別の年の<俺> 父の日 4 終
「終」を付けるのを忘れたので、付け直し。
次の話は「父の日」のおまけ話です。
<風見鶏>が智晴に言付けた伝言は、「昨日の夕方の犬の散歩時、公園で出合った犬友達たちの犬種を教えて欲しい」というものだった。・・・相変わらず、何に役立つのかよく分からない。
「俺が連れてたのが伝さん、というか、グレートデン。それから、あー・・・ゴールデンリトリーバーが一匹、柴犬が二匹、ミックスが二匹、ドイツシェパードが一匹、パピヨンとロングコートチワワがそれぞれ一匹、あと、珍しくアフガンハウンドも一匹いたなー。新顔かな。それと、エアデールテリアとウェルシュコーギー。これも一匹ずつな」
「ひとつの公園で、そんなに出会うものですか?」
智晴はちょっと驚いているようだ。俺は頷いてみせる。
「最近、<わんこ銀座>の異名を取りつつあるよ。あの公園、広いし。ま、昨日はちょっと多かったかもな。──それより、智晴覚えられた? メモしようか?」
「いえ、大丈夫です。録音済み」
そういう指示だったんですよ、と、智晴はスマホを振ってみせた。
録音するならひと言声掛けろよ、と思ったけど、まあいいか。
「これで<風見鶏>の用は足りたのか?」
「足りた、と思います。……彼の考えることは、僕にも良く分からないんです」
ゆるゆるとかぶりを振りながら、智晴はそう言った。全くもって釈然としない、という表情だ。俺もうんうんと頷いていた。今回だって、どういうつもりで公園を散歩する犬の種類なんか聞いてきたのか、全然分からない。
「分かるのは、趣味が悪い、ってことだけだな」
「確かにね」
くすっ、と智晴は笑った。
「なあ、<風見鶏>って、智晴にはまた違うふうに名乗ってるんだよな?」
「ええ、まあ」
でも、義兄さんには教えられませんよ、と智晴は言った。
「コードネーム、ですからね。彼が一方的に押し付けてきたものですけど。義兄さんは<風>でしたっけ」
いつかの夏の事件がきっかけで、智晴は<風見鶏>の名を知っているし、<風見鶏>が俺に付けた名前も知っている。
「ああ。俺が<風>で、あいつが<風見鶏>。いつも思うけど、何でなんだろう」
俺が首を捻っていると、何故かやたらに慈悲深い顔で智晴はこう言った。
「きっと、風っていうのは、ただ吹いてるだけだからでしょうね」
何だそれ。やっぱりよく分からない。
後日。
差出人不明の郵便が届き、中には少し離れた街にあるプラネタリウムのチケットが入っていた。七夕に合わせたイベントの前売り券らしい。手紙も何も入ってないけど、俺には分かった。きっと<風見鶏>からの礼だ。いわゆる情報提供に対しての。
二枚なのは、「娘さんとどうぞ」ってことなんだろう。父の日にののかと会えなかったことをヤツは何故か知ってたから、仕切り直しにちょうど良いチケットをプレゼントしてくれたんだ。
相変わらず、怖いほど気が利く。
あの日、「俺の意表を突くための伝言係」をした智晴が<風見鶏>とどんな約束をしてたのかは知らないけど、デイトレで大きな損を出さなくて済んだらしい──。よく分からないけど。
ののかは翌々日には風邪から完全復活して、俺に電話をくれた。智晴が撮っていったTシャツ面白ポーズ、ウケたらしい。・・・元妻にもウケたそうだ。
──父の日には会えなかったけど、パパはいつだって、ずっとずっと毎日ののかのパパなんだからね!
元気な声が耳元に蘇る。
ありがとう、ののか。