじさんには内緒じゃないよね?」
そう言って、その場に立ったままの芙蓉に、にやり、と笑いかけてやる。
「えーと、えーと・・・」
訝しげな父親の顔と、にこにこ笑いかけるおじさんの顔を交互に見比べる夏樹君。
「葵君、おじさんに話しちゃいけないって言わなかっただろう? だから、葵君の<社会見学>の理由、教えてくれないかな? おじさん、彼を励ましてあげたいんだ。パパには絶対言わないよ。内緒にする。だって、男と男の約束だもんね」
悩む子供。畳み掛ける悪い大人。
「ね?」
子供の目線にしゃがみこみ、内緒話を教えてよ、とばかりに耳の後ろに手を当ててみせる。
「えーとね・・・」
悪い大人の手管に引っかかり、夏樹君は俺の耳元でこしょこしょと話してくれた。くすぐったい。
「・・・なんだって。葵ちゃん、そういってたんだよ」
「そうか・・・偉いなぁ」
俺は今聞いたばかりの葵の決意に感心していた。彼も、やっぱり兄思いなんだな・・・
「ちょっと!」
怒った声に顔を上げると、芙蓉が仁王立ちしていた。しゃがんでいた俺と夏樹君を見下ろす彼の背後から、「ゴ、ゴ、ゴ・・・」とかいう効果音が聞こえてきそうだ。
「分かったよ、夏樹君。葵君に、がんばって、って、言っておいてね」
大魔神と化しつつある芙蓉に気づかないふりをして、俺は無垢な天使のような子供の頭を撫でた。
「うん!」
「じゃ、パパと一緒に公園へ、行ってらっしゃい!」
「うん! ぼく、すべり台すべるの。ひとりですべれるようになったんだよ」
「すごいなぁ。パパに手を振ってあげてね」
「うん! 行こ、パパ!」
にこにことそう言って、夏樹君は父親の手を取り、走り出す。
「あんまり急いだら転ぶよ~?」
俺は笑顔で手を振った。
・・・今の芙蓉の顔。すっごく悔しそうだったな。ふふ、ふふふふふ。いつも俺をいじって楽しみやがって。たまには俺にも楽しませろ!
心の中で快哉を叫んでいたら、幼い息子の走るのに歩調を合わせていた芙蓉が、きっ、とこちらを振り返った。
覚えてろよ。
彼の唇がそう動いたような気がして、俺はぞっと寒気がした。
や、やりすぎたかな?
一卵性の双子として生まれた弟を亡くした<俺>は、同じく一卵性双生児の兄弟・芙蓉と葵を応援しているつもり。