別の年の<俺> 父の日 2
ふと気づけば、ずっと同じ数のままだった総合評価の値が増えてました。
やっぱりうれしいものですね。読んでくださり、ありがとうございます。
俺は間抜けな声を上げていた。
撮影会? 若い女の子が海辺で水着、みたいな?
唐突な提案にぼーっと首を傾げる俺を無視して、智晴は足元に置いていた紙袋から何やら嵩張る包みを出してきた。
「どうぞ。ののかちゃんから、父の日のプレゼントです」
その言葉が耳に入ったとたん、俺の瞳は一万ボルトくらいの輝きを放っていたに違いない。
若干震える手で包みを受け取ると、破らないようにそっと可愛いラッピングを解いていった。中から現れたのは──
「Tシャツ・・・」
そう、Tシャツの詰め合わせ(?)だった。全部で七枚もある。
あ、カードが入ってる。
──パパ、いつもお仕事お疲れさまです。夏は着がえがたくさんあるほうがいいよね。だからプレゼントはTシャツにしました。毎日着てね。ののかより
「・・・!」
俺は感嘆の溜息をついた。ああ、ののか。お前はやっぱり俺の天使だ! 今日会えなくても、どこにいても、どんな時でも、その存在だけで俺を癒してくれる。
そして、改めて思う。ののかを産んでくれて、本当にありがとう、元妻。それから、ののかを可愛がってくれて感謝しています、お義父さん、お義母さん、智晴も。ののかがこんなにいい子に育っているのは、あなたたちのお陰だ。
情けない父親の、身に余る幸せを、しみじみ噛み締め味わっていると、智晴がパン、と手を鳴らした。
「はいはい。うれしいのは分かりますけど、そろそろ準備してください」
「へ? 準備?」
「だから、そのTシャツを一枚ずつ着て、ポーズ取るんです」
何やら無茶を言ってる元義弟は、このデジカメのレンズの向こうに、ののかちゃんがいると思ってくださいね、と付け加えた。
七枚のTシャツ、広げてみると。
一枚目。太陽系柄。フルカラー、軌道付き。
二枚目。バージェス動物群柄。
三枚目。髑髏柄。背中にジョリー・ロジャー。
四枚目。謎柄。ヴォ○ニッチ手稿?
五枚目。マンボウ柄。
六枚目。奈良市円満寺に残る算額。真ん中の六角形のやつ。
七枚目。文字+イラスト柄。「月月火水木金金」文字の下にカレーライス。
・・・
・・・
あ、ありがとう、ののか! 見たことない柄ばかりで、パパうれしいな!
だけど、その。どう言ったらいいのかな。
あの、えっと。その。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、マニアック、かな?
「どうかしましたか、義兄さん?」
「え? な、何が?」
「ののかちゃんの選んだTシャツ、マニアックとか思ってませんよね?」
ぎくっ。
「そ、そんなことは・・・!」
「いえ、いいんですよ、マニアックで」
しらっ、と肯定する智晴。なんですと?
「ののかちゃんがね、姉さんに相談したわけです、父の日のプレゼント、今年はどんなのがいいかなあ? って。毎日使うものがいいんじゃない? という助言を元に、この季節、即戦力になるTシャツに決まりました」
お、おう。確かにTシャツは即戦力だとも!
俺がぶんぶん頷くと、智晴は先を続けた。
「次に、どんな柄がいいかなぁ、とネットショップをあちこち調べて悩むののかちゃんに、さらに姉さんがアドバイスしたんです、個性的なのがいいわよって。お客さんとの話題づくりに役立つし、変わった柄のTシャツを着て歩いてたら、声も掛けてもらいやすくなるかもしれないからって。つまり」
つかみ、OK。
それを狙ったんです。
澄ました顔で、智晴は言った。マジで? 気を取り直して改めて解説を頼んでみたところ・・・。
次回、Tシャツの柄について謎(?)解き。
※本日二度目の投稿です。