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別の年の<俺>  お兄ちゃんと呼ばれたい 前編

「おにいちゃんCD」の存在を知った時、思いついたネタです。

可愛い女の子の声が、ひたすら「おにいちゃん」と呼び掛けてくれるCDです。ひと言「おにいちゃん」というだけでも、その抑揚のあまりの多彩さに感動を覚えるくらいです

「だからね、俺、<お兄ちゃん>って呼ばれてみたいわけですよ」


力説する相良君。大学三年生。


「こう、可愛い声でですね、はにかむように<お兄ちゃん>。いいなぁいいなぁ。ちょっと勝気な感じの女の子に<兄貴>なんて呼ばれるのもいい。舌足らずな幼女に<にいちゃ>なんて呼ばれようものなら、幻の鼻血が出ちゃうかも」


相良君、君はこれから就活用のスーツや靴や小物を買うお金を貯めるため、バイトに行くんじゃなかったのかね?


「俺、一人っ子だから、そういうの、すっごく憧れるんですよ。妹欲しい」


「それをどうして俺に?」


「いや、何でも屋さんって時々子供を連れてるでしょ?」


「あれは塾やらの送り迎えだよ。仕事なの、仕事。だいたい、俺にロリコンの趣味はない」


相良君、キミ、もしかして危ないヒトだったのか? 返答によっては今後の付き合い──というほどのものじゃないけど、接し方を考えないといけなくなるよ。でないと、こっちの信用に係わって来るからな。冷たいようだが。


「仕事柄、小学生の男の子や女の子と接することは多いけど、どちらからも、お兄ちゃんとかお兄さんとか呼ばれたことないな。一律おじさん呼びだよ」


「そうなんですか・・・」


何だか残念そうな相良君。

もう君のこと、心の中で不審者認定していいかな?


俺の冷たい目に気づいたのか、相良君は慌てて付け加えた。


「いやいや、俺、ロリペドとかじゃないです! ただ<お兄ちゃん>って呼ばれてみたいなぁ、とか思ってるだけで。小さい子なら、何も考えずに<お兄ちゃん>って読んでもらえるかな、とか思っただけで!」


「だとしても、よそ様の大切な子供さんを預かる立場の俺としては、何の関係も無い君を意味もなく近づけたり、紹介したり出来ないよ」


今の社会情勢分かってるのかな? 親切心で迷子を保護したら、警察にドナドナされたなんて不幸な人がいるというのに。


「まあ、君もさ、妄想ばっかりしてないで、現実を見た方がいいよ。本当にただ単純に女の子から<お兄ちゃん>呼びされたいってだけにしても、自重しないと。誰もがそういうのに理解があるわけじゃないんだから」


──ちょっときつい言い方をしてしまったけど、俺にだって、娘がいるからな。


夢と現実。この二つにはきっちり区別を付けてもらわないと困る。でなけりゃ、世間の認識的には幼児性犯罪者予備軍だ。いくら頭の中だけの話なんだと言い訳しても、自分の子供がそんな目で見られて平気な親はいない。百歩譲って想像するのは自由だとしても、それを口に出してもらいたくはない。


「・・・すみません。内輪ノリを外に出しちゃ、やっぱりダメですよね。友人たちと馬鹿話してて盛り上がってしまったもので、つい」


しょぼん、としてしまった相良君。


「分かってもらえたなら、もういいよ。俺だって君が実際に子供に声かけまくったりするなんて思ってないから」


信じてるよ、と続けようとした時。


「お兄ちゃん!」


そう、呼ぶ声が聞こえた。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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