翌年かその年の<俺> ある双子の兄弟 芙蓉と葵 2
「そう来る? ま、いいけどね」
くすっ、と笑う声。楽しそうだなぁ、おい、芙蓉。
・・・突っ込むのはよそう。口では勝てないし。
「で、今日はどうしたんだ? 葵君は?」
気を取り直して訊ねる俺に、芙蓉も話題を切り替える。
「葵はバイト。今日はコンビニだって。バイトなら、うちの店でやればいいって言ったんだけど、昼間の世界も見ておきたいって言われたら、兄としてはね・・・」
芙蓉はちょっと寂しそうだ。
芙蓉と葵は一卵性双生児だ。事情があって、数年別れて暮らしていた。紆余曲折あってようやく一緒に暮らせるようになった時、芙蓉は弟のためにとにかく色々したかったようだが、それに甘えすぎることを、葵は良しとしなかったらしい。
「学費だけは自分で稼ぐって聞かないんだ。生活の面倒は見てもらうことになるけど、ごめんね、なんて言われるとさ。兄としては、寂しいんだよね、すっごく」
確かに、俺たちは同い年の兄弟なんだけどさぁ、とぼやき、ふう、と息をつく。これは・・・芙蓉にしては珍しく落ち込みモードなんだろうか。
「葵君、今年大学四年だっけ? 就活とか大丈夫なのか?」
「うん・・・何だか、専門職を目指してるみたい。バイトの合間に、何かの試験勉強してるらしいんだけど、それが何なのか、まだ教えてくれないんだよ」
「・・・一卵性双生児ってもさ、兄の立場って色々難しいよな」
俺と弟の場合は、弟の方がものすごく優秀だったからなぁ。俺の方が弟に心配掛けてたり。
だけど、俺は弟のことが心配だった。弟の方が俺よりずっとデキる人間だったとしても、兄ちゃん、幾つになっても弟は庇護しなきゃ、と思っちゃうんだよ。
ま、俺は反対に弟に庇護されてたけどな!
・・・ふん。俺より先に死んでしまいやがって。
あ。思い出すと落ち込む。
ってことで、俺は芙蓉に同情した。要するに、「もっと兄ちゃんを頼ってくれよ」ってことなんだよな。それ、良く分かる。
「まあ、同い年だから分かってると思うけど、っていうのも変だけど。彼ももう二十歳超えた大人なんだからさ」
「うん・・・」
「見守ってやりなよ」
「うん・・・」
抱き上げた息子の腹のあたりに、顔を半分埋めて律儀に頷く芙蓉。
俺は何だかその頭を撫でてやりたくなった。
だってさ。普段は魔女(?)のようなこいつが、健気に思えてきたんだよ。
十五や十六で家を追い出され、戸籍上も死んだ者扱いされてさ。それでも、いい女に拾われて、愛し愛され、夏樹君という可愛い子供まで儲けて、ひととき、幼い頃からの憧れだったろう暖かい家庭を築いた芙蓉だけどさ。
その間も、ずっとずっと弟のことを案じていたんだ。父の家に残してきた、たった一人の弟、己の半身を。