別の年の<俺> 父の日 1
子供の日からいきなり父の日に飛びます。
今日は父の日。そして日曜日。
元妻と暮らす娘と、特別な日に会えるチャンス!
というか、会う予定だった。
ののかも楽しみにしてくれてたのに・・・
「なんで智晴なんだ・・・」
「・・・御挨拶ですね、義兄さん」
元義弟の智晴が、不機嫌そうに眉を顰める。
「ののかちゃんは風邪。そう言ったでしょう」
「聞いたけど・・・うう、ののか・・・」
俺は合皮のボロソファに突っ伏した。
・・・浮き出たスプリングに額をぶつけてしまった。ちょっと痛い。
「・・・熱は酷いのか?」
褪せて傷んだ合皮に目を落としたまま、問う。
「酷い、というほどのことはないようですが、ね」
智晴は続ける。
「今朝、妙に顔が赤いんで、姉さんが熱を測ってみたらしいんです。ののかちゃんは嫌がったそうですが。そしたら微熱よりちょっと高いくらいの熱が出てたらしくて」
「かわいそうに、ののか・・・」
何もしてやれぬ己の不甲斐なさを嘆いていると、もっと痛い爆弾が落とされた。
「どうやらね、パパに会いたいがために、前の晩から体調が悪いのを隠してたらしいんですよ」
「っ・・・!」
俺はのろのろと顔を上げ、ソファに座りなおした。
「俺のせいだ・・・このところ、面会日をあの子の休みの日に合わせてやれなかったから・・・」
ごめんよ、ののか。何でも屋なんていう究極の(?)自由業やってるくせに、パパ、請けた仕事の配分が下手で。ここ数ヶ月、なんでかどうしても土日祝日のどこか半日以上を空けることが出来なかったんだ。平日はののか、学校だもんな・・・
「はい、落ち込まない!」
項垂れる俺の後ろ頭をぴしりと張るような、智晴の声。
「ねえ、義兄さん」
呼び掛け、一旦息を吸うと、智晴は畳み込んだ。
「『ののかちゃんに会えなくて、パパ落ち込んでたよ』なんて報告していいんですか? ただでさえ『風邪なんか引いちゃったののかが悪いんだもん・・・』と自分を責めてしまってる健気な娘を、これ以上突き落とすような真似して、いいと思ってるんですか?」
「良くないです!」
反射的に答えていた。座ってるけど気分は直立不動。・・・なんか、元妻に似てるよ、智晴・・・。やっぱり姉弟だからか?
「良くないと思うならば、自己嫌悪でうじうじするのは止めてください」
「だけど、ののかは何にも悪くないのに・・・」
ついぐずぐずと紡いでしまう俺の言葉を遮るように、ぎろりと睨まれた。
「誰も悪くありません。間が悪かっただけです。本当に、もう・・・落ち込むと自分で穴掘って埋まりに行こうとするその悪い癖、止めたんじゃなかったんですか?」
う・・・ぐうの音も出ない。元妻にも昔、同じようなこと言われたなぁ。
「だいたいね、義兄さん。小さな女の子ならともかく、いいトシしたオッサンがチワワみたいにウルウルしたって、可愛くも何とも無いんですよ」
切れ長の眼が、冷た~く俺を見る。うっ、ブリザード!
「す、すみませんでした!」
「分かればいいんです」
俺の謝罪に、智晴はふん、と鼻を鳴らした。
「さて、これから撮影会をしますよ」
「へ?」
子供の日と父の日の間の出来事は、よろしければ「何でも屋の<俺>の四季」のほうでどうぞ。
http://ncode.syosetu.com/n5805bw/